吉田陽介 2024年7月10日(水) 7時30分
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在米中国資本企業年度調査報告で、中国企業の米国の投資とビジネス環境に対するネガティブな感情が高まり、投資意欲が低下していることが明らかになった。写真はニューヨーク。
米国に投資する中国企業を代表する非営利組織の米国中国国総商会(CGCC)は6月24日に「在米中国資本企業年度調査報告」と題する報告書を発表し、中国企業の米国の投資とビジネス環境に対するネガティブな感情が高まり、投資意欲が低下していることを明らかにした。このニュースは新華社通信などの中国メディアも報じた。
報告書によると、調査対象企業の16%は市場環境が大幅に悪化したと回答した。また、回答企業の45%が小幅な悪化を感じた。つまり、全体の60%以上の企業が投資・ビジネス環境が悪化していると感じている。一方で、27%の企業は顕著な変化を感じておらず、市場環境が小幅に改善したとみている企業は13%にとどまった。
企業収入については、2023年に収入の増加幅が20%未満の企業が25%を占めた。収入の増加率が20%を超え、より力強い成長を実現した企業の割合は7%に低下した。また、収入の減少幅が20%を超えた企業の割合は2022年の13%から21%に上昇した。
市場環境が企業の収益水準に広範な影響を与えている。回答企業の2023年の利益率水準の分布は2020年のコロナ禍初期と非常に似ており、赤字企業の割合はそれぞれ32%と33%で、ここ6年間で最も深刻だ。
報告書の内容を見る限り、米国で事業展開する中国企業のビジネス環境は悪くなっている。日本メディアは中国で事業展開する日本企業のビジネス環境の悪化を報じているが、それに似たものがある。
米国での中国企業のネガティブなマインドが増えたのは、次の要因による。
一つは、米中貿易摩擦だ。これは今年に始まった問題ではないが、米中両国の貿易摩擦は経済問題だけでなく、国家間関係にも影響を与えている。4月にイエレン米財務長官が中国の新エネルギー車(NEV)や太陽光パネルの「過剰生産」を批判したことは記憶に新しい。
また、米国が中国からの「デカップリング」を促進するため、同国抜きのサプライチェーンの構築を図っている。
新華社の報道は、「企業への制裁リストの拡大と頻繁な産業調査と輸入政策の調整により、企業は直面する経営環境に顕著な変化が現れていることを実感しているからだ」と指摘する。
二つは、政治関係の要因だ。周知のように、米中貿易摩擦は政治、安全保障問題にも影響を与え、「新冷戦」とまで言われるようになった。政治問題の悪化は企業経営のマクロ環境に大きな影響を与えるため、経営活動にも一定の影響を与える。トランプ政権時は、「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を掲げ、中国に対して強硬な姿勢を取り、経済関係は悪化した。バイデン政権も基本的に対中強硬論を受け継ぎ、同盟国と共に「中国包囲網」を築いた。
11月5日に米国大統領選挙が行われるが、トランプ氏が再選した場合、前回以上に保守主義的になり、中でも中国には厳しい態度になるという見方がある。
現段階ではどちらが再選するかまだ断定できないが、国民の支持を得るため、対中強硬論が続く可能性がある。その場合、米国の中国企業のビジネス環境はある程度影響を受けるだろう。
では、米国でビジネスを展開する中国企業は拠点のシフトを考えているのだろうか。
報告書は、「調査に協力した中国企業はネガティブな感情を持つ企業の割合がより高かったが、深く掘るという目標は依然としてはっきりしている」と述べ、「強く、大きくする」は依然として米中企業の発展の重要な目標で、「収益力向上」と答えた企業は71%、「既存事業の回復・発展」と答えた企業はが61%だった。
上記の回答を見る限り、中国企業は米国市場から大挙して撤退するという動きはないようだ。
報告書によると、過去4年間、投資減速傾向は基本的に安定しており、投資の伸びに楽観的な見方を持つ企業の割合は引き続き増加している。全体的に言えば、在米中国企業の約6割が2023年に安定した投資水準を維持したいと考えており、他の3割が投資を増やす計画で、投資を減らす計画は約7分の1にとどまった。
「中国僑ネット」も報告書のネガティブな部分を報じたが、一方で楽観的な見方も伝えた。記事は「今後の収入動向に対する予想では、回答企業の大多数が楽観的な見方を示しており、現在の投資水準を維持し、投資を引き続き増やす企業が9割近くを占めていることが分かった」とし、楽観的な見方もあることを報じた。
米国における中国企業のビジネス環境へのマインドが悪化している原因として、米中関係の悪化が要因の一つであることを述べたが、経済レベルの関係でいえば、それほど悪くはない。
6月16日付の「参考消息」は、香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の報道を引用して、多国籍企業の最高経営責任者(CEO)が中国経済について「慎重だが楽観的」な見方をしていると報じた。
同記事は、中国市場の長期的潜在力については、51%のCEOが5年後には中国市場の需要は少なくとも世界平均水準を上回ると見ており、26%のCEOが中国市場の需要は他の主要市場と同水準になると見ていると述べた。このことは、米国の経済界が中国経済を有望視しており、米中経済関係は今後も発展の可能性があることを示している。
また、トランプ時代に「製造業の回帰」を掲げて国内製造業の発展を図った米国だが、必ずしもうまくいっているとはいえないようだ。
5月11日の「騰訊網(テンセントネット)」の報道は、「トランプ氏はあの手この手で製造業、ハイテク産業の還流を呼び込んでいるが、芳しい成果は出ていない」と指摘した。2020年に台湾積体電路製造(TSMC)が米国への工場建設を発表し、2024年に稼働するとしたが、現在に至っても稼働していない。
記事は、TSMCが米国で直面している大きな困難は人が集まらないことだとし、その理由として「米国にエンジニアや熟練した産業労働者があまりいないこと」「応募者が残業を受け入れられないこと」を挙げた。特にエンジニア不足は米国の製造業にとって深刻だ。科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、数学(mathematics)のSTEM学科は苦労が多いため、その専門を勉強していたとしても、卒業したらコンサルティングや金融など条件のいい業界への就職を目指すそうだ。
科学技術イノベーションを国の重要政策に位置付け、科学技術人材の育成に力を入れている中国には優位性がある。ハイテク技術では米国に比べてやや劣っているが、製造業は発展している。米国における中国企業もこの面で優位性を発揮できるだろう。
さらに言えば、ハイテク分野で優れている米国での市場競争を展開することは、中国企業のレベルアップにつながる。
米中両国は政治関係が悪いといわれているが、意思疎通を続けており、中国が言うように双方の意見の食い違いをコントロール可能なものにしている。これは両国経済関係の改善にとってプラスとなる。
米国政治が今後どのように変化しようと、米中政府は意思疎通を続け、決定的な対立は避けるのではないかと思う。その中で、経済関係も維持され、「対立の中での安定」の状態が続くのではないかと筆者は考える。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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