3．米軍占領下の民主改革

私は人生観が形成される青年時代を米軍占領下の日本の民主改革の中で過ごしました。まずアメリカの民主主義に感化され、日本軍国主義への批判を積極的に行いました。詰め込み主義反対の啓発式教育に共鳴し、進歩的先生の教育実験に進んで対応していきました。他方、国内では国民党と共産党の国共内戦が始まり、共産党が勝利していくと、共産主義に共鳴するようになり、共産主義人生観が形成されていきました。同時期に日本共産党が復活し、その影響力が急拡大し、私もその影響を多く受けました。

高校2年の時、生徒自治会選挙で選ばれた執行委員長から「入閣」（執行委員になること）を頼まれ、会計係を受け持ちました。各クラブに予算を提出させ、その査定を行うのに苦労しましたが、それは実に良い経験でした。3月半ばに執行委員長が卒業、就職して学校を離れ、4月に次の執行委員長が選ばれるまでの間、私が執行委員長代理を任されました。この時、静岡高校から授業料値上げ反対の共同闘争を持ち掛けられ、前向きに対応しようとしたところ、校長に呼び出されてお叱りを受けたことが、今でもはっきり記憶に残っています。

高校3年は専ら大学受験勉強に集中し、一橋大学経済学部に入学できました。1952年4月、大学に登校して間もなくのこと、全学連から5月1日のメーデー参加の呼びかけがあり、喜んで参加しました。しかし、何とそれが流血のメーデーとなったのです。宮城前広場で警察の弾圧を受けてばらばらになったあと、弱みを見せてはならないと思い、マーキュリー（一橋大学のシンボルマーク）の旗の下に戻り、負傷者護送の任務を全うしました。この月の5・30事件（府中の軍事工場集積地でデモを強行）にも、日本共産党の手配に従って参加しました。私のこの積極性が評価されたのか、前期（小平）学生自治会評議会議長に推薦されました。

流血のメーデーは今ではほとんど忘れられていますが、当時、主権を取り戻したばかりの保守政権にとっては「革命の危機」を感じさせるものでありました。そして、共産党の暴力革命対策として公安調査庁が設置されることになり、現在に至っています。

戦後日本の民主改革は、生涯忘れられない貴重な経験で、中国の社会主義民主政治をより健全なものにしていく思案の糧の一つとなりました。1980年代半ばに、中国の政治改革を進める上での参考意見を求められたとき、たいへん役に立ちました。

■筆者プロフィール：凌星光

1933年生まれ、福井県立大学名誉教授。1952年一橋大学経済学部、1953年上海財経学院（現大学）国民経済計画学部、1971年河北大学外国語学部教師、1978年中国社会科学院世界経済政治研究所、1990年金沢大学経済学部、1992年福井県立大学経済学部教授などを歴任。