中華ファッション「馬面裙」の魅力と可能性について―デザイン・服飾史の専門家が紹介

中国新聞社    2022年9月28日(水) 23時30分

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中国では今、「漢服」と呼ばれる伝統的な衣装が注目されている。「馬面裙(マーミィエンチュン」とは、「漢服」の中でも重要なロングスカートだ。写真は、馬面裙。

中国では今、「漢服」が注目されている。漢服とは、洋服との融合で登場したチャイナ・ドレス以前に存在した本来の伝統服や、それに新たなアレンジを加えた服飾を指す。SNSの隆盛に伴い、「映える漢服」を着用して、その画像を投稿する若者も増えた。この漢服の一種として重要なのが「馬面裙(マーミィエンチュン)」と呼ばれるロングスカートだ。服飾史やデザイン史などを研究する臨沂大学美術学院の徐暁慧准教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、「馬面裙」の魅力や可能性、さらに「馬面裙」の背後にある中華の伝統文化などについて紹介した。以下は、徐暁准教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■衣装の美しさと機能性は切り離すことができない

「馬面裙」の特徴の一つは、ひだがあることだ。「馬面」とはもともと、城の防御機能を高めるために設けられた、城壁の突き出た部分を指す。「馬面裙」の言葉が用いられるようになったのは明代(1368-1644年)だ。元代(1279-1368年)にも、形状が類似して別の名で呼ばれるロングスカートが存在した。ただし、「馬面裙」との関係は明らかになっていない。

清代(1644-1912年)になると、「馬面裙」から「百褶裙」、「鳳尾裙」、「魚鱗裙」、「襴干裙」などさまざまなスカートが派生した。これらは中国国内における民族同士の文化交流と、洋服の影響で登場したものだ。中国の漢族の服飾史には、「学習と吸収」、「消化と改造」という状況が見て取れる。

現在の「漢服評価」において、「馬面裙」が注目されている主な理由は、着用性とデザイン性が優れていることだ。だから、人気が高まることは自然な現象だ。そして、機能性と美しさは別々ではない。機能性が優れている服飾は美しくなり、美しい服飾は機能性も優れているものだ。

「馬面裙」にはひだがあり、腰回りにはスリットもある。これは人の腰の形状と動きに適している。また、「馬面裙」は中国の伝統的な服飾の特徴を受け継いでおり、厳格な「正しい作り方」がある。例えば、ひだは左右対称にせねばならない。色彩は模様などにも決まりがある。このことは、「中庸のバランスがとれ典雅である」ことを重視する、中国の伝統美学の特徴に合致している。

国際的なアパレルメーカーも「馬面裙」を評価している。中国国内で人気が高いのはもちろんだ。「馬面裙」は中華の優れた伝統文化という「大海」がもたらした「さざ波」の一つだ。しかし「馬面裙」は時空を超え、国境を越えて、現代にも通じる永遠の魅力を持つ服飾だ。「馬面裙」は長い年月を通じて、美しい服飾と認められてきた。今後もその美しさを認められ続けるに違いない。

■西洋のファッション界の「中国伝統服の理解」は今も表面上にとどまる

国際的なファッション界では「中国風」が一つのキーワードだ。しかしこの「中国風」は、あくまでも西洋人の目から見たものだ。起原は17世紀から18世紀にまでさかのぼれる。それは、彼らの想像上の「東洋の情緒」をデザインに取り込む現象だった。だから、西洋で言われた「東洋風」は、中国本来のものとは異なった。

21世紀になると中国国外のファッション界で、改めて「中国風」がもてはやされるようになった。想像上ではなく、中国本来の要素を参考にし、取り入れたデザインだ。ただ表面上の導入にとどまっている。

というのは、真の「中国の風格」を現出するには、中国の優れた伝統文化の創造と発展を志向せねばならない。国際的視野や現代的な生活への適合は必要だが、中国本来の伝統文化と審美意識を内包した服飾にせねばならない。つまり、中国の伝統文化を真に愛し、広めることを志す人々が手掛けるファッションの運動であらねばならない。

現在の西洋における「中国風」のデザインは、中国の服飾が持つ、深い歴史と文化の蓄積、さらに象徴性が反映される状況には至っていない。

■しかしそれでも、他者から学ぶことは大切

もちろん、他者から学ぶことは尊い行いだ。「礼記・学記」には「一人で学ぶだけで学友がいなければ、知識や見識が狭くなる」と書かれている。中国には「和合共生」という考え方がる。つまり「自らとは異なる者の存在を認め、さらには仲良く付き合っていく」ということだ。

われわれは中華の優れた伝統文化の価値を示していかねばならないが、それは、世界の平和的発展に貢献するためだ。排他的な発想に基づくものではない。

魯迅先生は、「地方の特徴があるものは、かえって世界のものになりやすい」と指摘した。文化のアイデンティーを確立することは、他の文明との相互参照の土台を形成することにつながる。われわれが反対するのは、文化の安直な流用だ。他の文化を参照し学習することには反対しない。

東洋であれ西洋であれ、それぞれの民族は固有の文化を育んできた。考えてみれば、文化に違いがあるからこそ、異なる文明と交流し、相手を参考にすることに意義が生じるわけだ。

■自らの文化を熟知し自信を持ってこそ外に向かって拡散できる

中国人は服飾について一時期、自らの審美の視座を失い、他者の視座に委ねた。今は、中国の伝統の服飾の研究と交流と拡散を強化せねばならない。服飾における美しさとは、中華民族独特の「文化の標識」であると認識せねばならない。そうしてこそ、文化の発展と伝承が可能になり、他民族の服飾文化との対話と交流が可能になる。

私は「馬面裙」など中国の伝統的な服飾については、以下の4段階を進めて行かねばならないと考える。まずは、歴史の解明だ。起原と変化を深く知り、全面的に整理せねばならない。全体の流れをしっかりと把握することで、伝統的服飾に対する認識が「糸の切れたたこ」の状態になることを防ぐことができる。

次に伝統的な服飾に対する「評価批判と解釈」をせねばならない。この作業そのものが一種の創造であり、伝統的服飾に現代的なデザインを施すために役立つ。さらには、一般民衆に伝統的服飾が持つ美学と哲学を理解してもらい、服飾文化に対する認識と自信を強めることにもつながる。中国の伝統的な服飾文化を国外に紹介し、相互学習を行うのは、その次の作業だ。

文化の対外発信については、自らの文化を自覚して自信を持つことが、土台となる。中国人自身が文化的アイデンティティーを確立し、自らの文化をしっかりと定義できてこそ、真の対外発信が可能になる。つまり深みのある文化交流を実現するためには、異なる文化をしっかりと学習することと、自らの文化に対する学習能力の向上のいずれもが必要ということになる。

中国人は歴史上一貫して、自らの文化が外部の人に評価され取り入れられることを喜んできた。しかし、その前提には、互いの文化を尊重し理解する姿勢があらねばならない。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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