北京五輪の成功で「冰雪経済」は新たな経済成長の起爆剤に?

高野悠介    2022年2月22日(火) 11時50分

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北京冬季オリンピックの成功により、中国スキー産業は爆発的に発展し、黄金期を迎えると期待されている。

北京冬季オリンピックの全競技が終了した。

2018年、平昌オリンピックの中国メダル獲得数は、金1、銀6、銅2、国別ランキング16位だった。目立ったスター選手は存在せず、盛り上がりを欠いた。今回の北京オリンピックでは、金9、銀4、銅2、国別ランキング3位に“躍進”した。競技成績に限れば、まずまずだろう。この結果は、中国に何をもたらしたのだろうか。

■中国のスキー…人口の1%未満

まず中国のスキー産業を概観してみよう。昨年発表の「2021-2027年中国滑雪行業供需態勢分析及市場運行潜力報告」という資料によれば、2022北京冬季オリンピックの成功により、中国スキー産業は爆発的に発展し、黄金期を迎えるだろう、とある。以下は2015年~2020年の分析である。(スキーヤー数/年間延べ滑走人数/年平均回数)

2015年 960万人 1250万人 1.3回

2016年 1133万人 1510万人 1.3回

2017年 1210万人 1750万人 1.4回

2018年 1320万人 1970万人 1.5回

2019年 1305万人 2080万人 1.6回

2020年 1051万人 1724万人 1.6回

人口比では、かなり少なく1%にも満たない。シーズンで1回か2回、滑るだけの人が大半だ。しかもコロナ過の前年2019年には、すでに頭打ちとなっていた。

さらにスキー人口は、地方の偏りが大きい。2019年の省別スキー場、延べ入場人員は、河北省243万人、吉林省216万人、北京189万人、黒竜江省186万人、新彊ウイグル自治区122万人、浙江省111万人、内モンゴル自治区101万人、河南省96万人、山西省95万人、山東省88万人、という順だった。浙江省以外は、みな北方だ。また一線級都市(北京、上海深セン広州)の住民が全体の38.7%を、それに続く新一線都市(15都市)で19.4%を占める。都会っ子の新しいレジャーである。

■スキー市場規模…2020年初の減少

トータルスキー市場規模とそのうちの装備市場規模、訓練市場規模は以下の通り。

2015年 420億9000万元 48億元 50億1000万元

2016年 546億5000万元 68億元 59億3000万元

2017年 668億3000万元 84億7000万元 66億1000万元

2018年 806億7000万元 105億6000万元 68億9000万元

2019年 887億1000万元 117億5000万元 69億3000万元

2020年 836億6000万元 126億9000万元 65億1000万元

2020年は5.8%減、コロナ過の影響で初の減少に見舞われた。ただし用具などの設備市場は右肩上がりだ。訓練市場は停滞している。熟練者が少なく、指導者不足は明らかだ。例えば、上海のスキー初心者の場合、吉林省や黒竜江省のスキー場へ行くより、設備や指導者の整った日本のスキー場へ行く方が手っ取り早い。上海人には、感性からしても東北3省の田舎より、日本の方が合うだろう。実際、それら中国人スキーヤーたちで、2019年までの日本のゲレンデは大いににぎわった。2020年のコロナ過はこれも封じられ、中国スキー界に数字以上の後退をもたらした。北京オリンピックは巻き返しの契機となったのだろうか。

■「冰雪経済」…バランスの取れた発展へ

その評価はすでに出ている。オリンピック期間中、「中国『冰雪経済』の大きな配当が明らかに」と題する、成功を先取りする記事が出た。北京オリンピックによって加熱した氷雪経済は、科学技術、新エネルギーなどの発展を促し「中国制造」を推進、今後中国経済に多額の配当収入をもたらす、という内容である。

2015年7月の北京2022年冬季オリンピック招致決定後、中国は冬季スポーツへの参加者3億人を目標に掲げた。それは2021年10月に3億4600万人となり、達成された。また先述のスキー産業だけではなく、冬季レジャー、大会、競技場運営、設備製造まで含めた「冰雪経済」全体では、2015年の2700億元から、2020年には6000億元となり、経済システムとして一定の規模に到達した。

清華大学体育産業発展研究センターによれば、その中国の冰雪経済は、バランスが取れているという。競技の人気が製造業の技術力を押し上げ、発展へ導き、さらに多くの業態との融合も期待できる。高度なスポーツ訓練需要も見込め、さらに広範な旅行需要を喚起するだろう。

■北京オリンピック…成功評価は決定済み

オンライン旅行大手「去哪児」によれば、今年の春節、北京のスキー場の売り上げはコロナ前2019年の2倍となった。上海や杭州など南方の諸都市でも屋内競技場が増加を続けている。また、アリババの越境EC「速売通」によれば、2021年第4四半期の中国スキー用品の海外売上は60%伸び、100の国と地域をカバーした。

さらにオリンピックは中国科学技術の「練兵場」でもあった。例えばデジタル人民元はオリンピック関連の交通、飲食、宿泊、ショッピングなど40万を超えるシーンをカバーした。スマートレストランでは「ロボコック」の作った料理を提供し、関係者を驚かせた。これら技術は、中国制造のスポーツ用品とともに、華々しく国際舞台にお披露目した。

北京冬季オリンピックでは判定やドーピングなどの問題が噴出、国際的評価は定まりそうにない。しかし上記のように、中国では「北京オリンピックは成功、冰雪経済はオリンピックによって加速した」。無観客、関係者隔離のバブル方式を前提とすれば、想定の範囲内だったのだろう。中国オリンピック委員会も、個々の質問には答えず、全体での成功を強調した。メディアは忠実にその評価を補強しているように見える。しかし、冬季スポーツがしっかり根ざし、冰雪経済が本当に発展したかは、来シーズンを待たなければならないだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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