オミクロン株感染爆発、春節どころではない香港

野上和月    2022年2月15日(火) 17時50分

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香港は、春節を迎えて名実ともに「虎年」がスタートしたが、その直前からオミクロン株を主流とした新型コロナの感染第5波が始まり、目下感染爆発の真っただ中にある。写真は人が消えた香港島セントラルのパブ街。

香港は、春節(旧正月)を迎えて名実ともに「虎年」がスタートしたが、その直前からオミクロン株を主流とした新型コロナの感染第5波が始まり、目下感染爆発の真っただ中にある。一年で一番華やかで、市民が縁起担ぎをしたがるこの時期に、ロックダウン(都市封鎖)までうわさされ、新型コロナの感染が始まって以来、最大の試練に直面している。

香港では2020年1月に、初めて新型コロナウイルスの感染例が出てから、昨春までに4回、感染の波が訪れた。その都度、水際対策の徹底や集団行動の制限、飲食店や娯楽施設の規制強化などを実施。危機を乗り切ってきた。第4波が沈静化してからは、水際対策の一層の厳格化が奏功し、市中感染はほぼゼロの日が続いていた。規制はあるものの、クリスマスシーズンにはレストランは夜も混雑し、街に活気が戻ってきていた。コンサートやドローンによるカウントダウンイベントが行われる中、明るく2022年を迎えたのだった。

しかし、今はそんな約2か月前とは対照的な重たい空気が流れている。

昨年12月末に、隔離施設での検疫を免除され自宅で自己観察中のキャセイ・パシフィック航空のクルー(当時)が、規則違反をして外食。レストランで彼を感染源としたオミクロン株の市中感染が始まった。また別のクルーは同居の家族がオミクロン株に感染。この家族の外出先でも感染が広がった。

1月に入ると、ペットショップの店員によるデルタ株の感染例も出てきた。オランダから輸入され、店内にいた複数のハムスターが同株に感染しており、ハムスターなど小動物が感染源と疑われるケースが出たのだ。

さらに、マンションの同じ位置の別の階の世帯で感染例が出るなど、団地内での集団感染も出てきた。


ワクチン接種を呼びかける電子広告

1月下旬になると、それまでは1日40人に満たなかった新規の市中感染者が、突然100人を超えるようになる。折しも、2月1日の春節を控えて、家族団らんの食事会や正月飾りの花市など、市民が集団化しやすい恒例の“年の瀬”行事が控えていた。

香港政府は、午後6時以降の店内飲食を禁止。娯楽施設も閉鎖。花市だけでなく、春節元旦の花火も中止した。初詣で人気の「黄大仙祠」への正月3が日の参拝を禁じ、春節休暇中の外出自粛も呼び掛けた。レストランは静まりかえり、正月飾りでいつもなら真っ赤に染まる街が、普段とあまり代わり映えしなかった。

とはいえ、春節は香港人にとって、一年で一番大切な年中行事。例年通り、家族一同で顔を合わせたり、親戚宅に挨拶周りに出かけたりする香港人家庭は少なくなかったようで、3日間の春節休暇が明けると、1日の新規感染者が300人、600人と倍増し、アッという間に1000人を突破。2月12日には、1514人(うち1509人が市中感染)と2月13日までで過去最高となった。過去の第4波までで新規感染者数が一番多かった2020年7月30日は、149人(うち市中感染は145人)だったから、今はその10倍以上の規模で感染爆発が起こっているのだ。


コロナ対策で閉門している廟

オミクロン株は、感染力が強い変異株と言われているが、香港のように狭い土地に高層ビルが林立する過密都市では、ひとたび市中で感染が始まるとアッという間にウイルスが拡散することを思い知らされた。当初は感染ルートが特定されていたが、今は新規感染者の多くが感染源不明だ。オミクロン株が主流とはいえ、デルタ株の感染例も出ているから、厄介でもある。

この事態に香港政府は、早期に感染者を見つけ出すことや検査の徹底、ワクチン接種率を高めることで感染拡大を断ち切ろうとしている。

このため、濃厚接触者は強制検疫センターで経過観察する。感染者が出たマンションは、直ちにビルごと封鎖。全住民を強制検査し外出を禁じる。また、汚水を検査してコロナウイルスが検出されたマンションは、無症状者がいるとみてそのビルの住民全員をウイルス検査する――といった具合だ。


立ち入り禁止でガランとしたバスケットコート

一方、ワクチン接種率を高めるために、2月24日以降は、百貨店、スーパー、美容院などに入店する際は、携帯電話の居場所追跡アプリに記録するだけでなく、ワクチン接種証明の提示を義務づける。このため、ここにきてワクチン接種者が増え、2月13日現在、1回目の接種率は83%、2回目は74%に達した。

ただ、急増する検査対象者数に検査体制が追い付かず、市民は寒空の下で3~6時間も野外の会場に並ばなければならないなど、検査体制の不備や人手不足などが目立ち、政府に対する批判の声が高まっている。

また、広東省深セン―香港間の運送関係者で感染者が出ていることから、深セン側が検査体制を強化。これにより香港への物資の輸送に遅れが生じ、品薄となった野菜が高騰するなど市民生活に影響を及ぼしている。感染者急増で隔離施設や病床もひっ迫している。香港中の宗教施設は2月23日まで参拝禁止となり、一旦は開門した「黄大仙祠」も再び閉門。市民は初詣もままならない状況だ。

新規感染者が1500人を超えた2月12日には、「ロックダウンされるのではないか」といううわさが出回った。週末ということもあり、スーパーや薬局などで必需品をまとめ買いする市民の姿が目立った。


ロックダウンを警戒し、薬局で行列を作る市民

この日は、香港政府ナンバー2の李家超政務長官らが、深センに赴き、中国政府当局や広東省政府高官らとコロナ対策について会議。李長官は、(1)ウイルス専門家の香港への派遣(2)検査能力引き上げへの支援(3)検疫・隔離施設の建設支援(4)高速検査キットの提供(5)防疫物資の提供―の5項目で支援を求め、支持を得たという。一方、現段階でのロックダウンは否定した。

それにしても、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際、香港政府は、隠蔽体質の中国政府から情報がもらえず苦慮していたが、今回は、中国本土から専門家や物資、検査体制の支援を受けることになるとは、本土と香港の姿勢や立場は大きく変わったものだ。

今年香港は、中国に返還されて25周年を迎える慶祝色が強い年だが、広東語で「フーニン」と読む「虎年」の「虎」を、同じ発音の「苦」と置き換えたくなるような年の始まりとなるとは、だれが想像できただろうか?(了)

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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