<面白っ!意外?映画史(10)>愛は『不毛』か『不条理』か――「第三の男」と「情事」3部作に見る『男と女』の不思議

Record China    2014年12月20日(土) 14時34分

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1960年代前半、「愛の不毛」という言葉が流行った。その対象は主に「情事」(1960年)、「夜」(61年)、「太陽はひとりぼっち」(62年)のいわゆる「愛の不毛」3部作、または「情事」3部作ともいわれる一連の作品群だ。

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1960年代前半、「愛の不毛」という言葉が流行った。とりわけ、映画評論家やかなりコアな映画ファンの間で。その対象は主に、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「情事」(1960年)、「夜」(61年)、「太陽はひとりぼっち」(62年)のいわゆる「愛の不毛」3部作、または「情事」3部作、あるいは主演女優の名を取ってモニカ・ヴィッティ3部作ともいわれる一連の作品群だ。これらは製作が1年ずつ違うものの、日本公開は62年に集中したので、ブームが起きたのである。

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「愛の不毛」という言葉の印象から、これらは「難解」と見なされていた。実際、多くの映画評論家の書く映画評自体は難解だった。キーワードとして「愛の不毛」という言葉が最低1回は使われ、時々、ディスコミュニケーションというさらに難解な用語も登場したからだ。だが作品自体は、それほど難解ではない。要するに、男が女に振られる話なのである。美男美女が恋愛模様を繰り広げる、持って回ったメロドラマとして楽しめる。

「情事」では、男性主人公は理由も分からぬまま婚約者に去られ、別の女性と婚約者を探しに行く。「太陽」では、冒頭で女性主人公は婚約者とはっきりした理由もないまま別れ、別の男性と付き合う。そして、その男性もまたいずれ振られることが暗示される。「夜」はややニュアンスが違い、男性主人公が妻と別の女性との間を揺れ動く、アンニュイなメロドラマである。いずれの作品にも、ストーリーとは直接関係のない「心象風景」がたびたび出てくる。それは夾雑物を排して単純で抽象的であり、何やら意味ありげなため、「ただのメロドラマではない」という印象を与えるのだ。

この3部作の原型となったのは、その直前の「さすらい」(57年)である。男性主人公は冒頭で事実婚の妻に別離を宣告され、幼い娘を連れて当てもない旅に出て、何人かの女性の間をさすらう。だから、4部作と言ってもいいのだろうが、そう言わないのは、女性役がヴィッティではなく、アリダ・ヴァリだからだ。

ところで、「愛の不毛」ほど頻繁には使われないものの、似たような言葉として「愛の不条理」がある。こちらは要するに、三角関係の物語だ。典型は「第三の男」(49年、キャロル・リード監督)である。一般にはサスペンス映画に分類されているが、サスペンスとしては、実はそれほどの出来ではない。ヴァリ扮する踊り子アンナ、元は親友の三文作家ホリーと悪徳闇商人ハリーの3人の男女の愛憎絡み合う物語として見れば面白い。

ホリーは、死んだと思われているハリーの恋人アンナを愛する。しかし、アンナは言うのだ。「私はハリーを愛していなかった。でも、彼は私の一部なの」と。これほど強烈な愛の表現はないだろう。ホリーは結局、「正義」のためにハリーを撃ち殺す。だが、本当に正義のためだったのか、アンナを手に入れたいためだったのか。ラストでは、呆然と立ち尽くすホリーに目もくれず、アンナは哀愁のウィーンの並木道を足早に立ち去る。

同じ「愛の不条理」でも、「冒険者たち」(1967年、ロベール・アンリコ監督)の3人の男女はこんなに愛憎入り乱れない。まず、明眸ジョアンナ・シムカスがギャングの銃弾に倒れ、次いでアラン・ドロンも。しかし、生き残ったリノ・ヴァンチュラが2人の仇を討ち、3人の関係は美しい思い出として残るのだ。

川北隆雄(かわきた・たかお)

1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社(東京新聞)経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』(以上講談社現代新書)、『日本国はいくら借金できるのか』(文春新書)、『経済論戦』『日本銀行』(以上岩波新書)、『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』(講談社+α文庫)、『「財務省」で何が変わるか』(講談社+α新書)、『国売りたまふことなかれ』(新潮社)、『官僚たちの縄張り』(新潮選書)など。

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