香港、新型コロナの感染者急増で街の様子は一変

野上和月    2022年3月5日(土) 14時30分

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香港は、新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が5万6000人を突破し、感染拡大が止まらない。写真はほぼ空状態になったスーパーの精肉コーナー。 

香港は、新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が5万6000人を突破し、感染拡大が止まらない。先が見えない中で、外出する市民は減り、店を閉める飲食店や小売店が後を絶たない。公共交通機関も、間引き運転や運行中止を余儀なくされる事態となった。一方で、ロックダウンのうわさが絶えず、スーパーや薬局などでは市民による必需品の買い占めが続くなど、街の様子は一変し、不安と混乱の様相を帯びている。

3日現在、新型コロナ感染者数の累計は35万557人、死者1366人。このうち、昨年12月末にオミクロン株の市中感染で始まった第5波のわずか2か月余りだけで、感染者数の合計は33万7926人、死者は1118人に上る。

実際にはこの第5波の感染者数はもっと多いと言われている。無症状で自分でも気づかない人はもちろんだが、市販の検査キットで個人的に感染を確認しても、軽症な人の中には当局に申告しない人もいるからだ。今や隔離や治療のための施設や従事者が不足し、対象者全員を収容できないため、軽症者は自宅で待機や隔離を強いられる。あるいは、申告して、かえって病院の屋外でベッドに寝かされたり、人手不足で行き届いた介護が期待できない隔離施設に送り込まれたりするぐらいなら、黙って自宅で療養した方がいいと考えている軽症者もいるのだ。ある専門家は、第5波が始まってから2月末までに、すでに170万人が感染していると試算している。


人が消えて閑散とした香港島の繁華街・銅鑼湾

それにしても、オミクロンの感染力はすごい。2月25日に1日の新規感染者が1万人を超えて驚いたが、そのわずか5日後の3月2日には5万5000人を突破。翌3日は5万6827人と過去最高を更新した。老人ホームでの集団感染が相次ぎ、死者も80歳以上の高齢者を中心に急増している。

3月に入って私の周辺でも感染確認が相次いでいて、ウイルスが忍び寄ってきている感じだ。市民の間では、「もはや自分が感染するのは時間の問題」と、腹をくくった人が増えている。

そんな中、先週末、香港島と九龍半島の繁華街を歩いてみた。人影はすっかり消え、本来なら観光客や市民でにぎわう九龍半島のチムシャツイ界隈はシャッターを閉めた店が軒を連ね、悲壮感しかなかった。普段は市民でにぎわう香港島の銅鑼湾も同様で、ガランとしていた。


九龍半島の繁華街・チムシャツイのメーン通りでシャッターを閉める店

閉まったシャッターには、「従業員に感染者が出たので休業します」とか「コロナの感染状況がひどいので、みなの健康を考えて3月いっぱい休業します」といった案内が張ってある。今香港では、こうした光景が、繁華街に限らずあちこちで見られるようになった。感染対策だけでなく、外出する人が減っているのに店を開けても商売にならない、との判断もあるのだろう。テナントが去り、借り手を探している空店舗もそこかしこに点在している。


従業員の感染で臨時休業を伝えるマクドナルド


3月31日まで休業する張り紙をして店を閉めた飲茶の店

人が行列を作っているところはというと、PCR検査やワクチンの接種会場。そして、食料や生活必需品を売る小売店だ。ただし、すれ違う人は、みな無表情。フェイスシールドをつけて徹底防備で外出する市民の姿も目立ってきた。


ワクチン接種のために行列を作る市民


フェイスシールドを付けて外出する市民が増えてきた

感染の急拡大を受けて、業種を問わず経済活動を縮小する動きも相次いでいる。大手スーパーでは午後5時で閉店する店舗も出てきた。銀行は、行員が感染した支店を次々と閉鎖。開いている支店では客が行列を作っている。職員が感染した郵便局も随時閉鎖するから、郵便物の遅配も出ている。ある大手ファストフード店は、ほとんどのチェーン店で日中も持ち帰りサービスだけに切り替えた。3月いっぱい休業を決めた飲食店もある。地下鉄、路線バス、フェリーは、従業員の感染者が増えたことなどから、運行の見直しを余儀なくされた。


香港島の繁華街・銅鑼湾で借り手を待つ空き店舗

市民はというと、ロックダウンのうわさに敏感に反応して食料品や薬といった生活必需品の買い占めに走り、スーパーの野菜や生鮮食品、冷凍食品や即席めんなどのコーナーは根こそぎ空っぽ状態だ。政府がうわさを打ち消しても、買い占め行為は続いている。香港―広東省間を走るトラック運転手の感染例が相変わらず増えていて広東省からの物資のトラック輸送が滞り、中でも野菜の高騰は続いている。頭痛薬や喉薬なども店頭から消えた。


売り切れ状態の風邪薬の棚

市民がこれほど必需品の確保に走るのは、極力外出を控えたいだけでなく、政府が3月に実施するとしている約740万人の全市民を対象にしたPCR検査(以下、全民検査)を行う際に、ロックダウンをするのではないかとの思いがあるからだ。

林鄭月娥行政長官は、香港全域のロックダウンは否定したが、過去に発表されたコロナ対策の計画や方針が後で変更されることが度々出てきていることや、政府高官や医療関係者、ウイルス専門家らの言うことがバラバラで、市民は混乱し、自己防衛に神経をとがらせているからだ思う。

その全民検査だが、香港政府が中国政府に追随して掲げている「ゼロコロナ政策」に基づいて行う。中国政府の支援も取り付けて、中国本土から支援部隊が続々と乗り込んできている。検査キットや食料などの物資の提供を受ける手はずも整えた。ただ、感染者を隔離するのに十分な施設が用意できておらず、今、全民検査を実施したところで、隔離できなければ意味がないという状況だ。このため、猛スピードで施設を建設中といった具合で、感染拡大ペースに追い付けず、後手に回って迷走しているのが実情だ。オミクロンを沈静化させるのに、中国頼みになってきた香港政府の姿を見ていると、中国政府による香港支配が一段と進みそうな気配でもある。


ほぼ空っぽになったスーパーの果物棚

こうしている間にも感染者数が増え続ける状況に、市民は、「全民検査を受ける頃には、もう香港市民全員が感染しているだろう」と、政府の対応を皮肉っている。第5波が始まってから2か月が過ぎてもピークが見えない状況に、「今の中途半端な感染対策をだらだらと続けて経済を麻痺させるよりも、2週間ぐらいロックダウンした方がよっぽど『ゼロコロナ』の実現が早いのに」と、ロックダウンを望む声も出てきている。

こんな近頃の香港の社会や街の雰囲気が、2003年に香港で重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行し、「鬼城(ゴーストタウン)」と言われたあの時に酷似してきていると感じる市民は少なくない。(了)


スーパーの即席めんコーナーもほぼ空に


平日の昼時でもすでに野菜は売り切れだった

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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