自動運転業界に再編の動き、滴滴出行は小鵬、トヨタは小馬智行と合弁会社設立

高野悠介    2023年9月27日(水) 10時0分

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自動運転業界に再編の動きが広がっている。写真は小馬智行の自動運転車。

8月に自動運転関連のニュースが相次いだ。ライドシェア(配車アプリ)最大手・滴滴出行(DiDi)がスマートEV(電気自動車)部門を「造車新勢力」の1つ、小鵬汽車(シャオペン)へ売却した。自動車メーカー最大手のトヨタは小馬智行(Pony AI)と合弁会社を設立し、ロボタクシーの生産計画を発表した。滴滴出行とトヨタは4年前から提携関係にあるが、別方向へ動いているようにも見える。実情を探ってみよう。

トヨタ、2019年に滴滴出行と提携

トヨタは2019年7月、滴滴出行と中国でのモビリティーサービス(MaaS)領域の協業拡大に合意したと発表した。トヨタは滴滴出行に6億ドルを出資し、同年9月には合弁会社「豊桔出行(北京)科技有限公司」を設立した。資本金は1億5795万ドルで、事業内容は自動車および自動車部品販売、レンタカー、配車アプリ運営など幅広い。滴滴出行はドライバーとユーザーをつなぐ仲介プラットフォームでしかなく、トヨタの成熟した技術と安定した品質、豊富な資金と車種ラインは魅力的だった。目標は本業強化の延長線上に独自のロボタクシーサービスを展開することだ。

豊桔はトヨタと広州汽車の合弁会社・広汽豊田と共同で各地に支社を開設し、トヨタ車をライドシェア事業に供給しはじめた。現在、サービス範囲は広州、天津、寧波、温州など全国14都市に広がっている。

滴滴出行、EVと自動運転の自主研究開発

滴滴出行は自力での自動運転開発、EV製造も模索した。

自動運転では、2016年に研究グループを立ち上げ、2019年に子会社「滴滴自動駕駛」を設立。同年に上海市からテスト走行用のライセンスを取得し、2020年に有人テスト走行を、2021年に連続5時間の無人走行を一般公開した。広州市花都区、広州汽車と提携したほか、ボルボから自動運転用車両の提供を受ける。北京とカリフォルニアで自動運転テストライセンスを取得。2023年4月に広州と上海の滴滴ユーザーにロボタクシーサービスを開始した。

EV製造では、2018年に造車新勢力の理想汽車と提携したが、これは早々に失敗。2020年に今度は比亜迪BYD)と提携し、同社のe-プラットフォームをベースにした初モデルD1を発売した。滴滴出行はこの時、2025年にD3を発売して100万台を普及させ、2030年に運転席を撤去した完全自動運転車を発売すると宣言した。しかし、D1の不振であえなく頓挫した。

それでもめげず、2021年に達芬奇(ダビンチ)事業部を発足。EVセダンの計画を進め、執念を見せた。直近では人員1700人を抱えていた。

滴滴出行、自動運転を小鵬汽車に売却

ところが滴滴出行は2023年8月末、自動運転研究開発と関連資産を小鵬汽車に売却すると発表した。価格は58億3500万香港ドル(約1107億円)。売却後、滴滴出行は小鵬汽車に戦略的株式投資を行い、両者は長期にわたるパートナーシップを確立する。

小鵬汽車は2014年、EV製造とその先の自動運転実現を目指し、広州で設立した。2018年に初めての新車をリリースし、やがて「造車新勢力」の雄として蔚来汽車、理想汽車と共に「蔚小理」と並び称される存在になる。

自動運転部門では、米クアルコム出身の呉新宙氏が2019年に入社し、副社長として研究開発をリードした。以後、駐車メモリー機能や高速道路での自動運転補助システムを発表、北京から広州までの長距離テストを行うなど、自動運転界のトップランナーとなる。

発表によると、小鵬汽車は2024年にスマートEV「MONA」の量産を開始する。これは滴滴ダビンチプロジェクトの継続だ。15万元(約300万円)クラスの大衆車を小鵬ブランドで発売する。滴滴出行との協業は小鵬にとって大きなプラスとなりそうだ。滴滴出行は経営資源をロボタクシーの運営に絞り、ここでも主導権を確保するのだろう。

トヨタと小馬智行の提携

一方、トヨタは小馬智行と提携する。豊田汽車(中国)投資有限公司、広汽豊田、小馬智行の3社は年内に10億元(1億3750万ドル)を出資し、ロボタクシーの運営会社を設立する。

小馬智行は2016年、百度(Baidu)で自動運転を研究していた彭軍氏と楼天城氏の2人が広州で設立した。広州、北京、上海、シリコンバレーに研究センターを開設し、1センチ単位の測位技術を自主開発した。トヨタは2020年2月に4億ドルを出資。現代自動車、広州汽車、第一汽車とも提携した。2022年3月、Dラウンド融資完了後の企業価値は85億ドルとされた。

新しい合弁会社は、広汽豊田のEV車用プラットフォームを利用して、ロボタクシー車両を生産する。

ロボタクシー商業化の争い

滴滴出行、小鵬汽車VSトヨタ、小馬智行という陣営にはっきり分かれたわけではない。比亜迪と広州汽車はどちらにも絡んでいる。トヨタは2019年11月に比亜迪と提携した。50%ずつ出資し、純EVとその部品の設計と開発を行う「比亜迪豊田電動車科技有限公司」を2020年3月に設立した。

さらに今年7月、広汽豊田は新たにIT巨頭のテンセントと提携した。自動車産業のDX化を進め、デジタル人材を育成する。トヨタは八方に目配りし、大物企業と手を組み続けている。ただ、失う物のないテスラと違い、提携を含め、やることが多すぎるのが悩みに違いない。今後は滴滴出行と小馬智行どちらのロボタクシーが先に商業化に成功するか注目だが、トヨタにとってはどちらでもかまわないのだろう。したたかである。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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