日本僑報社 2023年8月27日(日) 10時10分
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子どもというのは、周りの大人が思っている以上に敏感だ。ちょっとした感情の機微で、この人に嫌われていると、すぐにわかるのである。そしてその理由が、自分が「在日中国人」だからだ、ということも理解している。
児童精神科医という仕事をしていると、日本の子どもだけではなく、在日の子どもたちと話す機会も多い。その中でいつも思うことは、日本と中国の関係性だ。
国交正常化50年。49歳になる私には、歴史的背景があって、お互いにあまりいい感情を抱いていないのはわかる。だがそれは、今の時代の子どもたちには関係のないことだ。いや、もう子どもだけではなく、大人もそうだろう。確かに政治レベルでは、色々な問題が山積みになったままになっているため仕方がないと思うが、国民レベルではそんな問題はどこにもないはずだ。それなのに、政治レベルの話を国民レベルの話と同じように感じ、お互いにいい感情を持たないようにしているとしか見えない。この風潮をなくすためにも、政治家自身に「政治と人の交流は違う」とはっきりと明言してほしい。だが、少なくとも私はそんなことを言っている政治家を知らない。
小学校や中学校の中には、在日中国人の子どももいるが、彼ら彼女らは、そのことを公にしない。両親から言わないように言われていることがほとんどだ。本来、在日中国人の子どもには何の罪もないし、差別されるいわれもない。日本人の子どもと、何ら変わらない存在。だが、人の感情というのは、そうもいかない。在日中国人だとわかった瞬間に、人はその人のことを見下したり、嫌悪したり、差別をするからだ。
「私はそんなの気にしないよ」と口で言っていても、態度でそれが本人に伝わるものだ。というよりも、「そんなの気にしないよ」という言葉もすでに偏見のあるものだし、上から目線の言葉になっていることに気づいているだろうか?例えば、東京の小学校で、「私、出身は群馬県なの」と言った時に、「私はそんなの気にしないよ」と言うだろうか?「へーそうなんだ」とか「群馬って行ったことないけど、どんな場所なの?」とか、そういう言葉が続くはずである。都内の小学生が「群馬出身」ということを告げる時は、おそらく自分が田舎者だからという気持ちがあって、恐る恐る言っている場合があるが、基本誰も田舎者扱いはしない。だが、中国だったらどうだろうか?子どもも親も違う反応をしていないだろうか?
また子ども同士では何も偏見がなかったとしても、在日中国人の子どもが、日本人の子どもの家に遊びに行ったときに、日本人の親が他の子とは違う目でその子を見てしまうということもある。
子どもというのは、周りの大人が思っている以上に敏感だ。ちょっとした感情の機微で、この人に嫌われていると、すぐにわかるのである。そしてその理由が、自分の性格ではなく自分が「在日中国人」だからだ、ということも理解している。そうすると、幼心に「在日中国人」であることが、いけないことなんだと刷り込まれて行ってしまうのだ。
日本人の多くは、中国人に対して反日感情を持っている人たちだという認識を持っているが、自分たちが中国人を侮蔑している意識が少ない。だから自分は悪くないのに、あいつらは……という思考になるのである。向こうが反日なら、こっちだってという感情もおかしなものだが、まずは何が「偏見の目」なのかを理解しない限り、この無意味な感情が取り払われることはないだろう。
私は偏見の目を取っ払って、一人の人間として彼ら彼女らと向き合ってほしいと切に思う。私は医師という立場ではあるが、彼ら彼女らと向き合って話をしている。それでわかることは、お国柄なのだと思うが、彼ら彼女らは非常に義理に厚いということ。
中国に帰った後も、私のようなおじさんに対して、「マイフレンド」や「ベストフレンド」と言って、日本にいる私に会いに来てくれるのだ。こんなに嬉しいことはない。中日の子ども友好の講演会を、教育委員会を通して主催者として迎えてくれたこともある。
子どもの発達には自尊感情が何よりも大事だ。それなのに、子ども時代に偏見の目で見られた子どもは、心の負担となる。正常な発達に支障をきたしているという理解も持ってほしい。「きらい」と言葉にしていなくても、それは相手に伝わっている。こちらの何気ない一言が、一生の傷になることだってある。自分が知らず知らずのうちに、深い傷を相手に与えているかもしれないのだ。
中国は日本の、まさにそばにある国。飛行機を使えば、気軽に行ける海外でもある。もうそろそろ、国民レベル、一般レベルで、国を理由に偏見を持つのをやめてみてはどうだろうか。国に対しての差別、区別はもう必要ない。人と人との付き合いを、相手が日本人でも日本人ではなくても、ちょっとした気持ちの切り替えでできるはずだ。まさに心のバリアフリーである。
私は一人でも多くの人に、そうなってほしいと切に願っている。そして私はこの発信を、何があってもやめるつもりはない。
■原題:心のバリアフリー
■執筆者プロフィール:秋谷 進(あきたに すすむ) 医師
1973年東京都生まれ、神奈川県横浜市育ち。桐蔭学園高等学校、金沢医科大学医学部医学科卒業後、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、三愛会総合病院小児科をへて、東京西徳洲会病院小児医療センター勤務。専門は小児神経学、児童精神科学、小児救急。子どもの心に寄り添った診療、「ベイビーファースト」を信条とし、日中友好を始め、多文化共生社会の形成を図っている。
※本文は、第5回忘れられない中国滞在エピソード「驚きの連続だった中国滞在」(段躍中編、日本僑報社、2022年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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