中国新聞社 2023年11月12日(日) 23時30分
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映画「グリーン・デスティニー」で2000年の米アカデミー賞の美術賞と衣装デザイン賞を受賞したティム・イップ氏(写真)は自分の芸術姿勢を「新オリエンタリズム」と説明する。どういうことなのだろうか。
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現代を生きる東洋人の精神性はかつてとは相当に違う。変化をもたらした最大の要因は西洋の文化文明との出会いだった。西洋の文化文明の強大な科学技術力と科学技術力を背景とする軍事力は全世界を席巻した。西洋の文化文明に直面し、その多くを取り入れざるを得なかった東洋人にとって、自らの文化文明をいかにして再構築するかは大きな課題だ。文化芸術の創造に関わる人の多くは、その問題意識を持っている。香港人の葉錦添(ティム・イップ)氏も、そんな一人だ。イップは映画「グリーン・デスティニー」(2000年公開)で2000年の米アカデミー賞の美術賞と衣装デザイン賞を受賞したなどで知られ、その他にも多くの芸術分野で活動している。イップ氏はこのほど、英ロンドン市内で中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、制作に取り組む考え方や自らの立ち位置を語った。以下はイップ氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
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私は自分自身の立場を「新オリエンタリズム」と言っている。私が生まれ育ったかつての香港の文化は中国と外国のはざまにあり、自分自身の根源を見いだすことが困難だった。デザイナーは外国の雑誌に掲載されている作品を「原作者にバレなければよい」程度の考えで、自分の作品に“化け”させた。その背景には、外国人デザイナーのレベルには到達できないとも考えていたこともある。
私はそんな状況に戸惑った。そして、中国の美を改めて見いだして、中国の美を世界に知ってもらおうと思った。そのためには「自力更生」によってこれまでと違うものを作るしかないと考えた。これは一種のヒロイズムだ。つまり新オリエンタリズム美学の原点はヒロイズムだった。
映画「男たちの挽歌」(1986年公開)の制作にかかわった後、私は欧州を巡り歩いた。そして欧州の美学を深く理解するにつれて、自分には創作力の源泉が不足していることに気付いた。創作のための「心の拠点」が欠落していたのだ。私は、西洋に追随するのではなく、自分自身の美学の言語を持たねばならないと悟った。そこで、中国の伝統美学についての研究を始め、視覚言語として体系化することで、中国の美を新しい時代に向けて表現しようと考えた。
「グリーン・デスティニー」では、東洋の美しさを表現したいという思いがあった。そこで美術デザインで、古い城壁や竹林、瓦などで簡潔かつ古典的な雰囲気を出した。「新オリエンタリズム」は伝統の複製でもポストモダンの脱構築でもない。中国文化の視座で見えてくる世界と自己を再構築することだ。私は絵画、写真、彫刻などのさまざまな媒体を通して創作を試みている。ここ数年は「精神のDNA」を探求し、「別次元」からパラレルワールドに再突入しようと努めてきた。
「精神のDNA」が芸術の思考パターンの源泉であるならば、「新オリエンタリズム」は文化精神の芸術としての具体化だ。時間の次元から見ると、芸術の創作とは永遠に進行中で、一瞬ごとに未知と試練にぶつかり、同時に再融合の過程にも出会う。だから私が言う新オリエンタリズムの「新」とは、生まれているがまだ生まれていない、既存と無の間にある瞬間を指す。
西洋の文化的思考は独立していて、互いに交わらない線のようだ。東洋の文化的思考は重なり合って融合する。西洋は実を重んじ、東洋は虚を重んじる。そして時代の進化とともに、東西の文化は接点を持ち、彼我の知恵を共有するようになった。私は長い間世界を旅し、中国文化を深く探求し、それから東洋人の視点で世界を改めて見て、独自の文化価値を得た。それは、自らの文化の根源を取り戻し、中国の優れた文化を世界と分かち合う作業だった。
「新オリエンタリズム」の美学は単一の標準で芸術創作に取り組むのではない。東洋の文化を再理解しようという試みであり、世の中を見つめ直そうとすることだ。世界において東西の文化は互いに照合し合い、ぶつかり合い、それぞれが前進する力を得ている。互いに長所と短所を補い、異文化の優れた伝統とつながりを絶えず吸収し理解することを通して芸術創作者の視野を豊かにしてこそ、中国と西洋を融合することができる。
人はかつて、映像作品を目の前の現実と認識した。映像と現実を区別するためには“訓練期間”が必要だった。例えば、リュミエール兄弟の世界初の短編映画が1895年にフランスのパリで公開された時には、「列車がこちらに向かって全速力で走ってくる」シーンで、観客は恐怖のあまり会場から慌てて逃げ出したという。しかし100年余りが経過した現在、映画は映像や音声を通じて観客と交流するための構築物、つまり文化の重要な構成部分と認識されている。われわれにとっては、中国文化に秘められる「至高の無形」を深く理解し、それを「有形」の中で表現すること努力していく方向だ。
伝統的な芸術形式の目的は現実を再現することだ。以前は現実そのものを表現しようとしたが、そのような技術はなく、現実世界を特定の媒体に落とし込むしかなかった。現在は人工知能(AI)などの科学技術の発展が芸術創作により多くの可能性がもたらされた。芸術表現はもはや、現実を単純に再現するだけでなく、人の思想や記憶さえも、技術的手段によって表現することができるようになりつつある。新技術は芸術手段の制限を打破し、アイデアのより正確な提示を実現し、非常に膨大で複雑な「新世界」をわれわれにもたらす。これらの新技術を、われわれが中国文化の奥深さをより深く研究し、探求し、中華民族の文化の神髄を解釈して、国境の制限を越えて示すことに役立てることもできる。(構成 / 如月隼人)
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