Record China 2014年5月27日(火) 1時20分
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目の前に広がっていた光景はまさに異様だった。42万平方メートルの建設面積で、アジア最大といわれる北京南駅の入り口ゲートの前には、自動小銃などで武装した黒ずくめの屈強な男たち数人が乗降客を威嚇するように、横一列に並んでいた。
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目の前に広がっていた光景はまさに異様だった。42万平方メートルの建設面積で、アジア最大といわれる北京南駅の入り口ゲートの前には、自動小銃などで武装した黒ずくめの屈強な男たち数人が乗降客を威嚇するように、横一列に並んでいた。彼らの前には、やはり黒ずくめの武装警官らしい女性がいて、駅に入る人々の身分証などを点検している。彼らの背中には黒地に白く「SECURITY」の文字が見える。
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その横では、指揮官らしき中年男性が無線機でやりとりをしていた。新たな情報でも入ったらしく、それを確認するためか、しきりに無線機に向かって、がなりたてていた。左端に目を転じると、装甲車両が数台、停車していた。ここは駅ではなく、まるで戦場にいるような錯覚を覚えるほどだ。
ゲートを抜け、駅構内に入る際も手荷物のX線検査や身体検査は当然で、金属探知器を通り抜けると、再び台に乗せられて、係員が携帯センサーで入念にボディチェックをする。コインなどの小さな金属片でも感知し、アラームが鳴るほどだ。
「昆明駅のテロ以降、警戒が厳重になった」。ようやく駅構内に入ると、同行していた知人が、この理由を説明してくれた。
「昆明駅のテロ」とは3月1日夜、雲南省昆明市の昆明駅広場や乗車券売り場などで、若い男女8人が刃物で次々と通行人らを刺し、29人が死亡、143人が負傷した事件だ。中国当局は「新疆ウイグル自治区の過激派のテロ行為」と決めつけている。
このような事件が北京と中国各地の主要都市を結ぶハブ駅である北京南駅で発生すれば、習近平指導部への信頼性は丸つぶれだ。それだけに、昆明事件の発生直後、習近平国家主席が武警や警察、軍関係の幹部を集めて緊急会議を開き、北京のみならず、全国各地の重要施設などで厳重警戒に当たるよう指示したという。
折しも3日と5日にそれぞれ北京で開幕した中国人民政治協商会議(政協)と全国人民代表大会(全人代)では冒頭、委員らが犠牲者の霊を弔うために黙祷をするという異例の開会となった。
筆者は当時、たまたま北京を訪問していた。北京では北京南駅をはじめ、空港や天安門広場、人民大会堂などの重要施設など20カ所近くを武警が24時間態勢で警備しているほか、地下鉄やショッピングモール、ホテルなど市内各所を自動小銃などで完全武装した武警数人が一組になって巡回するなどの対応ぶりだ。また、筆者が訪れた天津市でも、市内各地で警備に当たる完全武装の武警部隊にたびたび遭遇した。
昆明事件からほぼ1カ月後の4月30日には新疆ウイグル自治区のウルムチ駅で爆弾が破裂し、3人が死亡し、79人が負傷するという惨劇が起きた。さらに、その6日後の5月6日には広東省の広州駅でも男が刃物で乗客らに切りつけ6人が負傷する事件が発生した。
それから、ほぼ2週間後の22日、再びウルムチの朝市で爆弾テロが発生し、死者39人、負傷者91人という惨劇が繰り返された。
中国英字紙チャイナ・デーリーはこれらの事件について、「驚くべき類似性があり、中国全土に衝撃を与えた」と伝えた。「2度あることは3度ある。3度あることは4度ある」ではないが、今後も中国各地の主要駅や主要施設で同様のテロ事件が繰り返される可能性は否定できない。
このため、中国の警察トップ、郭声●(王へんに昆)・公安相は6日夜には湖南省長沙に飛び、長沙駅を視察した。22日の事件では急きょ、ウルムチに飛んだ。同省次官で北京市公安局長を兼務する傅政華氏も北京市内の各駅を巡回。やはり同省次官の劉彦平氏は上海に赴き、上海駅や近隣の江蘇省蘇州駅などを回り、厳重警備を指示した。
中国各地では駅構内やショッピングモールなどで、「通り魔だ」と一声叫ぶと、数百人の群衆が一斉に悲鳴を上げ、われ先に逃げ出すなどのパニック状態に陥る現象が多発しているという。
中国が「第2の中東」と化すのかどうかは即断できないが、「中国はテロに怯えている。それだけでも実行犯の目的は達したのではないか」というのが筆者の偽らざる実感だ。
◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。
著書に「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。
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