日中アニメ「進化論」、発祥・変遷・進化そして課題―両国専門家が紹介

中国新聞社    2022年9月16日(金) 23時0分

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日本と中国はいずれも「アニメ大国」だ。両国のアニメは互いに影響を及ぼしながら発展してきた。写真は中国で比較的早い時期に制作された西遊記を題材にしたアニメ作品

日本と中国のアニメーションの歴史を振り返れば、互いに影響を及ぼしながら発展してきたことが分かる。両国のアニメ界は、現在も密接に関係している。上海美術電影制片廠の陳波副廠長、東京大学博士課程でアニメ概念史などを研究して著作も多い陳龑氏、中国アニメの専門配給会社であるアニチャイナ(本社・東京都渋谷区)の遠藤貴司社長はこのほど、中国メディアである中国新聞社の取材に応じて、アニメの発達やアニメにおける両国のつながり、業界の現状などについて語った。以下は三者の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。なお、翻訳などの関係もあり、言葉づかいなどに元の発言と若干の相違がある可能性を、お断りしておく。

■優れた作品は時の試練に耐えて長く生き続ける

陳波:

100年に及ぶ中国アニメ史は実際には、上海美術電影制片廠(上美影)の発展の歴史でもあった。上美影は中国アニメの発祥地であり、上海の開放的で多元的なアニメ制作者に、厚い文化の土壌を提供してきた。

上美影は多くの「中国・初めて」を樹立した。初のカラーアニメの「烏鴉為什麼是黒的(カラスはなぜ黒いのか)」、国際的賞を初めて受賞した「神筆」、初のカラー人形劇映画の「小小英雄(小さな英雄)」などだ。これらの優秀な作品は、中国アニメの「輝ける時代」を切り開いた。

古い世代のアニメ制作者は中国の伝統文化を深く掘り下げ、民間の物語を組み合わせ、美術スタイルを追求するなどの努力を重ねた。そして水墨画アニメ、切り絵アニメ、人形アニメなど多くのジャンルを切り開き、「より中国風」なスタイルを模索した。そのことで中国アニメは基礎が固まった。

中国の伝統的な物語を題材にしたアニメは、何度も国際的な賞を受賞している。例えば「大閙天宮(天宮は大騒ぎ)」は、孫悟空という物語のヒーローをスクリーンの上で生き返らせた。仏ル・モンド紙は「美しさの面ではディズニーにひけをとらず、スタイルでは中国の伝統美術を完璧に再現」と称賛した。

中国アニメが多くの外国人に注目されるようになったのは、独特な演劇の要素と絵画のスタイルが、アニメの新たな表現方法を提示したからだ。それは高度に洗練された「民族性」であり、映像芸術表現として言語、国境、時間を越えた「古典」になった。創作の面から言えば、中国の古典的アニメにはその時代の制作者の人生観、世界観、芸術美術観が反映されていた。優れた作品は時の試練に耐えて長く生き続ける。見る人に新しい感覚を与え、さまざまな感慨をもたらす。

■日本アニメ界の先達は中国アニメや中国の素材を極めて重視

陳龑:

日本と中国で、アニメ制作が始まった時期は近く、いずれも「舶来」から始まった歴史を持つ。それぞれ異なるスタイルを持つが技術面や人材育成などの交流は緊密だ。

日本のアニメには、中国の要素が多く取り入れられている。大藤信郎監督(1900-1961年)は1926年に、西遊記を題材にした日本初のアニメ作品である「西遊記 孫悟空物語」を制作した。

日本のアニメ制作者の中には、中国に渡った人もいた。持永只仁監督(1919-1999年)は中国に活動拠点を置いて、方明という中国人名で仕事をした。持永監督が1950年に制作した「謝謝小花猫(ありがとう、三毛の子猫)」は、中国のアニメの発展に重要な貢献をしたとして、今でも記憶されている。それから、1958年に登場した日本初の長編カラーアニメの「白蛇伝」は、中国の物語によるものだ。

日中のアニメの交流は1980年代になりますます密になった。典型例としては「日本の漫画の神」と言われる手塚治虫氏(1928-1989年)だ。手塚氏は少年のころ、万籟鳴氏が手掛けた中国アニメの「鉄扇公主(鉄扇姫)」を見て、アニメの仕事をしようと決意した。そして一生を通じてこの作品の影響を受けた。手塚氏は亡くなる3カ月前に、万籟鳴氏に会うために病気を押して上海を訪れた。

この時期には日本のテレビアニメが中国にもたらされた。「鉄腕アトム」、「ドラえもん」、「一休さん」などは、何世代にもわたって中国人にとっての「素晴らしい子供時代の思い出」になった。日本と中国のアニメ界の往来は今、ますます盛んになっている。アニメ作品の共同制作や制作者同士の交流、制作者とファンの交流もある。

■ビジネスとしてのアニメ産業を発展させる必要、ただし原動力は優秀な作品

遠藤貴司:

アニメは文化発信における重要な産業だ。日本と中国は同じアジアの国であり、似たような文化的価値や社会環境があり、人々は共感しやすい。

中国のアニメはキャラクターの会話、人間関係、世界観、飲食、感情表現などの面で独特な面がある。日本の観客は中国のアニメに触れることで、中国文化に深い興味を持つようになる。だから、アニメを通じて日中の民間交流の機会を創出・拡大し、人と人との文化的なつながりを強化して、新たな発展を求めていきたいと考える。

陳龑:

アニメ界の交流の多くは、民間の自発的な行為だ。中国と日本のアニメ制作者の接触交流を強化すれば、業界にさらに多くの優れた作品をもたらすことができる。そして両国の観客が文化のつながりを感じ、趣味を通じて友人になり、互いの文化の中の素晴らしい面を発見すれば、双方が自然に最高のコミュニケーション方法を見いだすことができる。アニメは言葉の壁を越える力を持っている。

遠藤貴司:

アニメ産業は盛り上がりを見せている。大切なことは、作品の質と市場での成績の両方で成功することだ。まずは、原作となる漫画や小説の発展が必要だ。人気の原作作品をアニメ化する方式は、作品の価値をさらに高めるだけでなく、アニメ市場をさらに活性化するだろう。

そして、アニメ作品の成功には、物語の選択だけでなく、キャラクターの知的財産権も関係している。魅力的なキャラクターは消費者を引きつけ、ビジネスの利益を担保する鍵になる。例えば、スタジオジブリ作品の「となりのトトロ」は、公開当初の興行収入が予想を下回ったが、さまざまな商品を派生させたことで、利益の獲得に成功した。このように、商品と著作権の二次利用はアニメ業界の柱になりえる。私はまた、海外市場に目を向けることが非常に重要と考える。キャラクター商品が世界的にヒットすれば、アニメコンテンツや市場に活気をもたらして業界を支えることになる。

陳龑:

中国国内のアニメ市場は、さらに整理する必要があると考える。すぐれたクリエーターだけでなく、優秀なチームや出資者も必要だ。

「西遊記之大聖帰来」(西遊記 ヒーロー・イズ・バック)」は、産業の循環の好例だ。観客は良質のアニメを鑑賞しようとチケットを買った。投資家は資金を回収することができ、さらに多くの資金をアニメ界に投じようと考えるようになった。創作側には、「投資家に報いねば」という雰囲気が出現した。

このような状況になれば、制作側は自分の作品をアピールしようと考えるようになる。投資家に「私はダークホースです」と伝えようとするのだ。

陳波:

中国のアニメ史では、多くの古典的作品が創作された。しかしアニメの商業化はまだ初期段階だ。

アニメ芸術を探求するには、多くの時間と金銭が必要だ。制作側は歴史文化を理解し、理解を深めねばならない。コミュニケーション学、社会学、心理学の知識も必要だ。制作側にとって「絵」のレベル維持は前提だが、その上で学際的な知識を持たねばならない。

商業化はアニメ界に、創造のための資金サポートをもたらす。人気が継続するキャラクターは、知的財産権によって市場価値を維持する。中国の現在の市場環境は良好だ。キャラクター商品にどのような「新しい装い」を与えて、どの様な「素晴らしいストーリー」を語らせ、多くの人の共鳴を呼ぶか。アニメ関連ビジネスは早急に、この問題を解決せねばならない。

しかし、長い目で見ればやはり、アニメ市場で「中核的な力」になるのは作品の質だ。優秀な作品があればこそ、アニメ市場を良好な発展に向かわせることができる。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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