野上和月 2023年4月10日(月) 15時30分
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香港が生んだ大スター、レスリー・チャンが亡くなって20年となった今年、香港では、命日の4月1日を挟んでさまざまな追悼イベントが行われた。
「20年たってもあなたへの愛は変わりません」。香港が生んだ大スター、レスリー・チャン(張国栄、享年46)が亡くなって20年となった今年、香港では、命日の4月1日を挟んでさまざまな追悼イベントが行われ、献花と共にこんなメッセージが多く寄せられた。没後にファンになったという中国本土の若者も多く訪れ、世代や地域を超えて今なお多くの人に愛され続けていることを印象づけた。
今年は、香港の新型コロナウイルス対策の規制が撤廃されて初めて迎えた命日。しかも没後20年という節目の年とあって、さまざまな追悼イベントが登場した。
テレビ局はレスリー・チャンの主演映画の放映や特集番組を多数組んだ。ショッピングセンターでは巨大スクリーンでミュージックビデオ(MV)が流され、往年の姿に多くの市民が釘付けになった。アーティストらが描いた似顔絵展や、写真展なども開かれている。20年を記念した地下鉄乗車カードや現役スターらによる追悼コンサートのチケットは発売とともに完売。香港文化博物館では今年10月まで特別展を開催する――といった具合。没後10年をはるかに凌ぐ盛り上がりをみせている。
レスリーは1984年に吉川晃司のヒット曲「モニカ」のカバー曲が大ヒットし、一気にスターダムにのし上がった。その後も歌手や俳優、音楽プロデューサーとして、多方面で才能を発揮。「哥哥(お兄ちゃん)」の愛称で親しまれ、日本人ファンも少なくない。
そんな彼の死はあまりにも衝撃的だった。当時香港はSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染が拡大中で、感染者や死者が増え続ける不安と緊張の日々だった。そのさ中で流れた現役大スターの飛び降り自殺という訃報に、最初は誰もがエイプリルフールの悪い冗談だと思った。しかしそうでないと知り、香港中が一層重い空気に包まれた。レスリーの死はSARSとセットとなり、今も香港市民の脳裏に強く焼き付いている悲しい出来事なのだ。
命日には毎年、死亡した香港島セントラルのマンダリン・オリエンタルホテルに老若男女問わず、多くのファンが追悼にやってくる。花束で埋め尽くされたその場所で私は、日本語や韓国語、普通話(標準中国語)も耳にしてきたし、台湾、シンガポールなどのファンのメッセージも目にしてきた。香港にとどまらずアジアでいかに愛され続けているか手に取るように伝わってきた。
20年の歳月が流れた今年は、例年以上に多くの人が追悼にやってきて、ホテルに沿って長い行列を作った。とりわけ目を引いたのは、飛び交う普通話と、中国からやってきたとみられる多くの若者の姿だった。大陸-香港間のコロナの規制が撤廃されて、行き来が自由になったことや、命日が週末だったということもあり、来港しやすかったからだろうが、花束に添えられたメッセージには北京や上海、広州、四川、南京、雲南、湖北など実にさまざまな地名が書かれていた。中国の津々浦々にレスリーのファンがいて、駆け付けたのだ。以前この献花場で、レスリーが現役スターとして一世風靡していた頃、ラジオで歌を聴きファンになったという上海人女性の話を聞いたことがあるが、中国本土ではそうした年配者ばかりでなく、レスリーの没後にファンになった若者も少なくないのだ。
献花場の行列を普通話で誘導していたのは、なんと、内モンゴルからやってきたという若い女性ファンだった。友達から託されて献花した花束の写真を撮って携帯で報告している上海人男性や、携帯電話を手にビデオ中継して中国本土のファンに現場の様子をレポートしている若者たちもいた。
映像や録音の技術はどんどん進化し、同世代の若いスターも出てきているのに、30年も前に制作された映画やMVを見て新たなファンになっていく若者が少なくないのはすごいことだ。レスリーの何が今も多くの人を引き付けるのだろうか?
現役時代からファンだという香港人は、「レスリーと同世代の香港のアイドルたちは、貧しい生活から這い上がってスターにのし上がった。でも、彼の場合は、裕福な家庭に生まれ、英国留学も経験したからか、醸し出すセンスが他のスターたちとは違っていた。他の香港スターは、サービス精神を遺憾なく発揮してファンのハートをつかんでいったが、レスリーは彼自身の個性とセンスで我々ファンを魅了した」という。
没後にファンになった中国本土の若者はそろって「歌も踊りも演技もうまいし、カッコいい。作曲もする。とても個性的で、彼ほどのスターは、中国本土にも香港にもいない」とゾッコンだ。
さらに「レスリーが活躍していた1980年代から亡くなった2003年は、まさに香港の黄金期と重なる。その時代を駆け抜けた彼の映像や写真を見て、当時を懐かしく思い出した。私は歳をとっても彼は未来永劫あの当時のままだ」という香港人(49)もいる。
没後20年たち、人気が衰えるどころかさまざまな追悼イベントが開催され、世代を超えて多くのファンが集まってくる様子を見ていて、レスリー・チャンは香港が誇る大スターとして今後も愛され、輝き続けていくのだろうという思いを強くした。
■筆者プロフィール:野上和月
1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。 ブログ:香港時間インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89
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