<与野党の総選挙公約>バラマキ排し、「成長」と「分配」のバランスを―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年10月17日(日) 6時10分

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衆院が解散され、31日の総選挙投開票に向け与野党の舌戦が展開されている。膨大な財政赤字の中で成長と分配をいかにバランスさせるかが問われる。衆院選の論戦での十分な議論を期待したい。

衆院が解散され、31日の総選挙投開票に向け与野党の舌戦が展開されている。各党も独自の公約を掲げるが共通するのは「手厚い分配」である。手厚く分配しても、明確な成長戦略が描けなければ、将来を見通せず、家計も企業も大胆な投資はできない。貯金や企業の内部留保としてたまるだけという悪循環に陥ってしまう。新たな戦略でどう成長を実現するのか問いたい。

与野党は経済政策で競うように「分配」を掲げ、国全体で稼いだ富をもっと中間層や低所得者に配るべきだと主張する。その前提となる国の富をどう増やすかが大問題だが、どの党も明確に示していない。高成長の時代と同じ発想で分配すれば、成長せずに借金が膨らむだけである。

与野党とも財源や規制改革への踏み込み不足も否めない。岸田政権は大型財政支出による景気浮揚を目指す。大半の野党も家計や中小企業への大型給付を公約に掲げる。

しかし、安易なばらまきで規模を膨らませるのは厳に慎まなければならない。財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文芸春秋」(11月号)で、衆院選などに絡む政策論争を「ばらまき合戦のようだ」と批判したが、勇気ある「正論」だと思う。

財政破綻の懸念を訴えるこの記事について、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は「あそこに書かれていることは100%賛成です。“この国は財政規律を守らない国だし、必死で取り組もうという意欲が無い”と(海外から)思われたときには手遅れになる」と語ったという。

筆者は経団連のほか経済同友会にも長年関係した経緯がある。同友会は財界団体の中でも「進取の気性」に富み、大胆な提言や見解を提示する伝統がある。櫻田代表幹事は「どの政党も、ここまで膨らんだ財政赤字を将来どのような形で回収しようとしているのか触れていない」「財政悪化で円が売られ、金利が暴騰し、あっという間に経済が破綻する。そうしたことが起きてから考えよう、では無責任だ」とも語っている。財源に触れず後世に巨額借金のつけを回す政治状況に警告を発したのだろう。経済同友会は、各政党に対して衆院選で、財源をどこから持ってくるのかを含めた「財政健全化に対する考え」を明確にすることを求めている。

国際通貨基金(IMF)の統計によれば、1997年に100%を超えた日本の一般政府債務の国内総生産(GDP)比は2020年で254%に達するという。経済成長を実現できないまま、バラマキを続けた結果だろう。

岸田首相はデジタル、グリーン、人工知能(AI)、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆に投資し「民間企業を全力で応援する税制を実現していく」と述べている。この方針は経済界として大賛成である。岸田首相は、矢野財務次官が執筆した月刊誌記事に対し「いったん方向が決まったら関係者はしっかりと協力してもらわなければならない」と早速クギを刺したとされる。膨大な財政赤字の中で成長と分配をいかにバランスさせるかが問われる。衆院選の論戦での十分な議論を期待したい。

<直言篇177>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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