ジャック・マー氏はNO.1富豪復活なるか?カギは5つのユニコーン企業と当局のIT企業政策

高野悠介    2022年2月9日(水) 8時20分

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アリババ創業者のジャック・マー氏はここ1年以上、逆風にさらされ続けている。写真はアリババ本社。

アリババ創業者のジャック・マー馬雲)氏はここ1年以上、逆風にさらされ続けた。馬氏はかつて中国最大の富豪だったが、直近のフォーブスランキングによれば、鐘睒睒(農夫山泉)、張一鳴バイトダンス)、馬化騰(テンセント)に次ぐ4位だ。しかし最近、ネットメディアが巻き返しについて言及した。

■逆風…アント・グループ上場中止

アリババは有力ユニコーン(企業価値10億ドル以上、設立10年以内の未上場ベンチャー)子会社を5社持っている。これらがカギになる。

アント・グループ…1600億ドル、総合テクノロジー

菜鳥網絡…352億ドル、物流

淘票票…21億ドル、オンラインチケット

斑馬網絡…16億ドル、人工知能

阿里体育…10億ドル、スポーツ・エンタメ

5社企業価値の80%を占めるアント・グループの最大株主はアリババで、32.65%を持つ。馬氏は経営実務からは離れたが、依然としてアリババ個人株主のトップ(4.8%)だ。なお全体トップはソフトバンク(24.9%)となっている。

馬氏個人は、杭州にある2つの投資会社を通じて、アント株式を保有する。所有関係は複雑だが、ある試算によれば、持株比率は10.16%に上るという。上場に成功すれば、馬氏に160億ドル以上の金融資産が確定し、再び大きな力を得る。2020年11月、当局はそれを阻止した。以下5社の概要を見ていこう。

■アント・グループ…フィンテック子会社からグループ司令塔へ

アント・グループは下記のようなアプリを運営している。

支付宝…2004年。元は通販の決済ツール、モバイル決済からスーパーアプリに発展。

余額宝…2013年。天弘基金の管理するMMF。預入限度額10万元。

余利宝…2017年。天弘基金と網商銀行の運営。預入限度額1000万元、企業5000万元。

招財宝…2014年。金融情報プラットフォーム。

花唄…2015年。小口金融、500~5万元。

借唄…2018年。小口金融、限度額30万元、芝麻信用600点以上必要。

芝麻信用…2015年。信用スコア。

網商銀行…2015年。ネットバンク。中小企業向け融資。

相互宝…2018年、医療共済。2022年1月、運用停止。18万7000人の急患を救う。

特に支付宝、余額宝、花唄、芝麻信用は、中国金融界に革命的な変化をもたらした。2020年6月、アント・フィナンシャルからアント・グループに社名変更、フィンテック企業から総合ハイテク企業へ進む意思を明らかにした。戦略の構築など、グループの新たな司令塔になりつつある。

■菜鳥網絡…全国24時間配送

双11(11月11日独身の日セール)の物流ソリューションとしてスタートした。

菜鳥網絡は2013年5月、アリババと銀泰集団、复星集団、富春集団+物流5社(順豊、申通、園通、中通、韵達)の出資で設立された。その後、金融機関を含めた「中国智能物流骨干網」が発足、目標に全国24時間以内配送の実現を掲げた。そして物流コストをGDP比5%以内に抑える。中国のこの値は、2012年で18%、2020年でも14.7%だ。つまり5%は野心的目標だ。

中国智能物流骨干網は、オープンプラットフォームとして、メーカー、ネット通販業者、宅配業者、倉庫など第三者の参加によるスマート物流の構築を目指す。また、全世界72時間以内の配送を目標に、杭州、クアラルンプール、ドバイ、モスクワ、リエージュ(ベルギー)、香港にハブを設置した。

■淘票票、斑馬網絡、阿里体育

淘票票(前名・淘宝電影)オンラインチケット。2014年設立。

淘票票はこの部門2位だが、テンセント系「猫眼電影」はシェア60%弱でトップを独走している。オンライン配信、音楽配信などと同じく、エンタメ部門はテンセントを崩せない。そのため、合併戦略を取ることになる。この部門では、2004年創業の「大麦網」を3年かけて買収、エンタメ部門に組み込んだ。

斑馬網絡…自動運転システム。2015年設立。

斑馬網絡は、自動運転サポート、スマホ連携の車載システム「AliOS」を開発している。アアリババは、さらに2020年、上海汽車、上海張江高科技術園区と「智已汽車」を設立、EV車を2車種発表し、自動運転EVに本格参入を目指す。しかしこの業界は、アップルグーグルファーウェイ、テンセント、百度など名だたる企業が競い合い、将来は甘くない。

阿里体育…スポーツ・エンタメ。2015年設立。

アリババは、サッカークラブワールドカップスポンサー、オリンピックトップパートナーだが、阿里体育はそれらの実務担当だ。2019年、最新のスマートシステムを満載した阿里体育センターをオープン。オンライン、オフラインを問わず、さまざまな娯楽、スポーツサービスを提供している。

■やはり当局次第

アリババには、功労者を中心とした独自のパートナー制度(現在38人)があり、ここでグループ各社の取締役を事実上選任している。馬氏のパワーの源泉だが、取締役会に屋上屋を架すものとして、問題視されている。外国人株主ソフトバンクの存在と並ぶ、企業統治上の懸念事項だ。さらに、馬氏の維持する国民的人気や影響力も警戒しなければならない。

また、現在もIT企業締め付け政策は続いている。ユニコーン5社の上場、馬氏のナンバーワン富豪復帰は、とてもすんなり実現しそうもない。アリババも今年の春節では、紅包(お年玉)ばらまきを控えるなど、182億元の罰金以来の恭順姿勢をとり続けている。神経を使う展開だ。これらポテンシャルの極めて高いアリババ系企業へのスタンスは、どうなっていくのか。当局の今年のIT企業政策を図る指標となりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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