外交の巨星落つ、キッシンジャー博士がわれわれに示したこととは

中国新聞社    2023年12月8日(金) 20時30分

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米国元国務長官のヘンリー・キッシンジャー博士(写真)が11月29日に他界した。100歳だった。キッシンジャー博士は米中関係の改善でよく知られるが、米ソの安定共存を実現した立役者でもあった。

米国元国務長官のヘンリー・キッシンジャー博士が11月29日に他界した。100歳だった。博士は「現実主義の大家」「米国史上最も偉大な国務長官」などと呼ばれている。中国では特に、米中国交正常化の道を切り開いたこともありキッシンジャー博士の評価が極めて高く、「中国人民の旧友であり良き友」などと評されている。キッシンジャー博士と親交もあった南京大学国際関係学院の朱鋒執行院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて博士の成し遂げたことや人となりについて回想した。以下は朱執行院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

発想の原点は「危機の管理と制御」

私は米国の大学や学術交流の場でキッシンジャー博士と何度かお会いして、米国の対外政策や中米関係などの問題について意見を交換したことがある。博士は傑出した外交家、政治家で、核抑止と国際的な安全保障、米ソが競った冷戦時代とポスト冷戦時代の米国の安全保障戦略などの分野で非常に重要な役割を果たした。1969年から1974年まではニクソン政権の国家安全保障補佐官、1973年から1977年までは米国務長官を務めた。1973年にはベトナム戦争の和平交渉を推進したことで、ノーベル平和賞を受賞した。

キッシンジャー博士は優れた国際問題学者だ。政府職を退いてからも著述を続け、特にこの30年間は執筆活動を熱心に行った。この3つの仕事をいずれも高いレベルでこなせた人は、非常に珍しい。

キッシンジャー博士はハーバード大学で博士課程を修了した後に、同大学にとどまって教職に就いたが、1969年は大学を離れて政界に入った。当時は米ソ冷戦の緊張が最も高まった時期であり、双方の核戦力は互いに「相手を確実に絶滅させられる」状態だった。キッシンジャー博士は対中関係の改善を進め、そのことで国際戦略における「力の構造」を変え、新たな「均衡」を産み出した

ベトナム戦争を終結させる大役を全うしたことには、大きな意義があった。キッシンジャー博士は、米国が東アジア情勢に過度のエネルギーをつぎ込んではならないとの考えを示した。

キッシンジャー博士は1970年代、米ソの核軍備管理交渉に積極的で、2つの超大国が戦略的安定を形成することを強調した。博士はまた、23年に及ぶ中米の対抗関係の氷を砕く役割りを果たした。1990年代にポスト冷戦時代が到来すると、中米関係についてさらに深く考えるようになった。中米関係がさまざな試練に直面すると、キッシンジャー博士は「危機の管理と制御」戦略を明確に主張した。

キッシンジャー博士の学者としてのキャリアのスタートや外交官、国家安全保障担当補佐官、国務長官としての活動の時期は、基本的にすべて冷戦時代だった。博士の戦略思想と具体的な政策は世界全体の平和や安定、繁栄を維持するために重要な貢献をした。

イデオロギーの役割と影響はさほど重視せず

キッシンジャー博士の主たる学術思想は1950年代から70年代にかけて形成された。米ソの超大国が、人類史初の「核の均衡」や「核の恐怖」をもたらした時代だ。博士はそんな時代にあって、「米ソ関係の管理」に重点を置いた、最初の単著『核兵器と対外政策』では、米ソ間が衝突しても限定的な範囲にとどめるべきと主張した。博士はこの主張により、冷戦時代の力の均衡と相対的な安定の実現に大きく貢献した。

さらに思想の根底から言うのなら、キッシンジャー博士は典型的な現実主義者だった。「利益」と「実力」を強調する一方でイデオロギーの役割と影響をそれほど重視せず、イデオロギーを超えて力の分化した組み合わせを見いだすことを強調した。これが、米中関係の推進に力を注いだ根本的な理由だ。現実主義の理論の大家として、中国には何度も来ており、中国共産党をよく知り、中国に対して大きな偏見を持っていなかった。ここ数年は中米関係をコントロールし、中米関係を深い溝や衝突に陥らせてはならず、さらに全面的な対抗状態になってはならないと何度も強調した。

キッシンジャー博士と交流して知ったのだが、学問においても生活においても温和な人だが、自分の思想や視点については頑固だった。冷戦時代が終わると米国の対外政策はより「自由国際主義」になり、人権などの価値感を輸出しようとするようになった。キッシンジャー博士は依然として現実主義を堅持して、米国がイデオロギーによる過度の対抗を図ったり価値感の輸出を強調することにはとりわけ納得しなかった。

中国人がキッシンジャー博士のことを懐かしく思う背景には、中国人が米中関係を重視していることもある。最も重要なことは「歴史を鑑(かがみ)として未来に向う」であり、キッシンジャー博士の戦略的見識や政治の勇気、外交の知恵を継承し、発揚することだ。

これほど中国共産党を知る外交官は空前絶後か

このような大物の戦略家、政策決定助言者が去ったことが、米国の対中政策の変化につながるとの懸念があるかもしれない。確かに、中米両国がいかにしてイデオロギーと政治制度の相違を乗り越え、いかにして両国国民の利益や世界の平和発展を真に最優先するかは、まだ答えが出ていない問題だ。

「時代が英雄を作る」という言葉がある。誰もが特定の歴史的環境の産物だということだ。今日の中米関係はすでに大きな変化を遂げており、将来の安定と発展は非常に重要だ。われわれはキッシンジャー博士をたたえ、懐かしむだけなく、博士の思想から養分を吸収し続け、前を見続けねばならない。少なくとも私は、キッシンジャー博士の思想と英知を信じている。博士が亡くなったからといって博士の影響力がなくなることはない。

キッシンジャー博士は88歳の高齢で『中国論』という書物を出した。私はこの本を何度も読んだが、内容がとても豊富で、古い世代の米国人学者の中国認識が反映されている。博士は外交官時代に毛沢東周恩来トウ小平といった古い世代の中国の政治指導者と接触し、その後何世代にもわたる中国の指導者に会ってきた。博士はこの書物の中で中国の政治指導者に対する印象を述べ、中国人の奮闘精神、民族の自強自立精神が絶えず続いていることを見て深い感銘を受けたと書いている。高級外交官としての中国との付き合いの高さと深さは普通の米国人とは比べものにならない。多くの米国人は中国関連の経験が乏しいために中国を理解しておらず、限定的な固定観念だけを当てはめて中国を判断している。

これほど長期にわたり、深く、さらに高い視座を持ち中国の指導者と交流できる人はいなくなるかもしれない。そういう意味では、ひとつの時代が過ぎたということになる。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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