不動産市場の減速で強まる地方政府の債務圧力

吉田陽介    2022年1月25日(火) 9時50分

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「土地の売れ残り」は柳州市に限ったことではない。ここ数年、こうした現象は各地で見られるようになった。写真は柳州市。

■土地の売れ残りで振るわない不動産市場

「土地流拍」という言葉をご存知だろうか。国の関係部門が土地の競売を行ったとき、買い手の競争価格が低いか、買い手がつかないため、土地が売れ残る現象だ。

1月3日に中国の「知乎」に掲載された記事によると、柳州市では2021年6月に定例の土地競売が行われたが、応札者はわずかで、5件のうち落札されたのは1件だったという。

「土地の売れ残り」は柳州市に限ったことではない。ここ数年、こうした現象は各地で見られるようになった。2007年以前は、値上がりが激しい土地「地王」という言葉がよく見られたが、その後の不動産市場は減速傾向になっていく。近年は政府の不動産規制が強まったこともあり、不動産市場が不振となり、住宅地需要を減少させている。

■土地収入が見込めない中国の地方政府

不動産市場の不振は、収入の多くを土地使用権の売却によってまかなっている地方政府にとって好ましいことではない。地方政府は「地方政府融資平台」という半官半民の事業体をつくって資金調達している。

その事業体発行の債券の所有者にとっても、不動産市場の不振は懸念材料だ。というのは、その債券は通常、所在都市の土地売却収入で償還されるからだ。

柳州市の土地が売れ残った後、格付け会社は、地元政府がそれらの債務を返済するのが困難になることを懸念して、市の2つの「融資平台」の格付けを引き下げた。

2021年10月16日付の『経済観察報』によると、地方政府の予算にとって土地譲渡収入の役割は3つある。1つ目の役割は、都市開発を支える資金を提供すること、2つ目の役割は、地方特別債の利息の支払いに充てること、3つ目の役割は、バランスを保つために、予算に組み入れることだ。そのため、地方政府にとって土地財政の重要度は高い。

「地方政府融資平台」は中国の地方政府の資金調達の「発明」の一つとなっている。1990年代半ば、中央政府は地方政府による大量の起債を防ぐために予算法規を施行した。地方政府はその対策として「融資平台」をつくった。「地方政府融資平台」は橋や住宅、道路などのインフラ建設に融資し、中国の経済成長の推進役となっている。

大きな負債を抱える「地方政府融資平台」の債券価値が落ちることは必然的なことだ。例えば、ゴールドマン・サックスは、約53兆元(中国のGDPの52%に相当)のオンショア・オフショア債務を積み上げている。これらの借入金は公共部門のバランスシートに含まれていないが、地方政府には返済責任がある。現在、こうしたコントロール不能の債務は、金融システム全体の安定性を脅かしている。

■なお困難を伴う地方政府の債務削減

中国政府は状況に応じて財政赤字を増やす可能性を示しているが、ゆきすぎた緩和策は取らず、赤字や債務を適度な範囲内に収めるよう努め、眠っている既存資金を活性化する方針を堅持している。また、政府部門に対しても、経費削減に努め、メンツを保つだけで実をともなわない「印象プロジェクト」を行うことなども戒め、「身を切る」改革が課せられている。

中国政府はシャドーバンキングシステムの改革に努めてきたが、遅れており、未返済の「影の融資」はまだ膨大なレベルにある。また、現在は各省の市政府が債券市場を通じて資金調達できるようになっているが、2020年末時点の「地方政府融資平台」の債務は依然として中央・地方政府の未償還債券の合計を上回っていた。

前出の『経済観察報』の記事によると、債務率は地方政府の債務をはかる上で重要な指標で、年末の政府債務の残額を政府の総合財政力で割った数字である。債務率が高ければ、土地譲渡収入で下げていたが、不動産市場が振るわなければそれも難しくなる。

さらに、多くの「地方政府融資平台」は、建設された橋や道路などへの投資から得られる収益はわずかだ。そのため、地方政府の債務問題は重要な問題になっている。

■「デフォルトを回避せよ」市場の安定に躍起の地方政府

ただ、地方政府融資平台債のデフォルトは今のところ起きていない。だが、事態は楽観視できない。「知乎」掲載記事によると、野村証券の推計では、「地方政府融資平台」は2021年に269億ドルの海外発行債券を返済しなければならないが、2022年には322億ドルに上昇する。そのなかの多くのプラットフォームは、満期を迎えた他の債務を返済するために短期債を発行している。

例えば、10月に格付け会社S&Pから格下げされた広西チワン族自治区柳州市の東城投資開発集団には257億元の期限が迫った債務がある。「地方政府融資平台」が発行する債券の平均60%は、成長を後押しする新規プロジェクト向けの資金調達ではなく、2020年と2021年の満期を迎える債務の返済に充てられている。

こうした状況を前にして、地方政府は何もしていないわけではない。「地方政府融資平台」発の金融危機が起こらないよう用心している。

前出の柳州市は、8月に別の格付け会社フィッチ・レーティングスから格下げされた東通投資発展有限公司は約200億元の公的資金を調達して資本不足を補っている。

広西チワン族自治区の「地方政府融資平台」の子会社が破産を宣告した。江蘇省と雲南省の政府は意見を発表し、弁済能力を失った「地方政府融資平台」はより多くの債務の下に隠れるのではなく、法律に則って破産を実施するよう求めた。

だが、このような改革は容易なことではない。金融は公共性があり、破産を誘発すれば、市場が混乱する。

債務を抱える「地方政府融資平台」を政府が助けているため、デフォルトが起きていないのであって、政府が見限ったというシグナルが発せられると、金融市場の安定が損なわれる。

銀保監会の「15号文(銀行に対し、多額の債務を抱えた地方政府融資プラットフォームへの融資を打ち切るよう通達する文書)」に対しても慎重に扱われ、実行に移されていない。

現在、中国経済は公共投資依存、不動産投資依存による成長から抜け出して、イノベーションへの投資、個人消費の拡大などを成長の原動力にする構造に転換する過渡期にある。

ここで述べたケースは、従来の経済構造がもたらした問題であり、処理は一定の成長率を保った上で行う必要があるので、まだ時間がかかるだろう。ただ、債務を一定の範囲におさめるという方向性は間違っていないため、いずれ達成されるだろう。

■筆者プロフィール:吉田陽介 1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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