集団的自衛権の解禁にこだわる安倍首相のねらいは?―中国専門家

Record China    2014年6月5日(木) 15時9分

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4日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)はこのほど、集団的自衛権の解禁を提案する報告書を安倍首相に提出した。写真は国会議事堂。

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2014年6月4日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)はこのほど、集団的自衛権の解禁を提案する報告書を安倍首相に提出した。(文:厖中鵬(パン・ジョンポン)中国社会科学院日本研究所研究者)

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報告書の中核をなしているのは、日本の戦後の平和憲法が規定する「専守防衛」原則は時代遅れであり、時代の変化に適応できず、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能としなければならないという主張である。集団的自衛権の行使をめぐっては、日本の政界も二陣営に分かれている。安倍首相を筆頭とする右翼保守勢力は集団的自衛権の解禁を強く求めているが、その他の党(公明党、社民党、共産党など)は集団的自衛権の解禁に慎重または反対の態度を取っている。この問題には、反対の世論が根強く、日本のメディアが5月17日と18日に実施した最新の世論調査によると、集団的自衛権解禁の議論を安倍首相が政府と与党に求めていることには、反対が48.1%で賛成が39.0%、憲法の修正でなく解釈変更によって集団的自衛権を解禁しようとする動きには反対が51.3%と半数を超えた。

「集団的自衛権」は、「個別的自衛権」との比較で語られる概念であり、自国と密接な関係にある国家が他国の武力攻撃を受けた際、自身が攻撃を受けていなくても武力による干渉と阻止ができる権利を指す。つまりは同盟の一国が攻撃を受けた際、同盟国が軍事的に援助し合うということである。1945年制定の「国連憲章」第51条は、個別的または集団的自衛の固有の権利を主権国家が持つことを認めている。同条項は、米国とソ連が北大西洋条約機構とワルシャワ条約機構を設ける法的根拠となった。日本が制定した平和憲法は、日本がかつて軍国主義的な侵略戦争を発動し、敗戦国となったことを土台に形成されたもので、戦争放棄や戦力不保持、交戦権否定などの平和主義的政策の実行が規定されている。これは日本の集団的自衛権行使をはっきりと禁じ、自国が攻撃を受けた時だけ武力を行使する個別的自衛権だけを認めるものと解釈されてきた。平和憲法の修正は、非戦条項と呼ばれる第9条にかかわる敏感な問題となるため、非常に複雑なプロセスを必要とする。第2次安倍内閣は、集団的自衛権解禁の目的をできるだけ早く達成するため、憲法の修正を迂回し、解釈の変更という道を進んでいる。

日本が再び軍事大国になるのではないかという国際社会の疑念や憂慮、日本国内からも湧き上がる集団的自衛権行使反対に直面しながらも、集団的自衛権の解禁を安倍首相が急ぐのはなぜか。

第一に、集団的自衛権の解禁は、強力な軍事的影響力を持つ「普通の国」に日本を戻すという安倍首相のねらいにとっての必要条件である。第2次大戦後、平和憲法や日米安全保障条約の制約を受け、日本は、交戦権も対外的軍事影響力を持たず「自衛」しかできない「特殊な国」となった。この「特殊な国」は、米国の軍事力を傘として「専守防衛」の防御政策しか取ることができない。第2次大戦終結から現在まで、日本の右翼保守勢力は、日本が正規の軍事力を持った「普通の国」でないことに不満を募らせてきた。こうした人々は、武力の対外行使が自由にできる戦前のようないわゆる「普通の国」に日本を戻そうと手を尽くしている。そのための突破口の一つが「集団的自衛権の行使」なのである。日米が軍事同盟を結んでいる以上、日本は同盟国に貢献する義務がある。他国の武力攻撃から同盟国を守るための協力なら、憲法が禁止する「集団的自衛権」も正当に行使できるというのである。「集団的自衛権の行使」という一歩が踏み出されれば、日本は、地域及び世界に軍事的影響力を持つ「普通の国」にいよいよ近付くこととなる。

第二に、安倍首相には、海洋強国を目指す中国の努力を牽制・制約し、中国の東シナ海における海洋権益を横取りしようというねらいがある。安保法制懇が安倍首相に提出した報告書には、集団的自衛権の行使にあたっての「グレーゾーン」問題の解決に留意しなければならないとの指摘がなされている。グレーゾーンの問題とは、漁民に扮した外国の武装集団が「離島」に上陸したり、外国の潜水艦が日本の領海に侵入したりといった場合で、他国による武力攻撃と言える段階には至っていない事態を指す。グレーゾーン問題への対応という想定の矛先が中国などに向いているのは明らかである。日本が昨年公表した防衛大綱及び2014年度から2018年度の「中期防衛力整備計画」(中期防)はいずれも、日本の南西諸島に部隊を配備することを明記している。さらに防衛省の2014年度の予算には、6000万円の関連調査費が組み込まれている。5月19日には、陸上自衛隊警備部隊を鹿児島県奄美大島に配備することが決定された。石垣島や宮古島の部隊も増員される計画である。各地に配備される部隊の規模は400人と見られ、配備作業は2018年に完了する。日本がこれらの島々に部隊を配備するのは、武装集団の上陸などの突発事件の発生に対応するためとされる。

「グレーゾーン」問題の対応と西南諸島における兵力配備の強化は密接に関連しており、安倍首相の集団的自衛権解禁の深層の目的が表れている。日本は、中国が海洋強国となるのが気に入らず、東シナ海と釣魚島とその付属島嶼(尖閣諸島)の海域で中国が正常かつ合法的な権益保護のためのパトロールを行うのが気に入らず、中国が「第一列島線」を越えて西太平洋に向かうことはさらに気に入らないので、中国を大陸近海の沿岸に止めておくために万策を尽くしているのである。日本から見れば、東シナ海における権益保護のための中国の海洋パトロールや、西太平洋の遠洋に入り込んだ観測や訓練は、日本の海洋利益の「侵犯」にあたる。集団的自衛権が解禁されれば、日本は、日米の主張する「南西諸島」における海洋権益の「侵犯」を口実として、海上自衛隊の艦艇や航空自衛隊の軍機を堂々と派遣し、中国艦船を追いやることができる。さらには中国の艦船と武力衝突するといった深刻な事件が発生する可能性もある。

第三に、日本による集団的自衛権の解禁は、海上におけるエネルギー輸送航路の安全保護を可能とすると同時に、インド洋や中東、アフリカ海岸に向けて軍事力を伸長し、海外における日本の軍事的影響力を拡大することを可能とする。安保法制懇の報告書には、集団的自衛権が行使される具体的な事例が6つ挙げられているが、重要な海上交通路の安全を確保するための機雷の除去がその一つとされている。海上要路の安全確保とは、海上のエネルギー輸入航路の安全確保を指している。日本は、中東のペルシャ湾からマラッカ海峡、南シナ海までをエネルギーの生命線と認識しており、沿線の海上安全の確保を重視している。集団的自衛権が解禁されれば、日本は、本国または同盟国の石油タンカーの保護を理由として、大量の艦艇と部隊をインド洋海域や重要航路へと派遣し、日本の海上エネルギー輸送の安全を保護すると同時に、インド洋沿岸の国や島嶼に軍事基地を堂々と設けることができるようになる。日本はすでに、アデン湾沿岸の重要な国であるジブチに日本初の海外常設軍事基地を設けている。小野寺五典防衛相は最近、ジブチを特別訪問し、ジブチに設けられた自衛隊基地を視察した。ジブチ基地の設立は、日本が集団的自衛権を行使して海外における軍事的影響力を拡大するための試みである。

だが集団的自衛権の解禁によって日本を軍事大国としようとする安倍首相の計略は、完璧なものであるとは言えない。それどころか集団的自衛権の解禁は初めから危険をはらんでいる。集団的自衛権の解禁は、日本を戦争の深淵に引き込むものであり、「集団的自衛権」は「戦争」に等しい。東京の街頭で時折繰り広げられる民衆の反戦・護憲のデモからもそれは見て取れる。日本の一般の民衆が支持しているのは、平和発展の方針を引き続き守る政府であり、他国との武装衝突の勃発や戦争の発動へと一歩一歩進んでいく「再軍国主義化」の政府ではない。

2015年は、第2次世界大戦の終結と反ファシズム戦争の勝利の70周年となる。70年前の日本は、義のない侵略戦争の泥沼に陥り、最後は恥ずべき失敗を喫した。現在の世界の潮流は、平和や発展、協力、調和、ウィンウィン、寛容である。安倍首相の集団的自衛権解禁は、時代の潮流に逆らった動きであり、軍国主義の亡霊を呼び覚まそうとしているものである。安倍首相がもっともすべきなのは、侵略の歴史を徹底的に反省した上で、善隣友好外交を推進し、日本経済の再建と復活に専念することだろう。(提供/人民網日本語版・翻訳/MA・編集/武藤)

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