如月隼人 2023年2月19日(日) 7時0分
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中国の輸出産業は今、「受注が取れない」という深刻な状況に直面している。多くの地方政府が地元企業のために支援策を実施しているが、成果はあまり出ていないという。写真は広東省深セン市の塩田港。
最近、中国では多くの人が「あの外国からの貿易の注文はどこに消えたのか」を話題にしている。「国内消費者や経済の国内循環で(中国経済を)救えるのか」などの話題も出る。いずれも、厳しい状況に置かれていることを物語るものだ。春節期間の状況も輸出の不振を反映していると貿易関係者は言う。
上海の貿易会社の関係者に話を聞くと、春節期はかつて、海外から注文が殺到した時期だった。多くの企業は受注をこなすために、賃金を引き上げて労働者を確保した。しかし、2022年には状況が一変した。多くの工場が春節期の休業を早めに始めた。しかし、労働者のほとんどが休みを取らずに出勤したがった。「懐がさびしかった」からだ。
中国では多くの地方政府が、厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策が続いている時期からすでに、地元経済を維持するために、チャーター便を手配して、企業代表者が参加するビジネスイベントを海外で多く開催するようになっていた。「受注を何とか確保」するための試みだった。
中国企業にとって新たな顧客を得ることは容易ではなく、急務は自らが海外で開催される展示会などに参加して、古い顧客との関係を維持することという。米中関係は悪化しているので、中国による「売り込みイベント」は主に欧州と日本で行われている。「ゼロコロナ」政策が転換されたことで「売り込みイベント」はさらに活発になり、日本でもしきりに開催されるようになった。
中国メディアによると、例えば、湖北省武漢市政府が取りまとめた訪日代表団は12日から5日間にわたって東京、大阪、名古屋、奈良、神戸などを回って投資交流会を開催し、三菱商事やイオンなど40社を訪問した。
15日には、山東省の青島市政府商務局と日中経済協会が東京都内で企業交流協議会を開催した。目的は青島の企業が日本側から受注を獲得することや、新たな取り引き相手を得ることだった。
日本でビジネスを展開している中国人のビジネスマンによると、コロナへの対応を余儀なくされた3年間において国際情勢は大きく変化し、また日本では中国に関連するビジネスマインドが急速に冷え込んだ。中国の「売り込みイベント」の参加者は在日中国人が多く、効果は限定的という。
中国メディアは「受注防衛戦」の厳しさを説明するが、基本的には取り組みが始まったことを大きく報じるだけで、結果は紹介しない。ある在日中国人ビジネスマンは、結果を出せていないことが背景にあると考えるのが自然だとの見方を示した。
外国からの受注の減少の原因についての公式の説明は「欧米では自らの経済上の原因で消費需要が減退している」だ。しかしスイス在住で貿易業を手掛ける中国人実業家によると、事はそう単純でない。欧米の景気後退が一因であることは確かだが、このような全方位的な減少はあまりに唐突だ。さらに、ある分野は比較的ましだが、アパレル加工業のような全滅状態に近い分野もある。つまり、欧米側の景気の後退だけなく、輸出する側に逆境にやや強い産業と極端に弱い産業が存在すると考えねばならない。
また、詳しく調べてみれば、欧米の需要全体が減っていること以外に、注文が流出していることが分かる。欧米の顧客は商品を求めなくなったのではなく、中国に注文しなくなったのだ。
例えば、中国はフィットネス機器分野における絶対的な王者に登りつめた。生産規模はすでに世界のフィットネス機器生産量の7割以上を占めるようになった。しかし、この分野は参入の敷居が低いため、受注が流出しやすい。健康器具への需要は急増しているが、取引相手の多くは過去3年内に中国企業との関係を断った。
2021年からは、台湾系のフィットネス機器メーカーが大陸から次々に撤退し、生産ラインをメキシコに移した。彼らは1年余りをかけて生産規模を拡大させて大陸メーカーの受注に急速に食い込んだ。メキシコは生産環境が劣るが、人件費の低さに加えて物流や関税関連も低コストだ。その結果、大陸の製品は今年になり、競争力を大きく失った。こうした状況はますますエスカレートしている。
さらに、米中の貿易戦争という要因により、多くの海外業者が、価格が多少高かったり、いろいろな欠点があっても、可能な限り中国製以外の代替品を選ぶ傾向が顕著になった。
繊維製品や靴製品については、これまで多くの海外ブランド品が中国で生産されてきたが、中国から撤退する動きが本格化した。その分、中国からの輸出額は減少した。
中国ブランドの製品は生産コストが急上昇したために、ベトナムやインド、メキシコなどでは優位性が失われつつある。一方で、中国当局はしばらく前から加工業のモデルチェンジと質の向上を奨励している。たしかに「労働力集約型」から「先進技術集約型」に移行すれば、他国の企業への「注文先の変更」は食い止められるだろう。
実際に、技術開発への注力を継続することで、すでに成果を出している中国企業も存在する。しかしスイス在住で貿易業を手掛ける中国人実業家は、多くの中国企業には製品の研究開発の実績が不足しており、自主ブランド樹立の意識も乏しいと指摘した。注文の減少という現実に直面して、多くの企業経営者は廃業を考慮するか、あるいは情勢が好転することを受け身の姿勢で待ちながら経営を続けているという。
モデルチェンジや質の向上には長期的な投資が必要だ。効果はなかなか見えてこない。決して平坦な道ではなく、さまざまな試練に満ちている。労働者の生計を維持するためにライバルを打ち破るべく奮闘すべきか、それとも撤退して手っ取り早く収入を得られる他の方法を探すべきか、あるいは蓄積した富を使って人生を楽しむべきなのか。これは2023年に中国の企業家が直面せねばならない選択だ。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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