中国サッカーはなぜ低迷を続けるのか―習主席の悲願・W杯出場は今回も果たせず

長田浩一    2022年4月4日(月) 8時10分

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今年11月に開幕する男子サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会のアジア最終予選がこのほど終了し、日本代表は7大会連続の出場を決めた。

今年11月に開幕する男子サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会のアジア最終予選がこのほど終了し、日本代表は7大会連続の出場を決めた。最終予選で日本と同じB組に入った中国代表は、日本に連敗するなど1勝6敗3分けで6カ国中5位に終わり、サッカー好きの習近平主席の悲願と言われる本大会出場は今回も果たせなかった。政治・経済大国であるだけでなく、昨年の東京オリンピックで米国に次ぐ38個の金メダルを獲得するなどスポーツ大国でもある中国だが、なぜ世界で最もポピュラーな種目であるサッカーでは低迷が続くのか。50年以上サッカーを見続けている私にとっても謎の一つだが、改めてその理由を考えてみた。

◆2000年以降、日本に1勝もできず

中国がこれまで予選を勝ち抜いてW杯に参加したのは、日本と韓国が予選を免除された2002年の日韓大会だけ(3戦全敗、得点0失点9でグループリーグ敗退)。それ以外はことごとくアジア予選で敗退していた。日本との対戦成績を見ても、2000年以降は日本の7勝5分けで、中国は1勝もできていない。しかも、引き分けに終わった試合の多くは、親善試合(大会)のため日本は欧州でプレーする主力選手を招集していなかった。両国がほぼベストメンバーを揃えた公式戦(W杯予選、アジアカップ)に限れば、日本の4戦全勝だ。

以前には、両国の力関係が今とは違う時代もあった。1987年秋のソウル五輪最終予選、日本は東京・国立競技場で行われた最終戦で中国に0-2で完敗し、本大会出場を譲った(現在は五輪の男子サッカーには年齢制限があるが、当時は制限なしのため、A代表が対戦)。私はこの試合をスタンドで観戦したが、悔しいながら中国の方が一枚上手と認めざるを得ない内容だった。しかし93年のJリーグ発足以降、力関係は逆転した。

中国は、クラブレベルでは一定の成功を収めている。アジアのクラブナンバーワンを決めるAFCチャンピオンズリーグでは、莫大な資金でブラジルなどの一流選手を揃えた広州恒大(現広州FC)が、2013、15年に優勝した。しかし、そうした良い流れは中国代表チームの戦績に反映されていないのが実情だ。

◆サッカー強化は国家目標なのに…

なぜ代表レベルで中国サッカーは低迷を続けているのか。考えられる理由と、それに対する反論をまとめてみた。

1、そもそも中国でサッカーはそれほど人気がないので、強化のインセンティブが乏しいのではないか?

コロナ前の2019年の中国スーパーリーグの平均観客数は2万3000人で、Jリーグをしのぐ。それ以上に、習主席は「中国が再びW杯に出場すること、自国でW杯を開催すること、そして優勝すること」を夢見ていると言われる(J・モンタギュー著「億万長者サッカークラブ」)。サッカー強化は事実上の国家目標であり、これ以上のインセンティブがあるだろうか?

2、卓球や体操など、国際的に成功している他競技に優秀な人材が流れているのではないか?

そうした側面が100%ないとは言えないが、なんといっても中国は14億人の人口を抱える超大国。人材はいくらでもいるはずだ。ちなみに、W杯や欧州選手権の優勝経験を持つウルグアイ、デンマークは、ともに人口1000万人に満たない小国だが、継続的に好選手を輩出している。

3、クラブレベルで外国人に依存しているため、中国人選手が育たないのではないか?

Jリーグでも、特に発足当初にジーコなど優秀な外国人選手が多数プレーし、日本人選手は彼らを手本として成長した。外国人選手がいるために自国選手が育たないというのはおかしい。

4、日本と違って中国人選手はほとんど本場欧州のクラブに所属しておらず、”井の中の蛙“状態なのではないか?

一つの理由だと思うが、日本とともにW杯出場を決めたサウジアラビアはほとんどの選手が国内組。日本も、2000年代初めまでは欧州組はごく少数だった。代表チームが弱い決定的な理由とは言えない。

5、代表チームの監督が無能なのではないか?

現在の監督は中国人だが、過去にはW杯優勝経験のあるイタリア人監督や、スペイン代表監督経験者らを招聘しており、監督の資質に問題があったとは考えにくい。

◆サッカーは中国人に向いていない?

このように、中国サッカーが浮上しない理由を、一つの要因で説明するのは難しい。上記1~5のいくつかが複合した結果かもしれない。あるいは、サッカーという競技―フィールドプレーヤーが手を使えない点を除けば、制約の少ない自由なチームゲーム―が、中国人の国民性にフィットしていないのではないか、とさえ思えてくる。そうなると中国の専門家ではない私には手の負えない話だ。

明快な回答を期待していた読者の皆様には申し訳ないが、中国サッカー低迷の理由は依然として謎のままだ。中国のサッカー界にとって、次の大目標は来年6月から7月にかけて自国で開催予定のアジアカップだろう。アジアの代表チームのトップを決める重要な大会だ。地元ファンと習主席の前で、低迷の理由をあげつらうこの記事のような言説を吹き飛ばす活躍を見せられるか、注目したい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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