中国新聞社 2022年6月26日(日) 9時30分
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「紅楼夢」は中国の小説の中でも代表的な作品の一つであり、世界のさまざまな言語に翻訳されてきた。中国紅楼夢学会理事なども務める唐均氏はこのほど、「紅楼夢」が世界に“拡散”してきた経緯と現状を説明した。
「紅楼夢」は近代以前にかかれた中国の小説の中でも代表的な作品の一つであり、世界のさまざまな言語に翻訳されてきた。その歴史的経緯はどのようなものだったのだろうか。上海外国語大学グローバル文明史研究所の教授で中国紅楼夢学会理事なども務める唐均氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて「紅楼夢」が世界に“拡散”してきた状況を説明した。以下は唐氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■中国語以外の母語を持つ人々で、「紅楼夢」を初めて“本格鑑賞”したのはモンゴル人か
「紅楼夢」の現存する最古の写本は1754年に完成したものだ。全編が出版されたのは1791年だった。それから約20年後の1812年には、中国に居た英国人宣教師のロバート・モリソンが一部を英訳した。モリソンの翻訳の動機は、生き生きとした中国語会話の能力を身に付けることだった。その後、「紅楼夢」のロシア語訳、さらに朝鮮語訳も行われた。
19世紀にはモンゴル語版「紅楼夢」が登場した。このモンゴル語版「紅楼夢」には、翻訳者の感想も追加されている特徴がある。これは非中国語話者が「紅楼夢」を教材や研究目的ではなく、文芸作品として鑑賞した最も古い証拠だ。このモンゴル語版「紅楼夢」には独自の見解も多いために、20世紀になり改めて中国語に翻訳し直され、「紅楼夢学」の研究素材とされるようになった。
「紅楼夢」は中国の古い物語にはよくある、比較的短いエピソードを繰り返して進行していく構成だ。比較的短いと言っても、計120話もあるので、全体としてはかなりの分量だ。そこで欧米では、物語の主要な部分を抜粋して、例えば50話分程度を紹介する短縮版翻訳が広がることになった。
東アジア文化圏に属する日本では、1940年代に「紅楼夢」全120話の翻訳版が2種類作られた。中華人民共和国が成立したのは1949年だが、当時はソ連との関係が極めて良好だった。その関係で、欧州の言語として最も早く登場した全訳は、1958年に完成したロシア語版だった。そのロシア語版を元にして、「紅楼夢」のチェコ語版やスロバキア語版など東欧の言語への翻訳が行われた。1940年代から50年代は「紅楼夢」の翻訳の一つのピークだった。「紅楼夢」はフランス語、オランダ語、ハンガリー語、イタリア語、フィンランド語などの多くの欧州言語に訳されて、読者層を広げた。
■「紅楼夢批判」、「紅楼夢研究批判」のために、翻訳がかえって増加
「紅楼夢」は代々高官を出し、皇室との姻戚関係もある賈氏一族を巡る物語だ。1970年代ごろまでの政治状況では、「紅楼夢」が描く世界は容認できないことが強調され、「紅楼夢」を研究する態度も批判の対象になった。
この批判はかなり大きな政治運動になった。となれば「なぜ批判の対象になるのか」、「何が問題なのか」を全国の各民族に浸透させねばならない。そのために中国では、モンゴル語、チベット語、ウイグル語、カザフ語、朝鮮語など、さまざまな少数民族言語に「紅楼夢」が訳されることになった。
それとは別に、欧米でも「紅楼夢」の原本テキスト批判の成果を生かした、新たな全訳版が登場することになった。例えば1981年のフランス語全訳版、1988年のスペイン語全訳版などだ。2000年以降にはドイツ語全訳版も登場した。
■文学性重視の新翻訳で「紅楼夢」の価値が正当に評価
「紅楼夢」の外国語訳の歴史で、極めて重要なのは英国人中国研究者であるデイビッド・ホークス氏がオックスフォード大学を定年退職した後に、「紅楼夢」の英訳に改めて取り組んだことだった。ホークス氏は英語におけるさまざまな文学的表現手段を採用して、原作者である曹雪芹が作品に与えた文学的香気を英訳版で再現した。ホークス氏は第80話までを訳出し2009年に他界したが、彼の学生であり娘婿のジョン・ミンフォールド氏が残りの40話の英訳を完成させた。
この仕事により、「紅楼夢」は中国国外に存在した「二流の恋愛小説」という誤解から抜け出して、一流の文学作品として認められるようになった。また、ホークス氏らの仕事を参考にして、改めて韓国語版、チェコ語版、スロバキア語版なども作られた。ドイツ語版、タイ語版、マレー語版、ブルガリア語版、オランダ語版なども次々に登場した。
中国は改革開放の断行により、経済面でも大いに発展した。その結果、国際社会は中国文化により強い関心を持ち、文化分野や国際的な文化交流にも大いに力が入れられるようになった。「紅楼夢」については、中国人の専門家も外国人の専門家も、翻訳作業に努め、現在では30以上の言語で150種以上の翻訳が出版されている。
「紅楼夢」の大きな特徴は、中国文化の要素が極めて濃厚なことであり、外国人向けの翻訳をする上で最も困難なことは、読者にとって異文化である中国文化への理解をいかに成立させるかだ。ホークス氏の翻訳は極めて重要だったが、唯一の“正解”ではない。今後は翻訳理論なども関連して、原文を文章をいかに翻訳すべきかの方法論についての展開があるかもしれない。そうなれば、「紅楼夢」を外国人に理解してもらうための作業上の“難関”を巡っての、専門家と広範な読者が関わる新たな異文化交流がもたらされるかもしれない。(構成 / 如月隼人)
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