八牧浩行 2023年4月18日(火) 6時30分
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世界経済に暗雲が漂っている。国際通貨基金が4月中旬に発表した「世界経済見通し」によると、2023年の世界経済成長率の最新予測は2.8%と、前回1月予測比で0.1ポイント下方修正された。
世界経済に暗雲が漂っている。国際通貨基金(IMF)が4月中旬に発表した「世界経済見通し」によると、2023年の世界経済成長率(GDP)の最新予測は2.8%と、前回1月予測比で0.1ポイント下方修正された。米欧でくすぶっている金融不安が再燃すれば、成長率はさらに2.5%まで低下するとIMFは見ている。
IMFは3カ月に1度、経済見通しを改訂。22年の世界成長率は3.4%で、23年が今回の予測通りならば前年比0.6ポイントの減速となる。ウクライナ危機や根強いインフレ、各国の中央銀行による金融引き締めなどが減速の背景になっている。
IMFのエコノミストは「過去の歴史と比べても経済成長は極めて低い水準にとどまっている」と指摘。その上で、「世界的なインフレから抜け出せていないのに、金融リスクが高まる非常に危険な段階に入っている」と懸念している。米国では3月、シリコンバレー銀行(SVB)など中堅銀2行が相次いで経営破綻。金融不安は欧州に飛び火し、スイス金融大手USBによるクレディ・スイス・グループの買収につながった。
IMFは、金融不安が再燃すれば、23年の成長率はさらに0.3ポイント低い2.5%まで落ち込むと推計。新型コロナ下の20年と、リーマンショックによる世界金融危機下の2009年を除けば、世界的な景気後退期だった01年以来の低い伸びとなる。
IMFは23年にドイツと英国がマイナス成長に陥ると予測。日本、ブラジル、インドの成長率も前回1月予測から引き下げた。日米とも1%台に低迷する中、中国、インドは5%台を維持する。
主要国の2023年の経済成長率(GDP)見通し
<米国>1.6%(0.2)
<ドイツ>▼0.1%(▼0.2)
<日本>1.3%(▼0.5)
<英国>▼0.3%(0.3)
<中国>5.2%(0.0)
<インド>5.9%(▼0.2)
<ブラジル>0.9%(▼0.3)
(IMF「世界経済見通し」より。かっこ内は前回1月予測からの変化。▼はマイナス)
IMFは米欧の銀行が、金融引き締めの影響で既に慎重になっていた融資を一段と絞り込むと懸念。過去に融資基準の厳格化につながった経緯を踏まえ、今回の銀行株安で1年先の米欧銀行の貸し出し能力が1%低下すると予測した。2023年には米国の実質国内総生産(GDP)を0.44%、ユーロ圏のGDPを0.45%押し下げると試算した。特に中堅・中小企業で融資縮小の影響が大きいとみる。
予測がぶれるのは各国とも政策手段が金利引き上げに限られているためだ。コロナ禍で悪化した債務残高と長期化する高インフレにより、財政支出による景気刺激策は困難にになっている。IMFの予測では72カ国のうち91%が24年になってもインフレ目標を上回る。
食糧安全保障への危機感の高まりや米中対立により、輸出入に規制をかける国も急増した。IMFは世界の貿易量の伸びが22年の5.1%から23年には2.4%に鈍ると予想している。
米連邦準備理事会(FRB)など先進国の中央銀行は、高インフレを抑えながら景気後退を回避する軟着陸を模索するが、IMFは「ハードランディングのリスクが大きくなっており、政策当局者が金融の安定、高インフレの抑制、成長の維持を両立できない」と懸念する。
IMFは4月中旬、半年に半年に1度まとめる国際金融安定性報告書(GFSR)を公表した。今回は3月に相次いだシリコンバレー銀行(SVB)などの破綻や欧州の金融大手クレディ・スイス・グループの同業による救済買収を踏まえ、銀行業界の混乱とその余波の分析に重点を置いた。
金利が長期間高止まりすれば、一部の銀行は流動性確保のため損失を覚悟した債券売却を迫られる可能性がある。IMFの試算は、こうした「金利リスク」が再び顕在化する恐れがあることを示す。住宅ローンなど期間の長い固定金利の資産を多く抱える銀行も金利リスクにさらされていると指摘した。
SVBの破綻後、他の銀行にも信用不安が飛び火し、FRBの統計によると米中小銀は3月半ばの1週間で過去最大の預金流出を記録した。金融機関が資金をやり取りする短期金融市場では資金調達コストが上がり、資金繰りが苦しくなった銀行はFRBなど公的機関からの融資に頼った。FRBが設けている「連銀貸し出し」と新設した「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」という2つの融資枠は直近の利用額が計1500億ドル規模で高止まりしている。
GFSRではウクライナ戦争が長期化する中、「世界の金融システムを揺るがせた金融の混乱について、リスクがすべて去ったと宣言するのは時期尚早であり、銀行の破綻は経済成長の重しとなる公算が大きい」との見方が示された。
激動する世界経済から目を離せない。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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