<面白っ!意外?映画史(2)>「最省エネ主演賞」―アカデミー賞女優、パトリシア・ニールの「真実」

Record China    2014年8月23日(土) 15時32分

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米アカデミー賞各部門で最も華やかなのは主演女優賞だ。その歴代受賞者の中で、最も省エネの演技でオスカー像を手にしたのは、「ハッド」(1962年、マーティン・リット監督)でのパトリシア・ニールである。写真は米国の住宅。

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米アカデミー賞各部門で最も華やかなのは主演女優賞だ。その歴代受賞者の中で、最も省エネの演技でオスカー像を手にしたのは、「ハッド」(1962年、マーティン・リット監督)でのパトリシア・ニールである。ニールといっても分からない人のために説明しておくと、「ティファニーで朝食を」(1961年、ブレーク・エドワーズ監督)で、オードリー・ヘプバーンの恋人を、ツバメとして囲うオバさんを嫌味たっぷりに演じた女優だ。

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省エネというのは、彼女が演技に手を抜いたからではない。むしろ、他の受賞者以上の集中力を以て演じたのである。省エネの所以は、登場場面の少なさである。ニールが演じたのは、主人公ハッドの家の家政婦アルマ。彼女はひそかにハッドを愛していたものの、彼がある晩、酔って彼女に迫ったことをきっかけに家を出る。「ティファニー」の時とは全く性格の違う女性だ。重要だが、「主演」というには無理のある役どころである。

彼女は自伝「真実」(新潮社、1990年)で、ノミネートを知らされた時、「わたしが演じたような控えめな役が主演女優賞の候補に選ばれるのは初めてだった」と述懐している。そして、そんなに地味な役が主演女優賞候補になったことは、それ以後もない。

ただ、ノミネート=受賞ではない。その年の同部門ノミネートはほかに、「あなただけ今晩は」のシャーリー・マクレーン、「孤独の報酬」のレイチェル・ロバーツ、「マンハッタン物語」のナタリー・ウッド、「L字型の部屋」のレスリー・キャロンだった。同賞の選考で演技力以上に重要視されるともいわれるスター度において、ロバーツを除く3人はニールをはるかに上回っており、下馬評ではマクレーンとウッドが最有力だった。ただ、ニール自身は同自伝で、キャロンが最有力で、ロバーツと自分がダークホースと書いている。

心中ひそかに自信はあったわけだ。それも、根拠なき自信ではない。予備選ともいうべき全米映画批評家協会賞などいくつかの賞で、主演女優賞や最優秀女優賞を得ていたからだ。そして、見事に本選のアカデミー賞を獲得した。評論家の川本三郎によると、受賞できたのは、かつてのゲイリー・クーパーとの悲劇的なロマンスに対する同情票からという。だが、それは違う。その悲恋は20年近く前の出来事だ。やはり、ニール渾身の演技がアカデミー会員たちの心を打ったのだと思う。

自伝によると、自宅で受賞を知ったニールはリット監督に「ケチナヤクジヤナカツタワ」と感謝の電報を打った。リットが電話で同役をオファーした際、「こんなけちな役なんて、いわないでくれよ」と申し訳なさそうに言ったことに対する返答だ。

なお「ハッド」では、メルビン・ダグラスが助演男優賞を受賞しており、ポール・ニューマンは主演男優賞に3度目のノミネートをされたものの、受賞は逃した。彼はその後も3度ノミネートされて受賞に至らず、7度目にして初めてオスカーを手にした。それだけに、ワンチャンスをものにしたニールの強運が光る。

川北隆雄(かわきたたかお)

1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社(東京新聞)経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』(以上講談社現代新書)、『日本国はいくら借金できるのか』(文春新書)、『経済論戦』『日本銀行』(以上岩波新書)、『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』(講談社+α文庫)、『「財務省」で何が変わるか』(講談社+α新書)、『国売りたまふことなかれ』(新潮社)、『官僚たちの縄張り』(新潮選書)など。

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