日本人が中国で運転免許を取得して一番思うこと

大串 富史    2021年8月30日(月) 20時50分

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中国の交通標識は日本と違い過ぎる。たとえば「譲」と書かれた標識(非優先通行)や何も書かれていない標識(禁止通行)、ETCと書いてあるのに実はETCがありませんという標識がある。

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このコロナ禍が一体いつ終わるのかと中国で待っているうちに、ついに期限が来てしまった。日本の自動車運転免許証の更新期限である。

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誕生日を挟んで2カ月のうちにとあるから、ほぼ確実に詰んでいる。もし無理やり日本に帰ったら、隔離のためのホテル代なども含め一体いくらかかるのか。いやそれ以前に、第5波が直撃中の日本にわざわざ帰って、なんとか変異体をすり抜け、また中国の家族のもとに帰るなどという芸当が、はたして可能なのか。

だが実のところ、逃れ道がコロナ禍が始まる前に既に設けられていた。前コラムでも書いたが、「こういう場合に一番手っ取り早いのは、現地でペーパーテストと引き換えに外国免許を取得し、帰国後にこの外国免許で日本の免許を取り直すという手法」である。

それでさっそく準備に取りかかって、突然気が付いた。中国での居留許可が3カ月以上なければ、申請そのものができない。つまり3カ月以上のビザなどがなければ、この手法は使えないのである。それで自分の居留許可の期限を再度見直したところ、なんと3カ月の期限まで既に1週間を切っているではないか。

もはや猶予はないので、「草の根電気自動車」の屋根(ルーフ)付き電動四輪バイクを駆って、まずは地元の車管所、交警支隊車両管理所(日本の運転免許センターと運輸支局を合わせたような警察の機関)へ行く。

前のコラムにご反響いただいたような、あなたは「情報弱者」ですか?とのコメントには、この場合も素直に「はいそうなんです…」と答えるしかない。もう8年も前の話ではあるが、北京にいた時でさえ、中国人の配偶者としての居留許可を得るために警察の該当する部門の窓口まで行って詳細を確認する必要があった。

というのも、中国のネット上の情報は古かったり十分でなかったり分散していたりで、こと外国人には全然優しくない。(中国人の妻の助けを得た上での)電話でのやり取りでさえ、電話に出た相手によって言うことが微妙に違う。まして現地日本人がほぼ一人状態の中国の片田舎では、窓口に足を運ぶのが結局一番早くかつ確実である。

すると、ファイルしてある1枚の手書きの手順書を見せてもらえた。さっき電話した時これを読んでくれればいいのに…と思いつつも「ありがとうございます」と写メして帰り、外籍換証(外国の免許証をもとに中国の運転免許証を発行)ができる100キロ以上先にあるワンランク上の車管所に行く計画を早速立てる。

#ここから先は「中国で運転免許を取得しました。日本人が中国で運転免許を取得する方法 | 小龍茶館」という個人ブログ記事と合わせてお読みいただけると分かりやすかろうと思う。本コラムでは現時点での最新情報および補完補足情報をお知らせしたい。

100キロ以上先の車管所に行くというシチュエーションの中国在住の日本人は多くなかろうとは思うが、そういう日本人の方のために補足情報を述べるなら、この時点でコロナ明けに何らかの手続ができないかどうか考え直すこともまた可能である。それは一体どういうことか。

僕は山東省に住んでいるのだが、ここのローカルルールにしたがって車管所指定の翻訳会社に行きなさいと言われてしまった。パスポートと運転免許証はどちらも日本語なので、中国語に翻訳して提出する必要がある。合計160元(日本円で約2500円)。

この中国語訳の書類とパスポートの原本と2寸(3.3ミリ×4.8ミリ)の写真2枚を持って車管所に行くと、健康診断(視力検査)を経て機動車駕駛証業務受理凭証が渡される。合計130元(健康診断40元+発行手数料90元、日本円で約2000円)。

その当日にそのままペーパーテストというのはさすがに無理で、筆記試験のため再度100キロ以上を往復することになる(つまり手続と試験の最低2回)。中国の交通の便は片田舎に行けば行くほど幾何級数的に悪くなるのだが、幸いこの度は友人が送迎してくれることになった。市価のタクシー代より少し安いものの、送迎費として合計470元(日本円で約7000円)。

後述するが、僕は試験対策をすべて終えないまま試験を受けたので、最初の試験に落ちてしまった(100点満点90点以上合格で1日2回受けられるものの、最初の試験は76点と89点)。それで再試験のためもう一度往復し(合計3回)、送迎の友人には毎回食事をごちそうした。追加テストも当然ながら無料ではなく、追加試験料(80元)を領収書の郵送料と一緒に払う。これが合計約300元(日本円で約5000円)

それで今回は全部で1060元(日本円で約1万6500円)支払った。最新の山東省の平均月収は月6000元に満たないから、僕のように現地の中国の人々と同じレベルの生活をしている日本人にとっては少なくない支出であった。

では日本人が中国で運転免許を取得して、一番思うこととは何か。

コロナが収束し日本にいさえすれば、こんな手間暇もお金もいらなかったのに…というのが一つだが、これは一番思うことではない。

それ以上に思うのは、中国の交通ルールや標識や罰則は日本と違い過ぎる。

たとえば「雨天で運転中に、レインコートを着て傘をさした通行人が公道上を歩いている時、どうすべきか?」という問題の答えは「事前にクラクションを鳴らしつつスピードを落とす」とか、「車を運転して追い越しをする時は事前にウインカーを出し、(夜であれば)パッシングをし(昼間であれば)クラクションを鳴らす」とか、日本でやったら大変なことになりそうなルールがあったりする。

交通標識も、「譲」と書かれた日本にはない標識(非優先通行)や、何も書かれていない標識(禁止通行、つまり車も人も通れない)、ETCと書いてあるのに実はETCがありませんという標識があったりする。

そして極めつけは罰則である。「駕校一点通」と題する筆記試験のオフィシャルサイトで事前に勉強するのだが(ここと全く同じ問題が出題される)、14項目中の最後の最後に「駕照使用須知」と「事故处理」という2つの項目があり、ここで罰則などをきちんと勉強していないとまず受からない。って、最初の試験の前にこのことをちゃんと知ってさえいれば…としきりに思うものの、これもまた一番思うことではない。

折しも再試験の時は近隣市でデルタ株感染者が出たということで、最初の試験の時と緊張感が全然違っていた。

幸い2回の接種を終えていた僕は問題なかったが、1回目の接種を終えたものの「WeChatアプリである電子健康通行カードアプリ(または「健康コード」アプリ)」にワクチンを打った記録がまだ反映されていない人がいて、受験を突っぱねられている現場に出くわしてしまった。

デルタ株に現行の中国ワクチンがどの程度奏功するのかはさておき、このぐらいの緊張感と上からの強制と下々の盲従がもし日本にあれば、あるいは日本で免許の更新ができたのにとも思う。だがこれもやはり、一番思うことではない。

僕が一番思ったのは、中国の人々というのはやっぱり、純朴で開けっぴろげで素直なんだなあ、ということであった。

列に並んで試験の順番を待っている間、それこそ初めて本物に出くわしたよーみたいな「驚愕」と「好奇」のまなざしで「あんた日本人?」と警察の人から中国の方言(普通話ではない)で聞かれると、「日本の方ですか?私は大学で日本語を勉強しています」と、前の方に並んでいた一人の女の子がさっと来て、手が若干震え気味ながらも流ちょうな日本語で話しかけてくる。周りの中国人も皆、顔こそ向けないが耳をそばだて中なのが伝わってくる。えっとね、「日本人って…」というあなたたち隣の女の子同士の中国語のひそひそ話だって、こっちにはちゃんと聞こえてるんだって!

最初の試験の1回目に失敗し2回目の列に並ぼうとすると、満面の笑みを浮かべた若い男の子から「あんたも駄目だったんか?何点だった?」と聞かれ、いやー76点でしたと満面の笑みで返す。2回目が89点で1点足りないということを知った女性の警察官や他の係の人たちが、やはり方言でこれからすべきことを丁寧に教えてくれる。しまいには送迎をしてくれている中国人の友人までが、外国人が1回で受からないのは当たり前なんだと励ましてくれた上、気を許してのことなのか(詳しくは書かないが)恐らくはこれまで誰にも言わなかったであろう「自論」を帰りの道中で明かしてくれた。

僕は12年ほど中国にいるので証言できるが、中国人というのは上述のような点だけ見ても確かに日本人とは違う。思うに交通ルールや標識や罰則が日本と違うのも、相応の理由があってのことなのだ。たとえばここ中国でクラクションを鳴らしたぐらいでは大変なことに全然ならないし、ほとんどの人が迷惑行為だと感じない。

いや、ちょっと待て。新規取得免許の有効期限が6年間ってことは、僕らのハーフの娘の小学校卒業を機に日本に引き上げた、その翌年に更新ではないか。日本に引き上げてから、この中国の自動車運転免許証の更新を一体どうしたらいいのか。日中を行き来し生活する日本人にとって、今後も思うところは尽きそうもない。

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

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