<日中100人 生の声>危機の時代にこそ、利他の心とベンチャー精神を!―施盛大 三和取締役社長

和華    2022年3月7日(月) 18時50分

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私は1996年に株式会社三和を創業し、今年の9月で会社設立25周年を迎えます。写真はSERAOショールーム。

私は1996年に株式会社三和を創業し、今年の9月で会社設立25周年を迎えます。いついかなる時でも、お客様の求めるサービスをすぐに提供できる会社にしようと奮闘し、品質保証と納期厳守を原則とすることで業績を伸ばし、日本のホテル用品業界のトップに昇り詰めました。

ホテル用品が売り上げの7~8割、その他にタオルや不織布のエコバックなどを製造販売してきました。また、東京オリンピック・パラリンピックに向けて盛り上がる観光業にも目を向け、5年前からはホテル経営に乗り出しました。2020年には墨田区業平に本社を移転し、印刷会社だったビルを改装して社屋にし、屋上にはスカイツリーを見上げるスカイラウンジをオープンして民泊事業を始めようと意気込んでいました。新型コロナウイルス感染症に直面したのは、ちょうどその頃でした。とはいえ、私はテクノロジーの進歩に絶対的な信頼を寄せています。人類の叡智によって流行り病なんてそのうち消えてしまうだろう、と高を括っていました。ところが、中国武漢市が防疫のために封鎖されると世の中は一気に物々しい雰囲気に包まれました。

私の会社では2003年に流行したSARSウイルスの経験から不織布マスクを中国で製造し、日本で販売してきました。中国ではマスクをつける習慣は日本のようには浸透していません。ですから、今回の感染症で最初にマスク不足に陥ったのは膨大な人口を抱える中国でした。昨年の1月末には私の故郷・福建省晋江市から要請を受け、マスクの寄付活動を行い大変喜ばれました。

一方、日本は3月11日、WHOがパンデミック宣言をした頃から深刻なマスク不足に陥りましたが、この時すでに中国では防疫マスク工場の製造ラインがフル稼働していました。ただし中国国内の原材料費・製造費・輸送費すべてが一気に値上がりし、仕入れ価格は常時の30倍ととても高値でした。実際、北京の小売店では1枚の不織布マスクが5元=80円で売られていたほどです。最初はマスクの仕入れを躊躇していましたが、多くのお客様から「マスクがないと非常に困る、値段が高くても良いので何とか入手してくれないか」という声が寄せられるようになり、私はいち早くマスクを仕入れる決断をしました。入手したマスクの一部を墨田区と大使館に寄付した後、試しに日本経済新聞に1枚79円で広告を出してみたところ、すぐに注文が殺到し、それからは寝る暇もないほどの業務に追われ始めました。

皆様は、私の話をここまで聞いてどう思われたでしょうか。世の中の災難を商売に上手に利用したと思われるでしょうか。実際、私のことを、非常時にマスクを値上げして売りまくる悪徳商人のように報道される方々がおられました。けれどもそれらの報道はすべて事実とは異なります。

緊急事態宣言が出されて多くの会社が休眠状態だった昨年4月、私は毎日会社で16時間以上働き詰めの状態でした。受注と発注をひたすら繰り返すだけの日々で、思考は完全にストップしていました。例えるならば、高速道路をブレーキの利かない車で、ハンドルも握らずに走り続けているような状態です。それでも立場上、逃げるわけにはいきません。休日だった4月29日の日中、疲れ切ってソファで横になっていると、虫の知らせでしょうか…。耳元で何かがささやきました。ようやく我に返り、夜を徹してこれまでの仕事を整理してみると、なんと発注済みのマスクに10億円を超える未納があることが発覚したのです。私は慌てて未納分をすべてキャンセルしました。その結果、なんとか会社の命脈を保つことができました。もしもあの時、未納分をキャンセルしていなかったら、資金繰りができないまま会社は倒産していたでしょう。今になって思い返してみると、マスク不足による市場の混乱は一瞬の出来事でしたが、私には会社の命運を懸けなければならないほどの急務を投げ与えられたような感覚がありました。最終的には全国47都道府県すべてにマスクを寄付し、たくさんの感謝の言葉も頂き、24年前に日本で事業をスタートさせて頂いてから今日までのご恩に少しだけ報いることができたかと思います。

5月に入ると、心に少し落ち着きを取り戻し、新商品の開発に乗り出しました。暗い世の中を少しでも明るくしようとひらめいたのは、社名である三和(サンワ)という語呂から38色のカラフルで快適なコットン製マスクを製造販売することでした。同年11月4日に発売したSERAO「38 colors mask」は、発売から今日まで80万枚超を売り上げました。自社サイトでのオンライン販売と併せて、ホームセンターやドラッグストアの店頭及びオンライン販売で順調に売り上げを伸ばしています。

「BEST MASKNIST AWARD 2020」授賞式の様子

ところで、コロナ禍の完全終息までまだ少し時間がかかりそうです。ずっと堅調だったホテル用品業やホテル業はひどい状況ですし、現在その代替となっているマスクやフェイスシールド、パーテーションなどの防疫グッズはいつまで需要があるか分かりません。むしろ防疫グッズなど要らない世の中に早く戻って欲しいと思っています。私たち会社経営者はこのような危機の時代にこそ利他の心を大切にして、ベンチャー精神をフルに発揮したいものです。私自身50歳になるまでは自分のため、家族のために仕事に励んできましたが、これからは社会のため、人のために少しでも役に立ちたいと、心からそう願います。

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:施盛大(しせいだい)


株式会社三和取締役社長。1964年、中国の福建省晋江市生まれ。1988年に来日後、日系企業に勤務。1996年株式会社三和を設立、日本のホテル用品業界のトップリーダーになる。2020年新型コロナウイルス感染症によるマスク危機の際に、中国から輸入したマスクとフェイスシールドを国・47都道府県・市区町村に寄付した。

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