モディ首相の強権主義に懸念=台頭するインドの“死角”―相次ぐ各国首脳の“ニューデリー詣で”

山崎真二    2023年4月27日(木) 8時0分

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写真は岸田総理大臣のインド訪問(画像出典:首相官邸ホームページ)https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/20india.html

国連人口基金(UNFPA)はこのほど、インドの人口が今年半ばに14億2860万人に達し、中国の14億2570万人を上回り、世界最多になるとの見通しを明らかにした。また、世界銀行の最新見通しによれば、今年のインド経済の成長率は6.3%、2024年には6.4%となり、中国の今年の5%、24年の4.5%をいずれも上回ると予想されている。

単に人口や経済面だけでなく、政治、外交面を含めインドの台頭を伝えるニュースが最近目立ってきた。昨年12月からG20の議長国となったインドが今年3月、首都ニューデリーでG20外相会議を開催したことも、まだ記憶に新しい。

9月にはニューデリーで第18回G20首脳会議も開かれる。今年1月にはエジプトのシシ大統領、2月にはドイツのショルツ首相、3月にはイタリアのメローニ首相、オーストラリアのアルバニージー首相、さらに岸田首相もインドを訪問するなど、各国首脳の”ニューデリー詣で”が相次ぎ、インドにマスコミの目が注がれる。「インドが国際社会での重要なプレーヤーであることを各国が認識するようになった」(インド有力紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」)との指摘は的を射ていると言えるだろう。

「戦略的自立外交」で国際プレゼンス拡大

インドがこれだけ国際社会で注目されるようになった大きな要因として多くのインド専門家は、モディ政権が非同盟の伝統を受け継ぎながらも、さまざまな国とバランスをとった外交を促進してきた点を挙げる。いわゆる「全方位外交」だが、特徴的なのは自国の利益に沿った形でこうした外交を展開していることだ。ジャイシャンカル・インド外相は「戦略的自立に立脚した外交」と強調する。

ウクライナ戦争をめぐっては欧米各国の対ロ制裁に加わらず、ロシアから安価で原油を輸入する一方、プーチン大統領との会談では「今は戦争の時ではない」とウクライナ侵攻を暗に批判、欧米寄りの姿勢も見せた。さらにインドは日本、米国、オーストラリアと共にインド太平洋地域の安全保障および経済の枠組み「クワッド」(QUAD)に参加し、対中包囲網に関与する態度も示す。

しかし、その中国が主導する「上海協力機構」(SCO)にも加盟、中国とも仲良くする外交を追求している。中国、ロシア、ブラジルおよび南アフリカと共に新興5カ国(BRICS)グループを形成している点も忘れてはならない。

日本のマスコミではあまり報じられていないが、インドは中東地域への関与も強めようとしている。昨年7月には、米国、イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)などと共にインドは中東の新たな枠組み「I2U2」の創設メンバーとなり、同地域での安全保障、食糧供給、エネルギー各分野の協力を約束している。

野党勢力やマスコミへの圧力強まる

このようにインドの国際的プレゼンスが拡大する中で見逃されがちなのは、同国の急速な台頭の裏に隠れた“死角”ともいえる側面だ。欧米のインド専門家の間でとりわけ最大の懸念材料として指摘されているのは、モディ首相の強権主義的傾向である。

2014年の下院議員総選挙でモディ氏のインド人民党(BJP)が大勝して以来、政権基盤は安定。経済面では新型コロウイルス感染拡大の影響でマイナス成長になった2020年を除き、2014年以来一貫してプラス成長を遂げるなど、今やモディ首相はインドのカリスマ的指導者として評価が高い。

その自信の表れか、最近では「自身への批判に寛大でなくなり、力で反対意見を封じ込めようとする」(駐ニューデリー外交筋)といった声が聞かれる。野党勢力に政治的圧力を加えるケースも目立つ。

故インディラ・ガンジー首相の孫で、最大野党・国民会議派の次期首相候補といわれるラフル・ガンジー氏がモディ首相への名誉棄損で有罪判決を受けたことを理由に下院で議員資格をはく奪された背景にはモディ首相の意向があるのは確実。マスコミへの統制も強まっている。インド税務当局は先ごろ、英BBC放送のニューデリー支局を強制捜索したが、これはインド国内での宗教暴動をめぐり同放送がモディ首相を批判する番組を放送したことへの報復との見方が有力だ。

しかも、首相の強権体質のバックボーンにインドの多数派であるヒンドゥー教による支配を主張するBJPの思想がある。このヒンドゥー至上主義は、建国の父であるマハトマ・ガンジーの唱えた政教分離の世俗主義とは真逆の思想で、イスラム教徒など他の宗教の排除を目指す。

「世界最大の民主主義国」に代表される民主的政治システムがインド発展の土台になってきたはず。強権で反対意見を封じ、国内では宗教少数派を弾圧するモディ首相の政治手法が「インドの急成長の陰に潜む最大の死角になる」(米国シンクタンクの南アジア専門家)との警告にモディ首相はどれだけ耳を傾けるのだろうか。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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