巨木が秘める「複数の情報」とは何か―世界で2番目に高い木を調査した専門家が説明

中国新聞社    2023年11月25日(土) 23時0分

拡大

中国では今年になり、チベット自治区ニンティ市ポメ県内で樹高が36階建てのビルに相当する101.2メートルのイトスギが確認された。世界で2番目に高い木だ。

中国では今年になり、チベット自治区ニンティ市ポメ県内で樹高が36階建てのビルに相当する101.2メートルのイトスギが確認された。世界で樹高が最も高い北米のメタセコイアに次ぎ、アジアでは最も高い巨木だ。このような巨木からどのような秘密が読み解けるのか。中国メディアの中国新聞社は、この巨木を調査確認したチームにも加わった福建農林大学の王孜准教授に事情を尋ねた。以下は、王孜准教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

過去の環境を知り将来の予想に役立つ巨木

人類が巨木の発見と研究を始めたきっかけの一つは、米国が1890年にセコイア国立公園を設立したことだった。100年以上が経過した今、巨木研究は非常に整った体系を持つようになった。

巨木は森の健康のバロメーターだ。巨木の存在は、森が完全な状態であり、人手が入っていないことを示す。だから、巨木の保護の研究は、森全体を守る研究でもある。

また、数十メートルの巨木には数十種類の植物が着生していて、独特の生態群落を形成していることが多い。巨木に付随する各植物には高さによる気温や水分の変化により、ちょうど山岳植物のような垂直変化が生じる。巨木の環境多様性や、植生の垂直変化を知ることで、多くの謎を解くことができる。

巨木には環境や気候変動の「目盛り」も残されている。一般的に、樹高が70メートルを超える樹木が巨木と認められるが、ほとんどの巨木は樹齢が数百年で、中には1000年以上に達するものもある。巨木は長い生涯の間に、気候の寒暖の変化や降水量の増減などを経験してきた。巨木にはそれらの痕跡が残されている。その痕跡を調べることで、巨木が生きてきた歴史的環境を逆算し、そこから未来の気候変化の傾向を推測することができる。

中国の巨木研究は出遅れたが現在では急速に発展

中国の巨木調査は出遅れた。最も早く認定された「中国で最も高い木」は日本統治時代の台湾で確認された樹高80メートルのタイワンスギだった。しかし、このスギは伐採されてしまったので、記録として信頼性に欠ける。中華人民共和国成立後には雲南省南部などに生える望天樹と呼ばれる樹木が巨木の代名詞になった。望天樹はフタバガキ科に属する木で、英語では「スカイツリー」と呼ばれることもある。しかし長年にわたり望天樹の調査研究は行われなかった。

中国人研究者が初めて巨木の本格的な調査研究を実施したのは、1973年の第1回青海チベット高原総合科学調査研究だった。高さ70メートル以上の多くの巨木が記録され、一部の木では果実や種子の標本が作られた。中国人研究者はすでに、チベット南東から雲南北西地区に異常に巨大な樹木が存在することに注目していたが、道具と技術に限界があり、正確な高さを測定することは困難だった。またこの研究以降、中国の巨木研究はしばらく途絶えることになった。

台湾では2017年ごろから巨木の調査が活発化した。科学者とボランティアが共同でレーザーレーダーと木登り技術を利用して中央山脈の巨木を調査したところ、84.1メートルのタイワンスギが発見された。大陸部でも同年には巨木の科学調査が始まり、約3年間で72メートルのタイワンスギ、76.8メートルのブータンマツ、83.4メートルのトウヒの仲間が発見された。そして今年になり、100メートルを超える高さの樹木が確認された。樹高がより高い巨木の発見が続いていることは、中国の巨木研究が急成長期に入ったことを示している。

今年になり樹高101.2メートルの巨木が発見された森では、100メートルを超える巨木が2本以上あり、90メートルの巨木は25本が確認された。また木に登って調査したところ、木の表面で高等植物約46種が発見された。着生植物のうちラン科植物は8種類で、新種2種が発見された。その他にも特色のある着生植物は多く、今後の分析が待たれる。

101.2メートルの巨木の樹齢は約1450年と推定された。もう1本の100を超す巨木は約1400年だ。現場の状況からして、この森にはさらに高い樹木が存在する可能性がある。

巨木については多くの謎が今も未解決

巨木の科学的調査のためには木に登る必要もある。もちろん木を傷めないように細心の注意が必要だし、いくつかの方法も確立されている。例えばロープの使い方などだ。また樹上には何も残さない。

木の梢(こずえ)、つまり上端部にまで上ることはできない。一般的には3メートルから5メートル手前までしか登らない。しかし樹木の最上部の樹冠層と呼ばれる部分は、樹木の科学的研究の焦点の一つだ。直接には登れないとすれば撮影するしかない。また巨木の全容も記録したい。かつて、この撮影が実に難題だった。

その方法とは、映画の撮影で使われていた撮影機のレールシステムを設営し、大型カメラを移動させて撮影するものだった。米ナショナルジオグラフィック誌が資金提供したセコイアなど北米の何本かの巨木の撮影は、この方法で実施された。半月から1カ月程度の期間がかかり、100万ドル(2023年11月の為替レートで約1億5000万円)もの費用が必要だった。

しかしドローンの技術が進歩したことで、巨木の全体像の撮影は劇的に変化した。かつては数十人のチームを必要としたが、現在では優秀な操縦者が1人、ドローン1機、バッテリー数個があれば、半日で終わらせることができる。

ただしそれでも、容易でない部分は残る。森林に生える巨木を撮影するので、ドローンが周囲の樹木に接触しないで上昇できる「天に抜ける穴」を探さねばならない。操縦者には高い技量が求められる。ドローンを墜落させてしまうことは、よくある事故だ。また、光線の具合や湿度も撮影に影響する。もやがかっていれば、撮影には不向きだ。ポメ県内での巨木の撮影では、めったにない晴天に恵まれた。

樹木がどこまで高くなれるかには、幹の強度と樹木の生体機能によりどれぐらいの高さまで水を届けられるのかの2つの条件が関係する。だから、巨木には「限界」がある。巨木がどのように高さ100メートルまで成長するのか、巨木の最上部が水不足の状態にどのように適応するのか、着生動植物がどのような生活習性を持つのかなど、巨木については多くの謎が、今も解明されていない。

これらの巨木を自然と調和する状況で生かし、その生息地を守るためには、生物多様性の研究を強化することが重要だ。そこで気になることがある。数年前からチベット南東地区を中心とする巨木が生育している地域で、年間降水量が明らかに低下傾向にあることだ。各国は人類運命共同体の理念を堅持し、肩を並べて地球という「わが家」を守り、古い巨木の生長により適した生態環境を維持せねばならない。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携