<東日本大震災から5年>福島原発放射能漏れが暗い影、17万人が故郷を離れたまま―広がる「復興格差」、特区制度で産業・観光振興を!

八牧浩行    2016年3月11日(金) 8時10分

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東日本大震災から5年。1万9千人近い死者・行方不明者を出し、今なお約17万4千人が避難生活を余儀なくされている。この5年の教訓を復興に生かしたいが、その道のりは遠い。原発事故による深刻な影響もあり、「復興格差」が広がっている。資料写真。

未曽有の東日本大震災が発生した2011年3月11日から5年。1万9千人近い死者・行方不明者を出し、避難生活での体調悪化などで亡くなった震災関連死約3400人を合わせると犠牲者は約2万2千人。今なお約17万4千人が避難を余儀なくされている。この5年の教訓を復興に生かしたいが、その道のりは遠い。原発事故による深刻な影響もあり、「復興格差」が広がっている。

 

被災地では今、かさ上げされた新たな街や施設が宮城県を中心に次々と完成しているが、リアス式海岸線の多い岩手県では土地のかさ上げ工事が長引いて、人影がまばらな地域も多い。5年の歳月が流れ、被災地の復興には格差が目立つ。

特に復興が遅れているのが福島第一原発事故が発生した福島県。漏れ出した放射線によって、住民と大地は深い傷を負った。5年経った今でも、約10万人がふるさとを離れたまま。広大な地域が立ち入り禁止となり、「無人の街」と化している。避難者は「正月を自分の家で過ごせない状況が5年も続いているのは辛い」と訴える。

原発事故後のチェルノブイリと福島を撮り続けている写真家・中筋純氏は、原発事故被災地の浪江町を訪れた際、「人の気配はなく、カラスの鳴き声と、破れたトタン屋根の軋(きし)む音だけが響いていた。時とともに町の息吹であった人々の生活感は抜けていき、まるで抜け殻が転がっているようだった」と語る。「放射能は人間の営みとか土地の歴史とか人間のつながりをすべて強制終了させてしまう」とし、「事故から年月が経つと放射能とか補償とか分断され、社会全体がイメージを共有できない状況がある」と懸念。「1986年4月26日の旧ウクライナ共和国・チェルノブイリ事故も同じであり、放射能被災地に行くたびに、恐ろしさに圧倒される」と力を込めた。

◆深刻な「風評」被害

福島県の人口は震災前の202万から11万人も減少し、192万人となった。深刻なのは「風評」被害。外務省が韓国ソウルで企画した東日本大震災の復興イベントは、2日目になって急きょ中止に。関係者は福島復興の絶好のアピールと考えていたので大きなショックを受けた。

農作物などの「風評被害」について、「中通り」の中心都市・郡山市の品川萬里市長は「残念ながらまだ解消しておらず、福島県産というだけでやめたという反応も少なくない」と顔を曇らせた。

福島県の内堀雅雄知事は「最大の課題は福島第一原発の廃炉だが、世界の専門家でも溶融燃料がどこにどれだけあるか分かっておらず、うまく対策が立てられない。把握するためにロボットを使ってチャレンジしているが、高い放射線レベルの炉の中では、ロボットによる作業でさえも困難。半導体は放射線に弱いので、数時間で動けなくなってしまう」と慨嘆。「世界の英知を結集して取り組んでもらいたい」と訴えた。その上で、「風力など再生可能エネルギー開発に注力し、2040年ごろには、県内電力需要の100%を賄うことを目標にしている」と強調とした。

◆隠ぺいされた「メルトダウン」

安倍首相は2013年の東京五輪招致の演説(アルゼンチン。ブエノスアイレス)で、原発汚染水状況を「アンダーコントロール(管理下にある)」と世界にアピールした。原子力規制委員会の新基準についても国会で「世界一厳しい」と持ち上げた。しかし、メルトダウン(炉心溶融)状態だったことが最近になって判明、5年近くこの深刻な事実を隠ぺいしていたのだ。このままでは廃炉もままならない。

復興が最も遅れているのが、福島第一原子力発電所の周辺地域である。避難指示が出された区域のうち、指示が解除されたのはまだ2割弱。 除染が進み、2017年3月までには一部地域で住民が戻れるようになる見通しだが、「帰還困難区域」では除染作業すら始まっていない。双葉、大熊、浪江などの町役場は、今なお他の自治体に置かれている。

◆子どもの健康を懸念、帰還できず

一方で、区域内では原発事故の後始末が長引き、除染で生じた汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設も計画されている。全地域で除染し、全員帰還を目指すのが理想だが、その実現は困難視されているのが実情。避難先で既に就職していたり、病気がちで生活をやり直すことが困難だったりする「戻らない被災者」問題だ。避難指示地域でなくても、乳幼児・児童を連れて遠方に移り住んだ家族が多かったが、その大半は子どもの健康を懸念し、帰還していない。

被災地では産業再生もままならないケースが多い。内陸部への工場立地は増えたものの、地場企業の多くは震災前の売り上げを回復していない。被災地が自立するためには、復興特区制度のような政府の支援策が必要だ。もともと過疎地域が多いので地域活性化策も不可欠。風光明媚で温泉も多い地域なので、外国人など観光客の積極的な受け入れも一案だろう。津波や原発事故で被害を受けた施設を計画的に保存し、学習施設などを併設すれば、観光の目玉にもなる。

こうした中、宮城県名取市では、大津波によって消滅した海岸林や田畑を再生する事業が進行している。この再生計画を推進する吉田俊通・公益財団法人オイスカ(OISCA)啓発普及部副部長と櫻井重夫「名取市海岸林再生の会」副会長によると、大津波により壊滅的な被害を受けた海岸林を再生するために、民間ベースでクロマツ約50万本の育苗・植栽を行っている。「森づくりには人づくりが不可欠と考えており、人々に頼りにされる森にしていきたい」と力を込めた。3年前に植えたクロマツは1メートルほどに育ち、一面砂漠のようだった海岸に緑が甦りつつある(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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