人員削減後の中国のインターネット業界が取るべき措置

吉田陽介    2022年5月3日(火) 6時20分

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イノベーションを国策の中心とする中国は、「インターネット+」の政策を掲げており、インターネット業界では重要産業の一つになっている。そのインターネット業界の状況はやや違っている。写真はアリババ本社。

イノベーションを国策の中心とする中国は、「インターネット+」の政策を掲げており、インターネット業界では重要産業の一つになっている。そのインターネット業界の状況はやや違っている。例年の3、4月は「金三銀四」といわれ、求人が多い時期だ。この時期は好条件を求めて多くの人たちが職探しをする。だが、今年の3月のインターネット業界は人員削減のニュースが相次いだ。

■中国のインターネット業界の人員削減の波

インターネット業界の人員削減は今回だけではなく、何度か経験した。1回目の人員削減の波は2000年だ。当時、世界のITバブル終焉の影響を受けて、中国のインターネット企業の業績も悪化し、人人網や千龍網、易趣などの企業が人員削減を行った。

2回目の人員削減の波は2008年だ。世界的な経済危機の影響を受けて、中国を含めたインターネット業界も大きな影響を受けた。中国のインターネット業界についていうと、ベンチャー投資、インターネット動画、ブログ、ネットゲームが大きな影響を受けた。それを受け、中国のインターネット企業は人員削減や業務の調整を行い、大手のアリババ(阿里巴巴)やバイドゥ(百度)も人員削減を行った。

3回目の人員削減の波は2018年だ。当時は、世界経済の減速などの影響を受けて、世界の科学技術企業で人員削減が行われ、中国のインターネット企業でも人員削減が行われた。美団網や拉勾網などで人員削減が行われ、アリババや京東でも秋採用の人数を減らした。中国で有名なQ&Aサイトの知乎は2018年12月に20%の人員削減を発表した。この年の人員削減の波は2019年まで続いた。

4回目の人員削減の波は2020年から現在だ。周知のように、新型コロナの感染拡大を受けて、世界の経済活動は大きな影響を受けた。インターネット企業の状況は飲食や旅行などの業界よりは良いといわれているが、2021年から人員削減が始まった。

今回の人員削減の波は、過去3回のそれよりも長く、産業自体の構造問題も浮き彫りとなった

■人員削減の大きな理由

人員削減の最たる原因は、業績不振だ。有名なインターネット大手企業も例外でなかった。アリババは、伝統的なEC(電子商取引)シーズンの2021年第4四半期に、「史上最悪の財務報告書」を出したが、2022年初めから、「人員の調整と最適化」のニュースが頻繁に伝えられている。

テンセントの財務報告書も理想的なものとは言い難く、いくつかの事業部門は人員削減の影響を大きく受けている。急激な成長を遂げた拼多多も業績が悪化している。最新の四半期の財務報告書によると、成長もすでに鈍化しており、時々人員削減のニュースが伝えられている。

最近人員削減を表明した京東(JD.com)は、従業員への告知書で人員削減を「卒業」と表現したため、一時、インターネット上で嘲笑の的となった。滴滴(Didi)、美団(Meituan)、快手、字節跳動(ByteDance)などは、時々「人員最適化」のニュースが流れている。

前述のように、中国のインターネット産業は何度か人員削減の波を経験したが、業界の「全体的衰退」といわれるような状況に陥ったことはかつてない。

なぜ、このような状況に陥ったのか。思い浮かぶのが、2021年の中国政府によるインターネット業界への監督管理の強化だ。政府による規制を受け、アリババやテンセントなどの有名インターネット企業は事業の境界線を縮小し始め、売り上げの伸びへの影響も顕著となった。

■インターネット産業が抱える構造的問題

だが、人員削減の波は、政府による規制が唯一の原因ではない。実は2019年以前から、中国のインターネット産業の「バブル崩壊」傾向が顕著になっていた。このことは市場が飽和状態に近づき、業界の成長が頭打ちになることを意味する。その後に起こった政府による監督管理、コロナ禍による経済の悪化は、中国のインターネット産業の「バブル崩壊」を加速させたにすぎない。

ただ、各インターネット企業が当時、市場の飽和状態を認識していなかったのかといえばそうではない。各社は業界の成長が頭打ちになる前に市場で独占的地位を得ようとし、猛烈な勢いで新事業をさらに拡大し、事業の「境界線」を拡大する行動をとった。新規事業の拡大はおのずから人材の拡大を招く。そのため、人員削減の波のなかにあった2018、2019年でも、新規採用が頻繁に行われ、人材市場で高給オファーも飛び交った。

ただ、大手インターネット企業の「人材採用熱」は、新規事業の拡大だけが原因ではない場合もあり、「冗長採用」という人材戦略を実施しているインターネット企業もある。「冗長採用」とは、簡単に言えば、本来必要なポストが2つのプロジェクトチームに、4人が採用されることだ。これにより、プロジェクトチーム内、プロジェクトチームとプロジェクトチームとの競争の余地が生まれる。

急進的な人材・成長戦略は、業界の上昇期には、企業の予算が十分にあるため、イケイケムードで企業を発展させることができるが、景気後退期に突入したら、話がやや変わってくる。人員削減は、大規模な拡大後の「後遺症」の1つといえる。

■長期の景気サイクルの中にある中国のインターネット業界

構造的問題で苦境に陥っている中国のインターネット業界だが、先行きが暗いかといえば、そうでない。

やや難しい話になるが、経済学では景気変動のサイクルがあると言われる。「キチンの波(短期周期)」のような短い周期はわずか3、4年で、ソ連の経済学者コンドラチエフが提唱した「コンドラチエフの波」のような長い周期は50年ほどだ。

1990年代末から2000年代初めに誕生した中国のインターネット企業にとって、そのほとんどは長期の景気循環を完全に終えていない。景気循環の上昇期に当たる時期に誕生した中国のインターネット企業は、今後もかつてのように、10倍、20倍の成長の余地があると考えやすい。

人員削減は過去に債務を増やして拡大してきたインターネット企業にとって、現代企業になるための試練の一つになっている。

前述のように、中国のインターネット産業はイケイケドンドンで業務を拡大してきた、いわば「バブル」の状態にあった。この「後遺症」から抜け出すのは、人員削減や賃金引き下げなどの方法だけでは不十分で、構造改革が必要だ。

今後、中国のインターネット企業が取るべきは、中心的業務と周辺業務の比率の調整、管理効率の向上に資する改革といった長期的な措置だと筆者は考える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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