如月隼人 2018年11月30日(金) 1時0分
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日本語では「挑戦」の語が、「記録への挑戦」といったように、自分から何かの目標に対して努力することを表すことが一般的ですが。中国語では「外部から受けた、解決すべき難題」というニュアンスで使われます。資料写真。
ただ、この辞書でも「挑」の字義として「静かにしているものを引っかけて起こす」と書かれているのを知ったのは収穫でした。現代中国語でも<挑 tiao1>には「より分けて選ぶ」という意味もありますから、「引っかける」というところでイメージが共通しています。
さて、<挑戦>について辞源を調べてみます。原文の中国語は省略して日本語訳をご紹介すると「敵が戦いに出ることを扇動/挑発する」となります。用例としては、紀元前の前漢時代には成立されていたとされる春秋左氏伝を引用しています。「挑戦」の語が、相当に古くから使われていたことは間違いありません。
それでは現代漢語詞典を調べてみます。日本語訳すれば「敵を故意に激怒させ、敵に戦いに打って出させること」などと書かれています。
ここまで調べると、中国語の<挑戦>には「平穏だったところに、相手を挑発して対立行動をとらせること」のニュアンスがあることが分かります。<挑戦>という状況が発生しているのは、決してよいことではありません。だから、「自ら望んだわけではないが、こういう状況がもたらされた。こちらは受けて立つ」との文脈で使われると解釈できます。この点、日本語の「挑戦」に「目標を立て、実現のために努力する」という肯定的なイメージがあるのとはずいぶん違います。
ですから、中国語の<挑戦>を日本語でそのまま「挑戦」としてしまうと、イメージの齟齬(そご)が発生してしまうわけです。そのためか、中国語の<挑戦>を、あえてあっさりと「課題」と訳してしまう例も見受けられます。例えば、前記の1番目の例文は「アジア太平洋の協力プロセスは多くの課題に直面することになる」と訳してしまう方法です。
日本語としては違和感がなくなるのですが、「課題」という語は「内部の原因により発生した問題」も含んでしまうので、「他者との関係において発生した」とのニュアンスが消えてしまいます。中国語で書かれた内容を日本人向けに紹介する際に、このあたりは実に難しいのですが、私は「挑戦」という言葉は残し、必要を感じるなら「××から突きつけられた挑戦」などと言葉を追加して、日本語としてもできるだけ円滑に読めるようにしています。
まだ試したことはありませんが、中国語の<挑戦>を日本語では「挑発」とするのがよい場合があるかもしれません。中国語の<挑戦>を日本語訳の際にどう処理するかは、私自身も模索中です。「これはよい」と思える汎用性ある方法を見つけることが、今の私にとって「(日本語的な意味での)挑戦」と言えそうです。
ピンインの表記について:本コラムでは中国語を<>の中に、日本語の常用漢字の字体で表示しています。以下の部分のピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。uの上に2つの点を添えるピンインにはvを用います(例:東西=dong1xi0、婦女=fu4nv3)。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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