長田浩一 2022年3月18日(金) 8時50分
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ロシア軍のウクライナ侵攻という大ニュースがあったので影が薄くなってしまったが、1月にトンガで発生した海底火山の爆発と、その後の津波には驚かされた。
ロシア軍のウクライナ侵攻という大ニュースがあったので影が薄くなってしまったが、1月にトンガで発生した海底火山の爆発と、その後の津波には驚かされた。日本の気象庁が「若干の潮位の変化はあるかもしれないが、被害の心配はない」と発表した後、想定を超える津波が国内各地に押し寄せたからだ。地震とは違うメカニズムで津波を起こす火山噴火の恐ろしさを垣間見た思いだ。地震と火山の国に住むわれわれにとって、トンガの噴火・津波は他人ごとではない。いつか日本でも必ず起きる大爆発―破局的噴火への警鐘と受け止めるべきなのかもしれない。
本稿執筆中の3月16日深夜に宮城・福島県を中心に震度6強の大地震が発生した。東日本大震災から11年。「災害は忘れたころにやってくる」との警句を思い起こさざるを得ない。
◆カルデラ噴火、10万年で12回発生
火山噴火の規模は、火山爆発度指数(VEI)という尺度で示される。島村英紀著「火山入門」(2015年)によると、現時点で富士山の最後の噴火である宝永大噴火(1707年)と、20世紀で国内最大だった桜島の大正大噴火(1914年)は、ともにVEI5だった。今回のトンガ噴火はまだ確定していないが、VEI5ないし6と推定されており、近年では世界的にもかなり大きな噴火だった。
しかし過去には、これらをはるかに上回るVEI7クラスの噴火が日本で何度も発生している。同書によると、破局的噴火とほぼ同義のカルデラ噴火は、過去10万年の間に12回発生しているという。単純計算すれば、およそ8300年に1回発生していることになる。現在の阿蘇山系を形成した9万年前の阿蘇カルデラ噴火、鹿児島湾を作った姶良カルデラ噴火(2万6000年~2万9000年前)が有名だ。もっとも最近の例は、およそ7300年前に鹿児島県薩摩半島南方の海底で起きた鬼界カルデラ噴火で、火砕流や降灰により九州の縄文文化を壊滅させたと言われる。
同書によると、このクラスの噴火がもし現代に起きた場合、最悪1億2000万人の死者が出ると試算されているという。日本人がほとんど死に絶えてしまうわけで、まさに破局だ。これと同等ないしそれ以上の被害をもたらす自然災害は、私には小惑星・彗星の激突しか思い浮かばない。
◆小説の惨状、絵空事ではない
破局的噴火という言葉を世間に広めたのは、2002年に刊行された小説「死都日本」(石黒耀著)だろう。霧島山で大噴火が発生し、たった1時間で鹿児島県と宮崎県がほぼ全滅。さらに火山灰が九州から関西、首都圏にまで広がり、日本全体が機能不全に陥るというストーリーで、いくつかの文学賞や日本地質学会表彰を受けた。
私も刊行当時に読み、鹿児島県庁ビルが一瞬にして火砕流に飲み込まれる場面に衝撃を受けたが、全体としてはハリウッドのクライシスムービーの小説版といった印象で、火山噴火を現実の脅威と感じたわけではなかった。しかし、東日本大震災(地震と噴火は連動するといわれる)や2014年の木曽御嶽山噴火、今回のトンガ噴火・津波を経験したいま、受け止め方は全く異なる。この小説に描かれた破局的噴火―巨大カルデラ噴火がいつか日本で起きるのは確実であり、それに対する備えをするべきだろう。
◆九州などの原発は廃炉に
では、何をすればいいのか。昨年出版された神沼克伊著「あしたの火山学」によると、現在の火山学では正確な噴火予知は不可能で、事前予測は担当者の経験と勘に頼っているのが実情。しかもこの状況は今後10年、20年では変わらないとしており、心細い限りだ。予知が難しいのなら、万一の場合のダメージコントロール―発生時の被害を極力小さくするための方策を、可能な限り事前にとっておくほかない。
その際に最優先されるべきは原子力発電所への対策だろう。「火山入門」は、「この火山列島で…原子力発電所を持ち、廃棄物を数万年の単位で長期間にわたって管理しなければならない核燃料を扱うことはなんとも無謀に見える」と突き放しているが、現実に原発と放射性廃棄物が存在する以上、何もしないわけにはいかない。これは原発の推進・反対をめぐる一種のイデオロギー対立とは関係ない。原発反対派はもちろん、推進派にとっても、火砕流が原発施設を飲み込んで放射性物質が大量に飛散し、その地域が長期にわたり不毛の地になる事態は避けたいはずだ。
過去10万年のカルデラ噴火は北海道と九州で起きているので、とりあえず対応が必要なのは北海道と東北北部、九州と四国西部にある原発だ(ほかの地域で巨大噴火が絶対起きないという保証はないが…)。すぐに廃炉にするのがベストだが、それができないなら、耐用年数を迎えたら廃炉とし、使用済み核燃料など放射性物質を撤去するほかない。
◆将来世代への責任
ここまで述べてきた内容に対し、「心配しすぎ。あと数百年、いや千年以上起きない可能性だってある」といった見方もあるだろう。あるいはそうかもしれない。「火山入門」は、カルデラ噴火が今後100年以内に日本で起きる可能性は1%という試算を紹介している。低いと言えば低い数字だ。しかし同書はまた、阪神・淡路大震災が起きる直前、政府の地震調査委員会が発生確率を「1%」と予測していたことも併せて指摘している。
国内で破局的噴火が起きるのは遠い将来かもしれない。しかしいつか必ず起きるものであり、発生時の被害は巨大地震をはるかにしのぐ。それが分かっている以上、できる範囲で備えをすることが将来世代への責任ではないだろうか。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。
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