米中が近く首脳会談、「対立」から「融和」に動く=経済相互依存で一致、甦る『上海コミュニケ』

八牧浩行    2022年7月23日(土) 6時30分

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米中関係筋によると、米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席によるオンライン首脳会談が数週間以内に予定されている。写真は天安門広場。

米中関係筋によると、米国バイデン大統領と中国の習近平国家主席によるオンライン首脳会談が数週間以内に予定されている。両国の関係は「競争、協力、対抗」を基とした「対立」の構図から、「四不一無意」(4つのノー、1つの意図しない)の「約束」の下、大きく変貌しつつあることを見逃してはならない。

「四不一無意」はバイデン大統領が習近平国家主席に2回の米中首脳会談で約束したとされるもので、「四不」は、米国側が(1)新冷戦を求めない(2)中国の体制変更を求めない(3)同盟関係の強化を通じて中国に反対することをしない(4)台湾独立を支持せず台湾海峡の現状変更を求めないことを意味する。「一無意」とは、米国に中国と衝突する意図がないことを示したもの。中国側によると、これらに加えて「中国共産党の執政地位への挑戦をしない」ことも加えられた。

◆米、「あいまい戦略」で中台にクギ

米国は、仮説として中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合の対応について、あいまいにしておく戦略をとっている。軍事介入について明確にしないことで、中国による台湾侵攻を抑止する一方、台湾が一方的に独立向け緊張を高める事態を防ぐ意図も込めている。

米国はこの戦略に基づいて、台湾政策について旗幟を鮮明にしていないが、米中両国の裏事情を取材すればするほど「真相」が浮かび上がる。

1972年2月のニクソン大統領(当時)の訪中時に米中間で交わされた『上海コミュニケ』には、両国は平和五原則を認め合い,両国の関係が正常化に向うことはすべての国の利益に合致すること、両国はアジア・太平洋地域で覇権を求めるべきでなく、他のいかなる国家あるいは国家集団の覇権樹立にも反対することが盛り込まれた。また米国は,すべての中国人が中国は一つであり、台湾は中国の一部であると考えていることを「認識(acknowledge)」し、「この立場に異議を申立てない」こと、台湾からすべての武力と軍事施設を撤去する最終目標を確認し,この地域の緊張緩和に応じて台湾におけるその武力と軍事施設を漸減することを声明した。

ロシアウクライナ戦争のこう着状態が続く中、米中対立は緩和に向かう」(米中関係筋)との見方が有力だ。中国側がこの約束の履行を前提に、数週間以内の米中(リモート)首脳会談に応じることになろう。

中国・環球時報(3月20日付)によると、「四不一無意」について、バイデン大統領と習主席による初めてのビデオ会議が行われた2021年11月にバイデン氏が「中国側に約束した」という。

ロシアのウクライナ侵攻後に行われた米中首脳ビデオ会談(2022年3月)について中国国営新華社通信(3月18日付)は、バイデン大統領が「私(バイデン大統領)は、アメリカが中国との『新冷戦』を求めず、中国の体制変更を求めず、同盟関係の強化による中国への反対を求めず、『台湾独立』を支持せず、中国と衝突する意思がないことを重ねて表明したい」と言明した、と報じた。

新華社通信がバイデン・習両氏の発言を詳細にくり返し伝え、米側も否定していないことから判断して、バイデン氏の「四不一無意」発言があったのは事実だろう。台湾海軍の揚陸艦艦長を務めた経験のある中華戦略研究所の張競研究員も香港の週刊誌(亜洲週刊、5月2〜8日号)で「四不一無意」について、「中国政府とアメリカ政府の共通認識」と記した。

◆流動化するアジア太平洋

アジアでは、韓国で保守系の尹錫悦政権が誕生した一方、フィリピンでは親中派と目されるフェルディナンド・マルコス氏が大領領に当選し、中国包囲を狙う日米の「インド太平洋戦略」に影響する。今年5月末には東京で日米豪印4カ国の枠組み「クアッド(Quad)」首脳会合が開かれ、サプライチェーン(供給網)から中国排除を狙う「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」も打ち出され、情勢は流動化している。

中国側は「四不一無意」の約束を「盾」とみなし、バイデン氏への批判を控え気味である。11月の米議会中間選挙に向けて苦戦が伝えられるバイデン政権に揺さぶりをかけるため、「四不一無意」を効果的に使うとみられる。

◆中国、ロシア・ウクライナ両国に「中立」姿勢

中国がウクライナ戦争に対する対応を微妙に変化させていることも、米中対立の緩和に繋がっている。もともと中国は複雑な背景を考慮。「国家主権・領土完全」の原則を貫き、是々非々主義の対応だ。2014年にロシアが併合したクリミアをロシア領と今も承認していない。

一方で、中国はロシアとの関係への配慮も見せている。世界最長の国境を挟む「厄介な大国」(中国筋)を相手に背後から刺すようなことをしたら今後数十年にわたって恨まれると懸念している。米国の要請を受ける形でロシアへの軍事支援は控えており、ロシアとの技術・金融協力も事実上停止状態である。

米中関係筋によると、中国は「中立」姿勢にシフトしており、ウクライナ戦争の調停に乗り出す可能性もある。

中国の報道も当初のロシア寄りから微妙に変化している。当初ロシアに同調する宣伝報道が目立ったが、同時に「各国の主権・領土保全の尊重」を強調して間接的に反対の立場を表明した。

4月30日に、新華社がクレバ・ウクライナ外相への書面インタビューを全文掲載。この中で「ロシアによるウクライナ侵攻」という語句を3度にわたって使用した。このほか、中国はウクライナに人道支援援助を提供、王毅外相はロシアとウクライナの外相と同じ日に会談。戦況もウクライナの視点がCCTV(中国中央電視台)などで報じられ、「中立」へのシフトが見られた。

先の国連人権理事会の「ロシアの理事資格はく奪が決議」には84カ国が反対・棄権した。ウクライナの世論調査によると、今回のロシアによるウクライナ戦争について同国民の63%は「中国は中立」と見ている。

興味深いのはウクライナ戦争について中国ネット世論は二分されていることだ。北方地域、高齢者、一般庶民の多くはロシアに同情している。「米国嫌い」の要素も根強い。一方で、南方地域、若者、知識人の多くはウクライナに同情的とされる。

◆米中外相、「5時間協議」で地ならし

インドネシアのバリ島で7月9日に会談したブリンケン米国務長官と中国の王毅国務委員兼外相は対中関税引き下げ問題や首脳会談などについて5時間余り協議した。ブリンケン氏は会談で「対面外交に代わるものはない」と表情を崩しながら語り、王氏も「両国が正常な交流を維持し、この関係が正しい軌道で進み続けるようともに協力する必要がある」と呼応した。中国外交部は会談を「両国の将来のハイレベル交流のための条件を整備した」と指摘。今夏の首脳協議に向けた地ならしが進んだことを示唆した。

ブリンケン氏は「米国は2国間関係におけるリスク要因の管理に力を注ぐ」と話した。台湾や人権など幅広いテーマで対立点を抱える米中が当面は緊張緩和にカジを切るのは、今秋に両国で重要な政治イベントが控えるためだ。

中間選挙を前に関税の引き下げでインフレを抑えたい米国と、秋の共産党大会を前に低迷する「経済」を米国向けの輸出増でテコ入れしたい中国の利害は一致する。王氏は「米国は中国に対する追加関税を速やかに撤廃し、中国企業に対する制裁を中止すべきだ」と求めた。

米中が近く予定している首脳間のオンライン協議では関税引き下げのほか、ウクライナ情勢、エネルギー・食料危機、気候温暖化など多岐にわたる問題がテーマとなる見通しだ。特に最大の課題である約40年ぶりの物価上昇への妙案がないバイデン大統領にとっては、政策を総動員する姿勢を示す思惑があるという。

バイデン大統領は20日、ワシントン郊外で記者団に対し、中国の習主席との首脳会談を「10日以内」に行うとの見通しを示し、対中制裁関税の引き下げにも言及した。また米下院のナンシー・ペロシ議長が8月に台湾を訪問すると報じられていることについてバイデン氏は、「軍は良い考えだと思っていないようだ」と述べ、否定的な見解を明らかにした。習主席は22日、新型コロナウイルス検査で陽性と判定されたバイデン大統領にお見舞いのメッセージを送った。

激しい「対立」が長期化する米中だが、両国はもともと合理主義の国。経済の相互依存はさらに深化し、各レベルで対話を繰り返している。利害が一致すれば、ニクソン大統領(当時)の電撃的な訪中(1972年2月)などにみられるように、想定外の展開もありうる。対立は「緩和」に向けて動き出している。

今年は1972年9月の日中国交正常化以来50年に当たる。来年は平和友好条約締結(1978年)から45周年。日中両国は、歴史的、文化的、経済的に切っても切れない「永遠の隣国」。米中が対話を進める中、貿易・投資など経済で大きく中国に依存する日本としても相互交流を促進するべきであろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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