「敵基地攻撃」は戦後防衛政策の転換点に=問われる「専守防衛」との整合性―岸田政権で急浮上

アジアの窓    2022年1月21日(金) 7時50分

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「専守防衛」を基本理念とするわが国の防衛政策に大きな転換をもたらす動きがに急浮上している。1月13日、自衛隊は習志野演習場で令和4年降下訓練初めを実施した。写真は陸上総隊司令部公式アカウントより。

「専守防衛」を基本理念とするわが国の防衛政策に大きな転換をもたらす動きがにわかに浮上している。岸田文雄首相は昨年12月6日の所信表明演説で、弾道ミサイルを相手国の領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有も含め「あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と述べた。菅義偉政権時には影をひそめていた案件がむっくりと起き上がってきた形で、自民党が掲げる防衛費の国民総生産(GDP)2%以上への拡大と相まって今後の国家の在り方を左右する議論に発展していくのは必至となってきた。

◆法理論から現実的課題に

敵基地攻撃については1956年、鳩山一郎内閣が「誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれる」との認識を示したが、その裏付けとなる能力、つまり相手に耐えがたい損害を与え、実効性ある抑止たりうる攻撃型空母、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機の「攻撃型兵器」を自衛隊は保持せず、あくまで法理論として位置づけられていた。

しかし、近年の北朝鮮のミサイル技術の高度化、中国の軍事力拡大を背景に安倍晋三政権は集団的自衛権行使の容認とともに、敵基地攻撃能力の保有を現実的課題として視野に入れる。政権下の小野寺五典防衛相(現・自民党安全保障調査会会長)は筆者へのインタビューの中で「北朝鮮のミサイル対応が十分なのか、今のBMD(弾道ミサイル防衛)システムの中で十分機能するのか、策源地攻撃能力についても、どのように対応できるのかの議論は必要だと思う」と述べている。

発言はかなり慎重で、「敵基地攻撃」という言葉も先制攻撃の印象を与えかねないと判断したのか、敢えて「策源地(敵の出撃地)攻撃」という言葉を選んでいた。

◆受動的ミサイル防衛では対応不可能

ここにきて、政府が前のめりになっているのは周辺国が開発を進める極超音速滑空兵器や変則的な軌道で飛ぶ弾道ミサイルの脅威には現在の受動的なミサイル防衛では対応が難しくなっていることや、イージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)配備計画の撤廃があるのは明らかだろう。

首相が所信表明演説という形で敵基地攻撃に言及したのは歴代初めてで、岸田政権は年内に予定される「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」の改定に同攻撃の保有を盛り込みたい意向だ。

保有するということは装備の拡充を意味し、ミサイル発射の兆候を宇宙から監視する早期警戒衛星や、防空網をかいくぐるステルス戦闘機、攻撃時に航空優勢を確保する戦力が必要で、日本単独での保有には限界があるとみられている。

◆変容する日米同盟

ただ政権には戦力うんぬんの前にぶ厚い壁がいくつも立ちはだかる。戦後わが国が防衛の基本政策として貫いてきた専守防衛の理念、すなわち「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使する」といった原則や2014年に閣議決定された武力行使の新3要件である「必要最小限の実力行使にとどまるべき」といったしばりを大きく逸脱するのではないかとの議論とどう整合性を取るか。野党の反発に加え、与党公明党も当該議論には極めて神経質であること。さらに日本は防御にとどめ、攻撃は米国に任せるといった日米同盟の「盾と矛」の関係に終止符を打つことで周辺国との軍事バランスに変容をきたし、新たな軍拡競争を招きかねないこと。そして何より、敵基地攻撃を可能にするためにこれまでとはレベルが異なる防衛費の負担を強いられる国民の理解と納得が得られるのかといった点だ。

他方、仮に北朝鮮が現在の技術を基に同時多発的にミサイルを発射したら、それらを100%迎撃するのは今の日本の防衛システムでは無理というのは誰の目にも明らかで、悠長な議論は周辺国の思う壺となりかねない。

かつて自衛隊幹部は「座して死を待つか、敵基地を攻撃するか、二つに一つです」と語っていたが、その論は極端としても、2022年の国会論議は戦後の防衛政策の根幹に関わり、国の方向性を定める大きな試金石になるとみられる。

筆者プロフィール 小山哲哉 「アジアの窓」編集委員、 元時事通信社ジュネーブ特派員、元「朝雲」編集長

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