日本語の先生から思わぬ質問=私はその時、噓をついた―中国人学生

日本僑報社    2023年9月23日(土) 21時0分

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「先生、私でいいですか」。マイクをオンにしただけで、私の心臓は激しく鼓動した。

この1年間日本語を教えてくれた孫姸先生は私にとって、まさに勇気を与えてくれた光だ。私たちの日本語能力を上げるために、先生が色々な発表をやらせてくれたことを今でも覚えている。『日本語生中継』という聴解練習のアフレコもその1つだ。

私は、母親が厳しかったためか、いつも人前で完璧でありたいと思っていた。そのアフレコの発表は難しかったのだが、文を読めるようになるまで喉が渇いてもやめず、練習し続けた。発表の日になってもやはり完璧にできないのではないかと私は不安だった。その日先生は私たちにのびのびと発表させるために、発表する人を指名しなかった。

「誰か挑戦してみませんか?」。先生は何度も自分から申し出る学生を尋ねたが、誰もマイクをオンにする者はいなかった。その時はコロナのせいで、授業をネットで行っていたので、イヤホンの中で、先生の声だけが聞こえて、さらに静かになったのを覚えている。その時、私は教師である母親の言葉を思い出した。

「授業をしていて、誰も反応してくれないと、教師は砂漠にいるような無力感に襲われる」。私はいつも元気いっぱいの孫先生が砂漠の中で茫然としている姿を見たくなかったので、やってみようと思った。「先生、私でいいですか」。マイクをオンにしただけで、私の心臓は激しく鼓動した。そして、私はミスをしないよう祈りながら、発表を始めた。最初は緊張しすぎてミスをしたが、少しずつ練習した内容を思い出して冷静になることができた。そして、私は震えた声を安定させて、思い浮かんだアクセントで続けた。無事終了した後、私はすぐにマイクを切った。

「胡さんは凄いね。アクセントは録音とほぼ同じで、発音もきれいだった!何度も練習したでしょう」という先生の言葉に自分の努力が認められて、本当に嬉しかった。しかし、その時、先生から思いもよらない質問を受けた。「胡さんは、自分がやりたいから発表したの、それとも、誰も出なくて、先生が寂しくないかと心配でやったの」「先生、私は自分がやりたいから発表したんです」。私はその時、噓をついた。先生がそこまで考えているとは思わなかった。「それならよかった。もし胡さんは誰も出なかったのでやったのだとしたら、悲しいわ」。先生にそう言われて、私はドキッとした。

「進んでやることは大事だ。練習したら、その成果を皆に見せて。途中で間違えても構わない。本当に努力すれば、先生に褒められる。先生に褒められると、次はもっとうまくやろうと思って、どんどん挑戦して、どんどん自分を出して、どんどん褒めて貰う。そういうよい循環が生まれる。そうすれば、みんなも頑張ろうと思うようになるでしょう」

先生のこの言葉を聞いた私は、自身と向き合うことを恐れていた自分が情けなくなった。先生が私の思惑や臆病さに気付いたかどうかはわからないが、先生の言葉は私の心に響いた。私は以前、練習さえすればいい、失敗するのは屈辱だと考えていた。しかし、先生の言葉を聞いて、自分の考え方が間違っていたことに気づかされた。本気でやれば、失敗しても恥ずかしくない。私は勇気をだして、悪循環を好循環に変えるべきだと思った。そして、先生の期待に本当に応えるためには、先生のためではなく、自分のために頑張ることが大切なのだということがわかった。

それからは、どんな授業でも、できるだけ自分から積極的に先生の質問に応えるようにしている。先生に励まされた喜びが自分を成長させてくれていると感じている。「人生の勝利は、すべて勇気から始まる。一歩踏み出す勇気、くじけぬ勇気、自分に負けない勇気……勇気こそが壁を破る」。創価学会会長の池田大作はこう言っている。孫先生のお陰で、私は自分を変える勇気を貰うことができた。これからも困難を乗り越えて前に進んでいきたいと思っている。

■原題:先生からもらった勇気の種

■執筆者:胡佳怡(大連外国語大学)

※本文は、第18回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集『日中「次の50年」――中国の若者たちが日本語で綴った提言』(段躍中編、日本僑報社、2022年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。


※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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