吉田陽介 2022年7月28日(木) 5時20分
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中国政府はこのほど、「自動車流通の活性化・自動車消費拡大に向けた若干の措置の通知」を出し、新エネルギー車、中古車市場の活性化、自動車のモデルチェンジの活性化につながる措置を示した。写真は北京。
中国国家統計局が15日に発表したデータによると、第2四半期の経済成長率は2.5%で、昨年の同時期より勢いがなくなっている。この原因は、4~6月に主に上海、北京でオミクロン株の感染拡大によって外出制限、行動制限が課せられ、経済活動が影響を受けたことが大きい。
■経済回復には消費の拡大は必須
景気が冷え込めば、中国政府が掲げる「人民を中心とする」をもとにした政策を打ち出すことが困難となるため、政府は対応策をとる必要がある。4月末に開かれた中央政治局会議では、不動産に関する規制を緩和する可能性を示唆した。中国経済の成長の「エンジン」は消費だが、不動産も成長を促進するファクターの一つと言われている。
よく言われているように消費も中国経済成長の「エンジン」だ。消費というと、ネットショッピングや飲食、旅行消費などが思い浮かぶが、自動車消費もその一つだ。自動車や電化製品は額が大きく、消費の伸び率を押し上げるため、経済回復の「切り札」的存在とみられている。2008年のリーマンショック危機の影響を中国も受けたが、4兆元に上る政府の大規模な公共投資によって危機を回避する一方で、中国政府は自動車購入に関する規制を緩和して、住民が自動車を購入しやすくした。
中国政府はこのほど、「自動車流通の活性化・自動車消費拡大に向けた若干の措置の通知」を出し、新エネルギー車、中古車市場の活性化、自動車のモデルチェンジの活性化につながる措置を示した。この通知は8月1日に施行される。
■環境重視の政策にもプラス?新エネルギー車の発展
「通知」に挙げられている措置の中で、特に新エネルギー車と中古市場の活性化は重要だ。
新エネルギー車について、「通知」は次のように述べている。
1、地域をまたぐ自由な流通を促進し、新エネルギー車市場の地方保護を打破し、各地域は現地の新エネルギー車車種登録目録を設定してはならず、新エネルギー車製品の販売および消費補助金に対して不合理な車両パラメータ・指標を設定してはならない。
2、新エネルギー車の消費を支援し、新エネルギー車の車両購入税免除政策満期後にその延期問題を検討する。新エネルギー車の農村への「下郷」活動を深く進め、条件を満たした地方が農村への「下郷」支援政策を打ち出すのを奨励し、企業が活動の優遇措置を強化するよう誘導し、農村地区の新エネルギー車の消費・使用を促進する。
3、充電施設の整備を積極的に支援し、居住社区、駐車場、ガソリンスタンド、高速道路サービスエリア、顧客・貨物輸送ターミナルなどの充電施設の整備を加速し、充電スタンド運営企業が適切に充電サービス料を引き下げるようにする。
新エネルギー車の購入支援策については、昨年4月、財政部など3部門が打ち出した「新エネルギー車の車両購入税免除に関する政策に関する公告」がある。そこでは、2021年1月1日から2022年12月31日まで、購入新エネルギー車への車両購入税を免除することが述べられている。
中国政府は現在、過去の経済成長率のみを重視する経済政策から環境などを重視する政策に転換している。この政策理念自体は胡錦濤政権に打ち出された「科学的発展観」の延長線上にあるが、現在の習近平政権になってから、新たな発展理念に「緑(グリーン)」が掲げられ、二酸化炭素排出量などが厳しく制限されている。
数年前、PM2.5の汚染が日本でも報じられたことをご記憶の読者も多いと思う。筆者も体験したが、冬場で空気の悪い日は、空がいつもどんよりとしていて、いかにも有害物質といった匂いも漂っているので、その時期はマスクをいつも着用していた。
大気汚染の原因は周辺の工場やガソリン車の排気ガスとも言われている。新エネルギー車への転換が進んでいる。その効果もあってか、大気汚染はなくなってはいないが、以前よりは青空が見える日も出てきている。
また、中国消費者の購入意欲も比較的旺盛だ。21日付の「上海証券報」によると、2005年から2015年まで、中国の新エネルギー自動車は10年かけて浸透率が1%を突破し、2016年から2019年上半期までの3年余りで浸透率は1%から5%に上昇した。同記事はさらに、2019年下半期から2020年上半期にかけて、業界の調整などの影響を受け、新エネルギー車の成長は一時的に停滞したが、2020年後半から新エネルギー車産業は再び成長の道を歩み始め、2022年上半期の浸透率は21.6%となったと述べた。
ここで示された新エネルギー車購入促進策は、登録に関する手続きの簡素化を進め、人々が懸念している充電スタンド不足の問題の解決策を示すことで、消費意欲を高めようとしている。
また、新エネルギー車の農村への「下郷」活動についてだが、これは以前中国政府が自動車購入奨励策をとったときに、自動車の「下郷」という言葉が見られた。この措置は2009年1月14日に公布された「自動車産業の調整・活性化計画」にある農村優遇政策だ。
なぜこのような措置を行うのかというと、農村は政策の恩恵が届くのが都市に比べて遅いためだ。これは中国政府が掲げる「調和」の理念にももとる。さらにいえば、都市が新エネルギー車に切り替わっても、農村で従来の車が使われていたのでは、中国政府が国際的に公約している排出削減の達成は困難となる。
■消費者の信頼を得られてない?中国の中古車市場
また、「通知」は、新エネルギー車だけでなく、中古車市場の発展について、「中古車取次販売の展開に対する不合理の制限の撤廃」などを盛り込んだ。中国の中古車市場はまだ発達しているとは言いがたく、発展の余地がある。
15日付の華夏時報の記事によると、現在、中国の自動車保有台数はすでに3億台を超えているが、中古車流通の面では、2021年の中国の中古車取引量は1759万台で、全自動車保有台数の6%にも満たないと報じた。
別の中国メディアは中古車市場の問題について、次の二つの問題を指摘した。一つ目の問題は、ローカル色が強く、全国チェーンの市場が存在しないことだ。現在、中国には多くの中古車市場があるが、統一的市場となっていないため、顧客獲得には限界があり、市場の発展が制約される。
二つ目の問題は、自動車ディーラーの能力などがまちまちであるいうことだ。自動車ディーラーの振る舞いは、顧客の評判に直結することはいうまでもない。中古車取引の大きな問題は信用の欠如だ。管理者のモラルも低く、顧客の信用が得にくくなっている。顧客の信頼を得るのにプラスとなるアフターサービス体制も発達していない。これは中古車市場の発展のスピードが速すぎるため、取引が規範化されていないことに起因する。
そのほかには、中古車市場に関する法体系の未整備、中古車取引の手続きが煩雑なこと、中古車業者の脱税が多いことも指摘している。
今回出た通知では、中古車の自由な流通に重きが置かれており、今後市場の整備についての措置も出されるだろう。現在、コロナ禍の影響もあってか、中国の消費者は以前のように「ハイエンド志向」から「節約志向」にシフトしており、中古車市場は今後発展の余地がある。
現在、中国の感染拡大は落ち着いており、今年前半のダメージ回復に努める時期だ。中国政府は大規模なばらまき政策を取らないという態度であり、2008年のような大規模公共事業を行うことは考えられない。そうなると、民間消費の「呼び水」としての役割が重要になってくる。今回の自動車流通活性化を目指す措置も「呼び水」政策の一環だ。
また、前回の自動車購入奨励政策によって購入数は増えたが、環境悪化を招いたという「負の側面」もあったが、今回は環境に優しい車の購入奨励なので、環境面から考えるとプラスになる。
この措置が消費の増加に与える影響は、今後の展開を見る必要がある。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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