日中両国とも「民族感情本位主義」に陥り、1930年代に酷似=EU見習い民間交流促進を―馬場公彦氏

八牧浩行    2014年8月23日(土) 6時20分

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日中関係史に詳しい馬場公彦氏(学術博士・岩波書店編集局副部長)は講演し、 日中両国とも「民族感情本位主義」に陥っており、この考えが高揚すると、戦後を素通りし、戦中へと逆行する傾向があると指摘。「1930年代に酷似しており、危機的な状況だ」警告した。

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2014年8月20日、『現代日本人の中国像―日中国交正常化から天安門事件・天皇訪中まで』の著者で日中関係史に詳しい馬場公彦氏(学術博士・岩波書店編集局副部長)は日本記者クラブで講演した。日中両国とも「民族感情本位主義」に陥っており、この考えが高揚すると、戦後を素通りし、戦中へと逆行する傾向があると指摘した上で、「現状は1930年代に酷似しており、危機的な状況だ」と警告した。日中関係を打開するための対策として、「民間レベルの相互交流が必要であり、多くの人たちが旅行、留学、就職、結婚などで交流すれば、量が質に転化する。EUを見なうべきだ」と強調した。

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なお、馬場氏は前作『戦後日本人の中国像―日本敗戦から文化大革命・日中復交まで』で第28回大平正芳記念賞特別賞を受賞している。講演要旨は次の通り。

日本は旧来の中国像の視野で変化した中国を見てしまい、事態が過ぎると忘却し、別の論理に転嫁。大国化した中国に対し、脅威を抱いている。中国は局面が変わると記録を封印し、記憶を抑圧する。

日中両国とも感情的な私論である「世論」が知識人による公論である「輿論」を圧倒している。ともに民族主義と国家主義が一致した「排他的なナショナリズム」を扇動・醸成している。感情が理性を圧倒し、行動が先行し対話を拒否している。

このような「民族感情本位主義」が高揚すると、戦後を素通りし、戦中へと逆行する傾向がある。中国側は抗日期と同様、反日、仇日、侮日といった心理状態となる。一方、日本側は日中戦争時に、中国のためにいいことをしていると言いながら侵略したのと同様、独善的な状況に陥ってしまう。

これらは、1930年代に酷似しており、危機的な状況だ。

このような状況を打開するためには、両国関係がよかった時代に戻すことが必要だ。「復元ポイント」としては1972年の国交正常化、78年の日中友好平和条約締結、92年の天皇訪中、98年の日中共同宣言の4点が考えられる。

特に日中国交正常化が実現した72年に立ち返ることが重要である。その後、(1)日中戦争の犠牲者数、損害額などが正確に検証されず、侵略の認定、謝罪、賠償などがやり過ごされた、(2)中国が持ち出した「2分論」(戦争指導者が悪いのであり日本国民大衆は扇動された)が有名無実化している、(3)中国で戦後日本の民主化、平和国家・経済建設などが無視される傾向にある(4)中国側の反日を強調した愛国教育―などの問題点がある。

不和・対立・紛争が日中両国にとって損害となることを再認識し、日中復交の精神に戻るべきだ。中国の評論家、馬立誠氏が唱える「憎しみに未来はない。対立から未来志向へ」の考え方を双方が取り入れるべきだ。世界大戦の反省を踏まえてヨーロッパでは感情より理性を重んじ、英国、フランス、ドイツをはじめ協調してEU(欧州連合)をつくっていることに学ぶ必要がある。

日中間の発展のためには民間レベルの相互交流が必要であり、多くの人たちが旅行、留学、就職、結婚などで交流すれば、量が質に転化することになろう。首脳レベルでも1980年代の中曽根首相・胡耀邦総書記のような信頼関係を築くことも必要だ。

日本政府は1952年のサンフランシスコ講和と日米同盟を起点とし「冷戦構造の勝者」としての恩恵を重視するが、あまり(国民的に)盛り上がっていない。中国政府はカイロ会談やボツダム宣言などを起点とし、第2次大戦の反ファシズム陣営の勝者としての立場を強調し、米国との「新大国関係」を提唱。台湾、国民党とも「参戦」で共有関係を築こうとしている。両国のこうした動きは懸念材料である。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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