日本の「技術士」、国際化へ一歩=技術者が国境を越えて仕事し易く―日本のガラパゴス文化に風穴

アジアの窓    2022年3月30日(水) 6時50分

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一般にはあまりなじみのない技術士(Professional Engineer)の国際化についての話をします。技術士は司法試験合格者、公認会計士、医師、薬剤師のように国家資格です。

一般にはあまりなじみのない技術士(Professional Engineer)の国際化についての話をします。技術士は司法試験合格者、公認会計士、医師、薬剤師のように国家資格です。

基礎科目、適正科目及び専門科目からなる第一次試験に合格して、4年以上の実務経験を積んだ後、専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力を問う第二次試験に合格すると技術士資格が与えられます。2021年度の第二次試験合格率は8.6%でした。インフラの安全性の確保が重要な建設部門では技術士の役割が特に大きいです。

技術士、司法試験合格者、公認会計士、医師、薬剤師は国家資格を収得しても国境を越えての仕事ができません。他国でその職業に就こうとすると、更にその国での資格を取らなければなりません。

技術者が国境を越えての仕事がしやすくなるような世の中を作りたいという「夢」の実現のため活動しているInternational Engineering Alliance(IEA)という組織があります。その組織の中でリーダー的役割を担っているのがエンジニアリング教育認定団体の世界的な枠組みであるワシントン協定です。1989年に米国、カナダ、英国、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国の団体によって設立されました。日本からは日本技術者教育認定機構 (JABEE)が2005年に正式加盟しています。

現在、正式加盟団体は21の国または地域におよび、正式加盟に向けて準備をしている暫定加盟国が7つあります。それらを合わせると世界人口の3分の2をカバーすることになります。ワシントン協定の正式加盟団体はそれぞれの国内、地域内で認定したエンジニアリング教育プログラム(大学の学科に相当)の同等性を相互承認しています。多くの国,地域では、認定された教育プログラムの修了生のみが技術士になる資格があります。技術士試験においてもそうですが、日本の国家資格試験の多くは教育要件が課されておらず、試験さえ受かれば資格が取れるようになっています。世界から見ると特異な状況です。

ワシントン協定では、認定した教育プログラムの同等性を相互承認していますから、ワシントン協定の正式加盟団体が認定した教育プログラムの修了生がワシントン協定の他の加盟国、地域で技術士になれるプロセスを促進しています。しかし日本では技術士になるには教育要件がなく試験さえ受かればよいので、上記のワシントン協定の目指すプロセスに乗れないという問題がありました。

技術士資格を所管している文部科学省は、22年前にJABEEが設立され、ワシントン協定に正式加盟をすると、JABEEが認定したプログラムの修了生に技術士第一次試験免除という特例を与えました。これは、「試験さえ受かれば資格が取れる」という日本のガラパゴス文化に風穴を開けた諸先輩の努力の賜物で画期的なことでした。

JABEEの修了生の第一次試験免除は「裏口入学だ」と言う人がいます。苦労して第一次試験、第二次試験を通って技術士になった人からは受け入れられない特権となるのでしょう。しかし、世界の他の国々では、認定された然るべき教育プログラムの修了生のみが技術士になれるのが主流のパスで、認定教育プログラムで教育を受けられなかった人たちを救済するために他のパスを用意しています。諸外国から見れば、日本の技術士第一次試験はそういう人たちのための救済措置と見られています。

この度文部科学省の技術士分分科会・制度検討特別委員会において「ワシントン協定に加盟する他国の団体が認定した課程の修了者に対しても、技術士法第31条の2第2号に基づく技術士等の資格に関する特例を適用する」ことが承認され、JABEE 認定プログラムの修了生に与えられていた技術士第一次試験免除の特例がワシントン協定の正式加盟国、地域の認定プログラムの修了生に拡大されることになりました。

筆者は2010~2019年にJABEEの専務理事を勤め、2011年以降IEA/ワシントン協定の総会に出席して技術者の国境を超えた活躍の枠組み作りに関与してきました。直近の文部科学省の技術士分分科会・制度検討特別委員会では資料説明の役を務めました。技術士分分科会・制度検討特別委員会では全会一致の賛同を得、多くの委員から「素晴らしい試み」とのコメントを頂きました。文部科学省との協議には時間を要しましたが、担当課の前向きな姿勢のおかげで実現しました。日本技術士会とも連携しました。

日本人にとっての「国際化」は一義的には、日本人が海外に行ったときに不利益を被らないようにしたいという視点です。真の国際化には、海外人材が日本で不利益を被らないようにする視点も持つべきです。そういう二方向の国際化の視点が大切です。そうでないと優秀な海外人材が日本に集まらないでしょう。今回の文部科学省の技術士分分科会・制度検討特別委員会の決定は日本の技術分野の国際化への一歩だけでなく、他の職業分野の国際化にも一石を投ずることになると思います。

■筆者プロフィール:青島泰之「アジアの窓」顧問

ユネスコ東アジア代表、前日本技術者教育認定機構(JABEE)専務理事。1970年 東京大学工学部土木工学科卒、工学博士、スイス・ローザンヌ連邦工科大学鋼構造研究室助手、日本鋼管(現UFJ)で海底パイプライン敷設工事の設計、施工、ユネスコ・パリ本部、ジャカルタ事務所、北京事務所長/東アジア(中国、モンゴル、北朝鮮、韓国、日本)代表、静岡市教育委員、日本技術者教育認定機構 専務理事などを歴任。現在JICA技術協力事業(インドネシア)のプロジェクトマネージャー、日本技術者教育認定機構 国際部顧問。

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