<激動!世界経済>サントリー、武田、資生堂…外部からのトップ起用がブーム化―グローバル競争勝利を託す

八牧浩行    2014年8月19日(火) 6時10分

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日本企業は海外企業と異なり、外部からトップを招くケースはほとんどなかったが、この日本企業の伝統が覆りつつある。サントリー、武田薬品、ベネッセ、資生堂…。外部からのトップ登用が続出している。写真はサントリーが買収した米大手洋酒企業「ビーム」製品。

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日本企業は外部登用に積極的だった海外企業と異なり、外部からトップを招くケースはほとんどなかったが、この日本企業の伝統が覆りつつある。飲料大手企業サントリーホールディングスの社長にローソンの新浪剛史会長が10月に就任することになった。既に日本マクドナルドホールディングス社長だった原田泳幸氏が教育大手ベネッセホールディングス会長兼社長に、日本コカ・コーラ社長だった魚谷雅彦氏が資生堂社長に、米ゼネラル・エレクトリック幹部だった藤森義明氏がLIXILグループ社長にそれぞれ就任した。武田薬品工業のように、海外の競合大手企業からフランス人のクリストフ・ウェバー氏を招き入れるという前代未聞の登用も目立つ。

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年功序列や労使協調を基本理念とする「家族的経営主義」に象徴される日本企業では、トップは社員・役員の中から、社内を熟知し実績を積み上げた人、統率力と人望のある人が選ばれてきた。ところが近年、企業を取り巻く環境が様変わり。国内市場は少子高齢化に伴う人口減少により、縮小を余儀なくされる。そこで海外市場、特に経済成長が著しいアジア市場の開拓を強化しようにも、グローバル化を担える最適な人材社内には乏しいのが実情。「予定調和的な内部昇格では熾烈なグローバル競争を乗り切れない。外部登用トップは社内の生え抜き組とは異なる視点で、経営を大胆に変革しやすい」(大手化学会社幹部)と見られている。

一方で、外部からの登用は、社内から拒絶アレルギーが巻き起こるリスクも否定できない。従来、外部からトップを招いた企業は経営危機に陥ったところが多かった。「会社の再建」を託そうと、社内が一致しやすいためで、他社で実績のあるカリスマなら申し分ない。日本航空の会長に就任して再建を果たした稲盛和夫氏(京セラ創業者)が典型例だ。経営不振に陥っていた日産自動車を立て直したカルロス・ゴーン社長はその代表例と言える。

◆中間層が拡大するアジアが有望―新浪次期サントリー社長

業績好調なサントリーの社長に抜擢される新浪氏のケースは、創業家出身で絶対的なカリスマ性のある佐治信忠会長兼社長のバックアップが大きい。新浪氏は三菱商事出身の国際派。ローソン社長を12年間務め、14年2月期まで11期連続の営業増益を達成した。サントリーホールディングは佐治氏まで4代にわたり創業一族が経営トップを務めたが、同族経営を脱し、酒類や食品事業のグローバル化を推進するためには外部人材が必要と同氏が決断した。

新浪氏は、海外への投資の重要性に触れた上で、「アジアはインフラの整備が遅れているで、インフラ投資は大きな意義がある。人口がさらに伸び、中間層が手厚くなる国・地域が有望」と指摘。「サントリーは日本、文化、水にこだわりがあり、無国籍企業ではない。海外の人たちにも(製品を)好きになってもらえるよう努力したい。」と抱負を述べた。

10月から代表権を持つ会長職に専念する佐治氏は「新浪氏の国際性とバイタリティーに期待している。二人三脚でグローバル化を進めたい」と語っている。

 

◆武田トップ人事に波紋、ベネッセは出鼻くじかれる

外部人材のトップ活用がすべてうまくいくとは限らない。例えば日本最大手の老舗薬メーカー武田薬品。社長にスカウトしたのが、ライバルの英製薬大手グラクソ・スミスクライン出身のウェバー氏。武田の「グローバル化」を進めてきた長谷川閑史会長にとっては、自然な選択だったと言う。

  

ところが、この人事が発表された際の社内外の衝撃は大きかった。ライバル海外企業出身の外国人。6月末に社長に就任したウェバー氏は米国での訴訟リスクや新薬開発の遅れなど、内憂外患の中で第一歩を踏み出したが、前途は多難だ。多くのOB株主が「長期的な視点で経営をしなくなるのでは?」「武田の研究開発の手法を理解しないトップの就任で研究者が社外に流出してしまう」などの質問書を提出したことが明らかになっている。

ベネッセホールディングスは7月初旬、約760万件の顧客情報が漏洩したと発表。すでに別の業者などに顧客情報が渡り、被害は最大2070万件に拡大する可能性がある。漏洩が起きたのは昨年から今年春にかけてだが、警察に被害届を出したのは原田会長兼社長が就任した後の6月末。原田新体制にとっては出鼻をくじかれる大きな出来事と言えよう。外部人材のトップ起用の行方を注視したい。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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