<台湾総統選>「経済=生活」を重視、「現状維持」求める=東アジアの平和と発展へ民意反映

八牧浩行    2024年1月15日(月) 17時0分

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13日投開票の台湾総統選と立法委員選挙は、アジアの平和と発展に向け絶妙な結果となった。有権者が求めたのは「独立」でも「統一」でもない「現状維持」である。写真は蕭美琴氏のXより。

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13日投開票の台湾総統選と立法委員(国会議員)選挙は、アジアの平和と発展に向け絶妙な結果となった。有権者が求めたのは「独立」でも「統一」でもない「現状維持」である。

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与党・民進党頼清徳・副総統が野党・国民党侯友宜・新北市長や台湾民衆党柯文哲・前台北市長に勝利した。同時に実施された立法委員選は、国民党が52議席と第1党になり、民進党は51議席と第2党に転落した。

各種世論調査では8割以上の人が「現状維持」を望んでおり、この民意が反映された形だ。

台湾の総統は内閣トップの行政院長(首相)を任命する権限を持つ一方で、立法院に行使する力は限定される。米大統領のように議会が可決した法案に拒否権を発動する権限もない。民進党は少数与党となり、重要な法案や予算案が通らなくなる可能性がある。

「中台対話」維持求める

有権者は今回の選挙で、中台関係より「経済=生活」を重視した。「独立」や「統一」を巡る論争は無意味と判断したといえよう。選挙結果で特筆すべきは「台湾の存立」に自信を深めた民意だった。台湾社会は、自らを「中国人」と考える人が2.5%まで減り、大多数が自身を「台湾人」と認識している。多くの住民が台湾を権威主義的な中国とは異なる存在だと考えており、将来を含め統一を望む人は1割にも満たない。

こうした見方を支えたのは、多様な意見を包含する成熟した民主主義であり、国際社会の支持だ。台湾の人々の多くは、民意に背いて中台関係の現状を壊す行動を取れないと見なしている。

5月に新総統に就任する頼氏に託されたのは、中国との対話による、台湾と東アジアの安定と発展だ。日本を含む国際社会には、新総統との信頼関係を育みつつ、台湾の民意に反した動きをとらないことも求められる。また、統一への執念を抱き続ける中国の指導部は、台湾の人々が示した判断をより深く認識すべきである。

台湾が覇権を競う米中の争いに巻き込まれる可能性も否定できない。主力産業の半導体産業も電力や水といった問題に直面している。与党が立法院では過半数を取れない「ねじれ」状況となる中で、円滑な経済政策が新総統にも立法院にも求められる。

米国、「台湾独立」支持せず

ブリンケン米国務長官は、台湾総統選で頼清徳副総統が勝利したことを受けて声明を発表。頼氏を祝福した上で台湾海峡の平和と安定の維持に取り組むと強調した。バイデン政権は、蔡英文総統の親米路線を継承する頼氏との間で関係を維持しつつ、中台双方との対話を通じ地域の安定化を目指すとみられる。民進党の頼清徳氏が当選したことを受け、バイデン大統領は「台湾の独立は支持しない」と明言した。


習近平国家主席は2024年の年頭あいさつの中で、経済発展による国民の生活向上に力点を置き、軍事面や海洋進出への言及はなかった。台湾統一を巡っては「祖国統一は歴史の必然だ」と改めて訴えた一方、「(中台)両岸の同胞は手を携え、中華民族復興という偉大な栄光を分かち合うべきだ」と主張。あくまでも平和的な統一を目指す方針を確認した。

昨年11月に米カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で米中首脳が会談した際、バイデン大統領が台湾海峡の安定の重要性を強調し中国による武力侵攻をけん制したのに対し、習主席は「2027年とか2035年に台湾を武力攻撃するなどという話はない」と明かし、あくまでも平和的統一を追求する方針を示した。

米金融大手ゴールドマン・サックスの予測によれば、名目GDPは2022年に米国、中国、日本、ドイツの順だったのが、将来米中が逆転、2050年には中国が米国を抜いて1位となり、米国、インド、インドネシアの順に。2075年には中国のトップは変わらず、2位がインド、米国は3位に転落するとされている。

中国、「台湾武力統一」を回避

中国の有力シンクタンク首脳によると、習近平執行部は経済で米国を凌駕する水準まで国力を高めている中、台湾の武力侵攻は回避する方針だ。ウクライナに侵攻したロシアが国力を棄損し、国際社会で制裁を受けている現実を直視しているという。

経済成長の要素は、人口、技術革新、生産性の3点。中国は潜在成長率が高く、世界の技術特許数でもトップを占める。人口は鈍化するものの米国の4倍以上あり、経済生産活動に寄与する中間層は毎年増大。都市と地方の格差も縮小傾向にある。ある米シンクタンク幹部は「製造業で米国を凌駕しており、中国は伸びしろが大きい」と見通している。

ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢が一段と複雑化する中、今年は世界で70以上もの重要な選挙が実施される「選挙イヤー」となる。

台湾総統選を皮切りに、2月のインドネシア大統領選、3月のロシア大統領選、4月の韓国総選挙、4~5月のインド総選挙と、前半から各国で大型の選挙が続く。英国でも総選挙含みで、11月の米大統領選が今年最大の山場となる。

紛争が各地で頻発し、混迷化している。有権者は不安定化する世界に歯止めをかけるために、難しい判断を求められる試練の1年となる。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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