中国の新エネ車市場はEVの頭打ち鮮明、レンジエクステンダーに脚光

高野悠介    2024年10月22日(火) 8時30分

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中国の新エネ車市場でレンジエクステンダーが注目されている。写真はレンジエクステンダー型EV「問界M5」。

全国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)によると、中国の9月の国内乗用車販売台数は前年同月比4.5%増の210万9000台、1~9月の累計販売台数は前年同期比2.2%増の1557万4000台だった。うち新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)は、9月は前年同月比50.9%増の112万3000台、1~9月は前年同期比37.4%増の713万2000台だった。9月の新エネルギー車シェアは53.3%で、3カ月連続で50%を超えた。

9月の新エネルギー車を分析してみよう。乗聯会は国内販売台数の他に卸売販売データを発表しており、そこに詳細が出ている。9月の新エネルギー車の卸売台数は小売台数より約11万台多く、前年同月比48.1%増の123万1000台だった。うち純EVは同27.1%増の72万3000台、狭義のハイブリッド車(PHEV)は同102.2%増の39万4000台、レンジエクステンダーは同68.4%増の11万4000台だった。

買い替え政策と中古車市場拡大

中国メディアは、消費が盛んとなる黄金の9月「金九」は買い替え促進政策が功を奏し、最大2万元(約40万円)のユーザー補助金の追い風を受けてBYDや「造車新勢力」など国内勢が順調で、市場拡大の足音がはっきり聞こえると楽観的表現に終始している。中古車市場も活性化し、1~8月累計で5.5%増加した。同時期の新車販売は2%増であり、確かに中古車を買う消費者は増加した。しかし米国、ドイツ、日本などの先進国では、中古車市場は新車市場の2~3倍の規模を持つが、中国は0.68倍にすぎない。つまり中国の中古車市場は高いポテンシャルがある。実際、中国政府は2027年の中古車販売量を2023年比45%増と試算している。しかし、中古車市場の拡大は新車の足を引っ張りそうだ。価格競争は激しくなる一方で、現状では何をしても新車市場全体は微増にしかならない。

値引き率トップは純EV

中国メディア「IT之家」によると、1~9月の値下げ車種は195モデルに及んだ。これはすでに2023年通年の95モデルの2倍以上だ。

内燃エンジン車は71モデル、平均1万5000元(約30万円)、9.3%の値下げ。

PHVは13モデル、平均1万5000元(約30万円)、8.4%の値下げ。

PHEVは29モデル、平均2万4000元(約48万円)、13.7%の値下げ。

レンジエクステンダーは13モデル、平均1万4000元(約28万円)、7.6%の値下げ。

純EVは69モデル、平均2万3000元(約46万円)、13.5%の値下げ。

純EVの競争は激しさを極め、値下げ率はダントツだ。PHVとレンジエクステンダーの値下げ幅は比較的小さい。その中でも今、レンジエクステンダーの存在に注目が集まっている。

レンジエクステンダーの開発が加速

レンジエクステンダーはPHEVに分類されるが、内燃エンジンを発電のみに使うタイプで、日本では日産のe-POWERシリーズがこれに当たる。

中国メディア「中国経営報」によると、現代自動車ヒョンデ)、フォードなどの海外メーカーもレンジエクステンダーに乗り出した。国有大手の上海汽車も2025年第1四半期(1~3月)に傘下の智己汽車から初のレンジエクステンダーを発売する。智己汽車の幹部は「今後3~5年ないし5~8年、レンジエクステンダーには明確な市場機会が広がっている。特にMPVとSUVは有力だ」と述べた。民間大手の吉利汽車傘下の極氪汽車もレンジエクステンダー進出の可能性に言及した。さらに、長安汽車、ファーウェイ(華為技術)、寧徳時代新能源科技(CATL)が共同設立したアバター・テクノロジー(阿維塔科技)や、小鵬汽車も発売を計画しており、活況を呈してきた。

JPモルガンはPHEVとレンジエクステンダーが2030年に新エネルギー車市場の60%を占めると推定している。また、中国汽車協会によると、レンジエクステンダーの増加率は2021年が206%増、2022年が116%増、2023年が173%増で、市場シェアは2.9%へ上昇した。

フォルクスワーゲン中国の2020年当時のCEOは、「車1台の視点では、レンジエクステンダーには意味がある。しかし、国や世界レベルでは良い解決策ではない。化石燃料を燃やして発電する意味はまったくない」と述べていた。この見解について、業界内で「レンジエクステンダー技術は後進的か」という議論が続いた。しかし昨今、販売の増加とともに下火となった。

後進的技術が先進的技術より注目浴びる?

純EVの成長が鈍化し、乗用車市場は飽和しつつある。自動車メーカーは早急に新たな突破口を開く必要がある。レンジエクステンダーの開発はそのソリューションの一つだ。PHEVに比べて単純な構造で、製造コストは低く、自動車メーカーは採用しやすい。実際に国産ブランドのレンジエクステンダーは市場に受け入れられている。理想汽車、問界、零跑汽車などがこれに賭け、飛躍的な販売増を達成しつつある。

中国メディアは、最終的にレンジエクステンダーを強化するかどうかは市場の需要と自社の競争力によるとした。充電設備の充実した大都市や高速道路沿線では必要なさそうだが、北西部や南西部の山間地、ゴビ砂漠など、ドライブ好きの多い僻地では良い選択肢だ。

中国メディアは、ポイントは20万元(約400万円)以下で費用対効果の大きい内燃エンジン車の置き換えを加速できるかどうかだと分析している。新エネルギー車の増加を支えているのはPHEVとレンジエクステンダーで、純EVメーカーは大きなプレッシャーにさらされている。短期的には先進的なEV技術や自動運転技術より後進的なレンジエクステンダー技術がメーカーの命運を握っているようだ。純EVへの逆風は強まるばかりだ。今後の展開から目が離せない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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