〈新疆の世界遺産10〉ニヤ遺跡:世界遺産に成りそこねた「一帯一路」 歴史交流実例都市

小島康誉    2022年4月9日(土) 16時20分

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日中双方の専門家多数の尽力をえて調査開始7年後に発掘した中国の国宝中の国宝「五星出東方利中国」錦(撮影:杉本和樹隊員)

1988年10月筆者らはキジル千仏洞修復保存活動がきっかけで「日中共同ニヤ遺跡学術調査」(文科省助成)を開始した。西域36国の「精絶国」であるニヤ遺跡は東西約7km・南北約25km(周辺をふくむ)の広大な範囲に仏塔・寺院・住居・貯水池・生産工房・家畜小屋・並木など約250の遺構が残存している。古代西域研究に欠かせない重要遺跡である。1997年まで現地調査を繰り返し、日中双方多領域の一流専門家多数の尽力をえて「精絶国」の全容を明らかにし、報告書や国際シンポジムで発表してきた。

調査開始7年後に発掘した「五星出東方利中国」錦は西域と中原王朝との密接な関係を示す貴重文物。「出国(境)展覧禁止文物指定」「1995年中国十大新発見」「20世紀中国大発見100」に続き、昨年には中国考古学「百年百大発見」の栄誉もえた。またCCTVの大型番組「国家宝蔵」などでも度々取り上げられている。さらに北京2022冬季オリンピック開催中に国家大劇場で大型歌舞「五星出東方」が上演され、日本をふくむ外国記者60余名も観劇した。中国各地50劇場へ巡回予定。中国の多数のネットで「日中共同調査隊が発掘した五星錦が題材」と報じられたことは停滞中の日中関係にとって明るい話題である。レコチャでも「日中共同調査隊が発見した中国の国宝『五星出東方利中国』錦、ついに舞踊劇化」と報じられた。

2000年の時を経て今なお残る「一帯一路」歴史交流実例都市「ニヤ遺跡」の一角(撮影:筆者)

キジル千仏洞などはこの連載で記したように世界遺産となったが、ニヤ遺跡は不運にも次段階へ繰り越された。2006年中国国家文物局(文化庁相当)などはトルファンで「シルクロード」申請予備会議を開催。中国の他にカザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンなども参加し、国をまたぐ共同申請活動が開始された。2007年国家文物局が中国6省区48ヵ所の申請を決定。新疆ではキジル千仏洞・ニヤ遺跡はじめ楼蘭遺跡など12遺跡。

2011年タジキスタン・ウズベキスタン側の準備遅れで申請延期と分離申請を決定。規模も縮小、天山山脈周辺に絞られ、ニヤ遺跡や楼蘭などは次段階へ繰り越された。東西南北の文明文化が行き交い、現在の「一帯一路」の歴史交流実例都市である「ニヤ遺跡」の登録に向け、保護対策など各種準備が行われている。2015年広大な遺跡の保護強化のため巡視用小型沙漠車POLARISを寄贈した。やがて登録されるであろう。

今年は日中国交正常化50周年の喜ばしい年。この50年、日中関係は花が咲く時も嵐が吹く時もあった。昨今また種々の要因で停滞中。しかし双方の大小様々な活動をへて好転すると確信している。

国内にいて相手国を批判するのは容易だが、それだけでは何も解決しない。双方が違いを認め合い、具体的活動を通して、相手国の自国への理解促進を図る努力こそ重要ではと思う。国際協力は平和を維持し、戦争を抑止する重要活動と信じている。21世紀こそ自然・環境と「調和」し、民族・性別・宗教・障害・思想などをこえた「共生」、国家をこえた「国際協力」、流行りの言葉でいえば「SDGs」実践の世紀でありたい。

日中の多領域の教授らが協力して「西域36国・精絶国」の全容を明らかにした「日中共同ニヤ遺跡学術調査」(1993年隊・部分・撮影:調査隊)

筆者は国交正常化直後に香港(当時は英領)から歩いて中国へ入った。よって筆者にとって今年は中国訪問50周年にあたる。新疆訪問は1982年、以来新疆ウイグル自治区の漢・ウイグル・カザフ・回・シボ族など多民族諸氏とリスペクトしあって国際協力40年。人々の温かい心と豊富な文化遺産に魅せられ、「大愛無疆」(大きな愛に境界はない)精神で活動してきた。細やかではあるが日中相互理解を促進してきた。『中国新疆36年国際協力実録』『21世紀は共生・国際協力の世紀 一帯一路実践談』・ブログ「国献男子ほんわか日記」や講演などで国際協力・相互理解の重要性を一庶民ながら訴え続けている。

この2年あまりコロナ禍で訪問できず、新疆大学奨学金・新疆文化文物優秀賞・シルクロード児童育英金の提供を通じての人材育成支援活動も延期中。新疆ウイグル自治区政府の艾尓肯・吐尼亜孜主席から「新疆はかつてないほどの大発展中、「一帯一路」で国際合作に努める。貴方を高く評価している。コロナ後の再訪を熱烈歓迎する」(拙訳)などとFAXをいただいている。80歳の爺さんではあるが、今年は第二の故郷新疆を是非とも訪問したい。ワクチン証明などでスマホが必須とか、持っていないので準備しなくては(笑)。 皆々様、拙コラム閲覧ありがとうございました。益々のご健勝ご活躍を願っています。機会あればまたお目にかかりましょう。合掌三拝

■筆者プロフィール:小島康誉


浄土宗僧侶・佛教大学内ニヤ遺跡学術研究機構代表・新疆ウイグル自治区政府文化顧問。1982年から新疆を150回以上訪問し、多民族諸氏と各種国際協力を実施中の日中理解実践家。
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