中国の政治経済の変容をどう見るか(3)強硬な外交姿勢

松野豊    2022年1月21日(金) 20時20分

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本稿では、最近の中国の強硬な外交姿勢について触れたい。写真は天安門。

近年の中国の政治経済的変容について、前稿までは、中国政府が創造性の高い民間ITサービス業界に介入したり、成長意欲の高い教育や娯楽産業への統制を進めていることへの懸念などを述べた。本稿では、最近の中国の強硬な外交姿勢について触れたい。

中国の強硬な外交姿勢は、「戦狼外交」と呼ばれている。「戦狼」という言葉は、中国で2015年に封切られた映画のタイトルで、勇敢な人民解放軍兵士がヒーローとなる物語だ。中国では人気が高く、多くの観客を動員したという。

2020年12月、ドイツのデイリー・ミラー紙は、中国政府や外交官による恫喝的な外交を揶揄してこれを「戦狼外交」と名づけた。そしてそれ以降、特に西側諸国のメディアを中心にこの言葉が頻繁に使われ始めた。

これに対し中国の外交部(外務省)の報道官は、これまでに何度か反論を試みているが、それは例えば以下のようなものである。

「中国の“戦狼”外交は、中国の主権と安全、発展の利益や正当な合法的権益を守るためのものであり、中国はイデオロギー、社会制度、文化や人種に至るまで、西洋の国とは大きな違いがある大国である」

「中国の外交の強硬さは国力の現れでもあり、中国が覇権勢力に屈服しないのは、欧米先進国がアジア諸国に隷属を強いようとすることを打ち破るためなのだ」

客観的に見ても、中国のこのような攻撃的かつ感情的な反論には論理性が感じられない。しかし驚くべきことに、中国政府のこうした対応にはかなりの割合の国民の支持があるようだ。

筆者は、こうした外交姿勢の表出には、中国の近年の大国化の過程でみられる以下のような要因が関係していると考える。

最も重要な要因は、中国人の強い発展信仰であろう。中国語の「発展」の意味は、日本語の使い方とは少し違うようだ。正式な文法上の解釈ではないかもしれないが、現在の中国人が使う「発展」は「豊かになる」こととほぼ同意語だと思う。

また中国では発展という言葉が個人の場合にも用いられる。中国語では「自己発展」という言い方をするが、これも個人が豊かになる(金持ちになる)という意味合いが強い。

そして中国人は、国や個人が発展することで国際的な発言権が増し、また諸外国への影響力拡大をもたらすと固く信じている。これを「強国信仰」と表現してもよいだろう。また国や個人が“発展”することは、選挙制度のない中国においては、国民が政権を支持し続けるための重要な要素であることも確かだ。

中国の発展至上主義は、中国が近代に列強から侵略されて貧困を強いられたことに対する被害者意識の裏返しであるといった説明がなされることもある。しかし大国となって一定の発言権も獲得し、世界の多様な価値観とも交流するようになった今でも、中国が発展信仰を軌道修正しようとする気配はない。

中国政府の報道官はまた、「中国の正当な発展の権利を意図的に阻害することには、断固反対する」といった説明もよくする。中国人の発展信仰は、我々が想像している以上に強く根づいており、妥協する余地がないようだ。

第2の要因は、中国社会が大きく変容してきていることである。中国が経済・軍事大国化に伴い過去とは違う主張を持つようになってきていることは、世界各国の共通認識だろう。いわゆるトウ小平氏が唱えた「韜光養晦」思想からの転換である。

しかしもっと重要な視点は、中国が変容しているだけでなく、その方向が「不可逆的」であるということだ。今日のような厳しい外交的試練や経済成長継続の弊害に直面し、政府は一定の政策的対応を講じていて効果もあがっているが、それでも発展指向や強国信仰を状況に応じて軌道修正しようとする姿勢は見られない。

容易に方向転換ができない理由の一つとしてあげられるのは、中国では政権交代という制度がないということである。まずは政権の持続が大前提であり、これに中国人の高いプライド、それに政府が結果的に作り上げてきてしまった国民の強烈なナショナリズムなどが相まって、これらが中国の変容を不可逆的なものにしてしまっているのだろう。

では、中国のあくなき発展指向と不可逆的変容は、今後の世界経済にどのような影響をもたらすのであろうか。政治的な要因も加わることで、おそらく世界の経済圏は大きく分断されていくだろう。中国経済は巨大であり続け、当面は世界経済の大部分を牽引していくことは確かだ。しかし中国経済に頼らない経済圏も徐々に形成されていくと思われる。

世界の国々は今後、一定のブロック化された経済圏の中で経済成長を追求していかなければならなくなるだろう。我々は世界経済の分断化に直面して、また新たな資本主義モデルと市場ルール形成が必要になってきたのではないだろうか。

■筆者プロフィール:松野豊 大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。

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