中国新聞社 2023年8月13日(日) 23時30分
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北京市内にある故宮博物院(写真)の所蔵品は古くから受け継がれてきた中国の美術や工芸の粋と思ってしまいがちだが、話はそう単純ではないという。
北京市内にある故宮博物院の「故宮」とは「かつての宮城」の意だ。明朝から清朝にかけて実際に宮城として機能していた時期には紫禁城と呼ばれた。紫禁城の名の由来についての完全な定説はないようだが、一般に「紫」は皇帝を象徴する色の一つであり、「禁」は「一般人は内部に入れない場所である」こと、つまり「禁中」であることを示すとされる。故宮博物院の所蔵品は古くから受け継がれてきた中国の美術や工芸の粋と思ってしまいがちだが、故宮や清朝史について多くの著作がある張程氏によると話はそう単純ででない。張氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、故宮/紫禁城の特徴を説明した。以下は張氏の言葉を整理して再構成したものだ。
故宮は明と清の2王朝の王宮建築群だ。故宮の重要性には、いくつかの側面がある。
まず第一に、明と清の2王朝の支配層の活動の舞台だったことだ。故宮は最高権力の中心地であり、重要な事件が起こり、重要人物が活動した場所だった。次に、当時の中国の建築文化と美術工芸品文化が集まる場所だからだ。故宮は現存する世界最大規模の最も完全な歴史的木造建築群でもある。
故宮博物院の調べによると故宮が所蔵する文化財は186万点以上で、うち貴重な文化財の割合は90%の160万点以上に達する。この収蔵点数は中国国内の博物館の中で最多だ。
ただし、故宮の文化財には集散離合の歴史がある。抗日戦の時期には戦争被害を避けるために故宮の所蔵品の多くを「租界」させた。その結果、最終的に台湾に運び込まれた文化財も多い。台北の故宮博物院の所蔵品は70万点近で、北京故宮の文化財の40%に相当する。一方で、北京故宮博物院には中華人民共和国が成立した後に政府が買い上げたものや、民間収集家が寄贈した所蔵品もある。つまり現在の北京故宮博物院の所蔵品は明代や清代の皇帝が所蔵していた物とは相当異なっている。
故宮の収蔵品の歴史上のピークは清の乾隆年間だった。乾隆帝は熱狂的な文化財愛好家で、多くの品を収集し、また多くの品を作らせた。乾隆年間に作られた多くの工芸品、さらには日用品も、今では貴重な文化財だ。
乾隆帝は多くの時間をかけ、紫禁城の宝物を点検させ、目録を作らせた。初期の目録には仏教や道教関連の収蔵品を記録した「秘殿珠林」と書画の目録の「石渠宝笈」がある。次に作成したのは青銅器の目録の「西清古鑑」とその続編だ。4番目は古書をまとめた「天禄麗逹瑯書目」だ。これらの目録4種は、かつての故宮の所蔵品の特徴と規模をしっかりと示している。
ただし乾隆帝の目録は現在の故宮博物院の収蔵品分類とは大きく異なる。例えば乾隆帝の時代に、故宮の所蔵品の中に唐三彩はなかった。というのは当時の紫禁城は政治の場であり皇帝一家の生活の場だったからだ。唐三彩とは要するに、唐代の墓からの出土品だ。そのような物品が紫禁城に運び込まれるはずがなかった。現在の故宮博物院では出土品も重要な所蔵品だが、いずれも近現代の発掘調査により出土したものだ。
故宮の現代における意義の一つに、文明の交流と相互に参照した歴史を示していることがある。例えば鐘表館(時計館)には清朝期に輸入した西洋製の時計が収められているが、さらに多くのものは西洋の時計を参考に中国で作られた時計だ。鐘表館の所蔵品の多くが、中国が西洋と結びつき、西洋の技術を中国のための用いた典型的なコレクションだ。
ただし歴史上の中国と外国の交流が、全面的に行われたわけではない。中国からは製紙技術や磁器、茶葉などが世界に広まったが、中国の深い思想が世界に広まって根を張ることはなかった。また中国の上流階級が西洋人のように進んで世界に進出して、中国文化や中国の統治技術を広めることもなかった。
現在は、中国文化や中国人の考え方を世界にもっと広めてもよい時代である。ただし、「中国の物語」を単純に紹介するだけではだめだ。例えば文化財について語る場合には材質や大きさ、見え方などを紹介するのではなく、その文化財を創造した職人が、なぜその材質や大きさを採用したのか、さらに、その時代に人は感情をどのように形に表し、その文化財がどのような影響を受けたのかを語らねばならない。
次に伝達手段がこれだけ多様化した現在にあって、文字と画像だけで紹介したのでは不足だ。例えばQRコードを利用してニューメディアに導いたり、精巧な印刷技術を利用して高精細度の書物を作ることもできる。より多くの人に喜ばれ、さらに文化財の背景にある物語に注目してもらうことが重要だ。
率直に言って、文化財や歴史文化は社会生活の中で、最も注目される分野というわけではない。それでも、経済関係や健康問題、家庭教育の話題と同様に注目してもらうにはどうすればよいのか。文化財の裏にある要素を掘り起こし、分かりやすく伝えやすい方法を工夫しなければならない。
中華民族は古くから、物を単なる物と見なすのではなく、物の中に思想文化や民族精神を見出してきた。故宮の所蔵品もそのように見て利用することができる。文化財から中華民族のいくつかの特質や歴史や文化の発展のいくつかの法則を垣間見ることができる。
また、故宮の所蔵品は中華文明の連続性を示している。世界の四大古代文明の中で、中華文明だけが中断することなく続いている。故宮のように、各時期の文化財を所蔵し、現代に至るまでの民族の各段階の発展を示すことができる施設は非常に珍しい。故宮は中華文明がどのように今日に到達したかを示し、未来はどこへ行くのかという問いを投げかける。
次に、故宮は中華文明の粘り強さや開放性、包容力を反映している。「引きこもり」の文明は5000年も6000年も続くことができない。銅に錫や鉛を加えたからこそ、十分な強さと適度の粘りを持つ青銅が誕生した。故宮の所蔵品で言えば、「乾隆皇帝大閲図」や「紫光閣功臣図」は、西洋近代絵画と中国の山水画の技法を融合させたからこそ、新たな境地に到達することができたのである。(構成 / 如月隼人)
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