八牧浩行 2023年11月17日(金) 5時0分
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バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は15日午前、米カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で会談した。
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は15日午前(日本時間16日早朝)、米カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で会談。途絶えている米中両軍高官の対話を再開させることで合意した。台湾海峡や南シナ海での偶発的な衝突を防ぐ狙いだ。このほか経済関係をはじめとする米中両国の課題や世界が直面している中東やウクライナ情勢についても協議した。
米中首脳会談はサンフランシスコ中心部より40キロほど南にあるカリフォルニア州ウッドサイドにある「ファイロリ」邸で開いた。両首脳は会談前に共に右手を挙げて笑みを浮かべ握手を交わした。会談はおよそ4時間に及び、少人数での昼食会の後、両首脳は2人だけで庭園を散歩した。
会談の冒頭、バイデン大統領は「対面での協議に勝るものはない」と強調。その上で「われわれは長い付き合いだ。常に意見が一致したわけではないが、誰も驚くことではない。対話を大切にしているのは、誤解や行き違いのないようにはっきり理解し合うことが最も重要だと思うからだ」と表明。さらに「競争が衝突に発展しないようにしなければならない。責任を持って競争を管理しなければならない。それが米国の希望であり狙いだ。世界もわれわれにそう望んでいる」と指摘。気候変動や人工知能(AI)などの分野を挙げ、「お互いの利益になると判断すれば協力する責任がある」と呼びかけた。
これに対し習主席は「地球は十分に大きく、米中が共に成功するのは可能だ」と呼応、両国の共存共栄をアピールした。「私とバイデン大統領はかじ取り役であり、国民、世界、そして歴史に対して重い責任を持つ。中米関係の戦略性や方向性、世界の平和と発展に関する重大な問題について深く意見交換し、新たな合意に到達したい」と語った。
会談では両軍の高官協議や国防当局の対話、海上軍事安全保障会議も再開することを確認した。両軍の戦闘区域のトップ同士で連絡を取り合うことも申し合わせた。
バイデン大統領は会談後の記者会見で「建設的で生産的な議論だった」と実りのある会談だったと語った。米中の競争が「紛争に発展しないように関係を合理的で管理可能なものにするのが私の責任だ」と表明した。その上で、中国本土と台湾が不可分だという中国の立場に異を唱えず、米国が台湾の安全保障に関与する「一つの中国」政策を維持すると改めて明言した。
習主席は会談で「世界経済は回復し始めたが、その勢いは不十分だ。産業サプライチェーン(供給網)の混乱や保護主義の台頭といった問題は顕著になっている」と言明。経済安全保障を理由に先端半導体などの対中輸出・投資規制を主導する米国をけん制した。
両首脳は人工知能や経済に関する政府間対話を立ち上げることを確認した。AIの軍事利用に関する懸念が広がっていることに対応するものだ。
また医療用麻薬フェンタニルを念頭として両国が麻薬取り締まり対策班を設置することなどで合意したことも成果と言える。フェンタニルの過剰摂取による死者が米国内で激増しているため、米中両国が解決に向けて協調することになった。
さらに米国が経済安全保障を理由に進めてきた先端半導体などの対中輸出・投資規制も取り上げられた。中国は技術開発やサプライチェーンに影響が出ており、かねて撤廃や緩和を求めてきた。
米国では対中輸出規制により半導体製造装置の対中輸出が半減し、関連業界は大きなダメージを受けている。航空機、自動車など他の産業分野についても、米中対立による打撃が甚大なため、ビジネス機会の減少に金融・産業界の不満は高まっており、「世界最大の市場(中国)を失うな」と猛烈なロビー運動を展開している。バイデン政権は半導体の対中規制をトーンダウンし、軍事開発に直結する分野に限定するなど緩和する方針だ。
イエレン財務長官はじめ米国の経済閣僚が相次いで北京入りし、「中国との経済枠組み設置」で合意している。
このほかバイデン大統領はイランとサウジアラビアの国交回復を仲介し、イランなどとパイプを持つ中国が中東情勢やウクライナ紛争でも協力するよう促した。
今回の米中首脳会談で、米中関係が激しい「競争」関係にある中で協力できるところでは協力することを相互に確認したことは大きな意味を持つ。緊密なコミュニケーションの促進で一致し、首脳会談や閣僚会談を頻繁に開催することになったことも特筆される。特に米中間の伝統的な合意事項である、「中国は一つ」の原則を米国が再確認。バイデン氏が台湾海峡の安定の重要性を強調し中国による武力侵攻をけん制したのに対し、習氏も平和的統一方針を示したことも注目される。また中東情勢など、目下の国際情勢や、いくつかの二国間における懸案を話し合った。
両首脳はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、サンフランシスコ入りしている。習氏の訪米は2017年4月以来、約6年半ぶりで、バイデン氏との会談は昨年11月にインドネシア・バリ島で実施して以来、約1年ぶりとなった。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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