ウクライナ危機で垣間見えるインドの「したたか外交」=「非同盟」から積極的な全方位外交へ

山崎真二    2022年3月8日(火) 6時50分

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ウクライナ危機をめぐりインドはロシアとの友好関係維持に努める一方、対露非難で共同歩調を迫る米国にも巧みに対応するなど、独自のバランス外交を展開している。

ウクライナ危機をめぐりインドはロシアとの友好関係維持に努める一方、対露非難で共同歩調を迫る米国にも巧みに対応するなど、独自のバランス外交を展開している。

◆「対露関係に十分な気遣い」

周知の通り3月2日、国連総会の緊急特別会合はウクライナ情勢に関しロシアの侵攻を糾弾し、軍部隊の即時撤退を求める決議案を圧倒的賛成多数で採択した。これより先、2月末の安保理では同様の対露非難決議案がロシアの拒否権行使で否決された。いずれの場合もインドは中国同様、採決に際し棄権した。ロシアの侵攻にインドが表立って反対を表明しない理由について、同国にとってロシアが最大の武器供給国であるためとの多くの指摘があるが、その通りだろう。

実はもう一つの理由もある。インドとパキスタンの根本的対立点であるカシミール地方の領有権問題でロシアがインドを支持していることも見逃せない。プーチン露大統領は昨年12月、ニューデリーでモディ印首相と首脳会談を行い、軍事技術支援を柱とする幅広い分野での協力強化で合意しており、国連外交の舞台でも双方の協力が裏付けられた形だ。

インドの対外貿易を研究するジャワハルラール・ネルー大のビスワジット・ダール教授が現地メディアに語ったところによれば、モディ政権は欧米の制裁によるロシアへの影響を軽減するため、印露間の貿易決済をインドのルピーとロシアのルーブルで行うことを検討しているという。「非同盟」外交を唱えながらも、しばしばロシア寄りの姿勢を見せてきたインドは「対露関係を損なわないよう十分気を遣っている」(日本のインド問題専門家)との見方は的を射たものと言えよう。

◆「インドの重要性」を盾に米の圧力かわす

その一方、インドが米中対立が続く国際環境を利用して自国の国益確保を図ろうとする意図も見え隠れする。国連を舞台とする対ロシア包囲網の形成に向けバイデン米政権がインドに圧力を加えたのは確か。「ヒンドゥスタン・タイムズ」などインド有力メディアの報道によれば、米国務省は国連総会と安保理のロシア非難決議採決に際し、米国と足並みを揃えるようインド外務省に強く迫ったという。これに関し駐ニューデリー外交筋は「モディ政権はインド太平洋地域での中国の台頭に対抗する上でインドの重要性を力説し、米国の理解を得たようだ」と語っている。

インドが「日米豪印戦略対話」(クワッド)のメンバーである点を考えれば、バイデン政権がインドの言い分を無視できなかったことは納得がいく。米国務省のプライス報道官は国連総会決議後の記者会見で「インドとは重要な価値観を共有する」と強調するとともに「インドとロシアの関係が米露関係とは異なることは承知している」と述べ、インドの投票行動への批判を避けている。

米国のインド重視は他にもうかがえる。中国との国境紛争を抱えるインドは対中防衛を強化するため、ロシアから地対空ミサイルシステム「S400」の導入を進めているが、米国は同じシステムを配備したトルコには制裁を科したものの、インドに対しては制裁を控えている。欧米の軍事情報メディアによれば、インドは米国との間で最新鋭の無人機の導入について交渉を行っており、この無人機がインドに供給されれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国以外では初めてのケースになるという。

◆中東や中央アジア諸国との外交促進

最近のインド外交について多くのインド専門家の間では「歴史的な非同盟主義から、より積極的な全方位外交へと変わりつつある」(米有力シンクタンクの南西アジア専門家)との見方が有力だ。事実、インドはこれまで比較的関係が疎遠だった中東や中央アジア諸国との外交促進に乗り出している。対露関係に関しても、前述の駐ニューデリー外交筋は「将来的には見直しの可能性がある」とみる。同筋によれば、インドの宿敵パキスタンとロシアとの関係が今後強まるなら、インドの“ロシア離れ”が始まることが考えられるという。

この点で注目されるのは、パキスタンのカーン首相が2月末モスクワを訪問し、プーチン大統領と会談したこと。パキスタン首相の訪ロは23年ぶりで、両首脳はエネルギー分野を中心に二国間協力について話し合ったと伝えられる。ロシアのウクライナ侵攻直後、パキスタンはロシアから小麦と天然ガスを購入すると発表した。

◆親露路線見直しも

インドの“ロシア離れ”を促すもう一つの要因として、最近の中露関係の緊密化を挙げる向きもある。中国はパキスタンにとって最大の武器供与国であるうえ、印パ間のカシミール紛争ではパキスタン支持を表明している。その中国が対印戦略の一環としてロシアと一緒になってパキスタンを軍事・外交面で後押しするようになれば、インドがロシアとの関係を見直すのは当然だろう。

日本にとってインド外交の行方は「クアッド」の絡みからも極めて重要。今月にも予定されるという岸田首相のインド訪問は同国がどこに向かうのかを見極める大切な機会なりそうだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

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