ファーウェイとシャオミの新車が大ヒット、スマホメーカーがBBAを追い詰める?

高野悠介    2024年6月8日(土) 17時0分

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日本ではスマホのイメージが強いファーウェイとシャオミだが、中国では自動車で旋風を巻き起こしている。写真はシャオミ初のEV「SU7」。

中国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)は4月の乗用車市場について、「ゆっくり回復」と表現した。目を引いたのは、ファーウェイ(華為技術)系のセレス(賽力斯)の販売台数激増と、シャオミ(小米)の鮮烈なデビューだ。日本ではスマホのイメージが強い両社だが、中国では自動車で旋風を巻き起こしている。その理由と今後に迫ってみたい。

4月の販売台数

乗聯会によると、4月の中国国内の乗用車販売台数は前年同月比5.7%減の153万2000台、うち新エネルギー車(電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)は同28.3%増の67万4000台で、全体の43.7%を占めた。

新エネルギー車の販売台数トップ10は以下の通り。

1位 BYD比亜迪) 25万4131台 前年同月比31.1%増

2位 吉利汽車 4万9155台 76.3%増

3位 長安汽車 4万507台 119%増

4位 上汽通用五菱 3万2003台 5.6%減

5位 テスラ 3万1421台 21.4%減

6位 広汽埃安 2万6109台 36.3%減

7位 理想汽車 2万5787台 0.4%増

8位 セレス2万5075台 725.7%増

9位 奇瑞汽車 2万2640台 173.4%増

10位 長城汽車 2万352台 48.2%増

シャオミはトップ10には入らなかったが、初の電気自動車(EV)「SU7」を4月に7058台売り上げた。

解説記事はBYDの好調、トップ10の前年割れ3社(うち外資系2社)、民族系メーカーの好調(奇瑞、長安、セレス)をトピックとして挙げている。さらに追加するなら、セレスの絶好調とシャオミの大躍進だろう。これはファーウェイとシャオミの成功と置き換えられる。

ファーウェイ「問界M9」

中国メディアのテンセント(騰訊網)は「月間1万5000台を売り上げる問界M9、一体誰が買っているのか」と題する記事を掲載した。

問界シリーズはファーウェイとセレスが共同開発したSUVで、21年12月の「M5」(24万9800元~30万9800元=約500万~620万円)に始まり、22年7月に「M7」(24万9800元~32万9800元=約500万~660万円)を発売した。24年2月発売の「M9」(46万9800元~56万9800元=約940万~1140万円)は1000万円超えの高級車でありながら、4月のSUVランキングで6位に入った。誰もが疑問を抱くレベルの大ヒットだ。

問界M9は全長5200mm、全幅1999mm、全高1800mm、ホイールベース3100mm、重量2560kgと堂々たる大きさ。航続距離は630kmで、拡張版は1362km。ファーウェイの最新の運転支援システム「Huawei ADS2.0」を採用し、LiDARやミリ波レーダーなど、192ラインのスキャンからさまざまな道路状況に対応する。

記事は問界M9のヒットの理由について、これまでBBA(ベンツ、BMW、アウディ)などの内燃エンジン車が独占していた50万元(約1000万円)以上の高級車ユーザーの動向を挙げた。高級車の購入者が中国車を選択する方向に傾いているという。その代表例は造車新勢力の理想汽車の大型SUV「L9」の成功だ。22年6月に発売され、45万~50万元(約900万~1000万円)と高額だが、徐々に販売を伸ばし、23年8~12月に5カ月連続で月間販売台数1万台以上を記録した。

BBAなど高級車の販売価格は中国での追加コストやブランドイメージへの心酔などの要因から海外価格の2倍以上もしており、中国の消費者はバブルに踊らされていた。ここに中国メーカーの高級EVが進出し始め、国産車を選択する人が増えている。問界M9は理想L9の作ったこうした流れにうまく乗ったといえる。

シャオミ初のEV「SU7」

シャオミ初のEV「SU7」が3月末に発売された。予約注文は開始27分で5万台を超え、5月中旬には10万台を突破。納車は5月までに1万5000台を上回った。売り上げは270億元(約5400億円)になると伝えられた。これは前例のないスピード記録という。

SU7はスタイリッシュなクーペ風4ドアセダンで、全長4997mm、全幅1963mm、全高1440mm、ホイールベース3000mm。重量1980~2205kg、航続距離700km。価格は21万5900元~29万9900元(約432万~600万円)。購入者はBBAのオーナーが29%、女性が28%、アップルユーザーが52%を占めた。こちらもうまく上客を取り込んでいる。

中国メディアはシャオミの資金力、巨大なトラフィック、創業者の雷軍(レイ・ジュン)氏の個人的魅力、価格の比較優位性などから、失敗の可能性は非常に低く、自動車業界への進出は正しい選択だったと評している。しかし、かつては否定的な論評も多く、手のひら返しの典型だろう。

シャオミは自動車業界への進出について、自社によるIoTシステム構築のラストピースと表明していた。SU7はシャオミのほか、iPhoneやiPadのユーザーもしっかりサポートする体制で登場した。さらに雷氏は中国の他の自動車メーカーに対し、共通のエコシステム「人車家全生態」の構築への参加を呼びかけた。SU7の成功はその後押しとなりそうだ。

ファーウェイとシャオミの国民的人気

中国では2010年代にDX(デジタルトランスフォーメーション)が猛スピードで進行した。3大通信キャリアの中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)、中国電信(チャイナ・テレコム)が競って市場を開拓したが、ファーウェイとシャオミはそれをハードウェアの面から支え、大きく貢献した。

シャオミは11年8月に初のスマホを発売した。13年発売の「紅米手機(Redmi)」は価格を799元に抑えてメガヒットし、中国を代表する入門機種となり、スマホの国民的普及に大きく貢献した。創業者の雷軍氏はさわやかなイメージも加わり、スター経営者となった。

ファーウェイは基地局などの電信設備でDXに大きく貢献した。その後、スマホの販売台数でもシャオミを上回った。18年の孟晩舟副会長のカナダでの拘束後、創業者の任正非氏も積極的に発信を始め、米国制裁に抵抗するヒーロー的存在となった。

ファーウェイとシャオミのDXへの貢献とそれぞれのストーリーは中国人の記憶にしっかり刻まれている。これら国民的サポートを受けるブランドがBBAの牙城に切り込んでいる。中国の高級車市場が大きく変化する扉が開いたかもしれない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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