事実を確かめずにウイグル会議情報を流布―現地11回調査の大西慶大教授が西側キャンペーンに反論

Record China    2021年8月16日(月) 12時20分

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大西広・慶大教授が「『ウイグル問題』に関する西側キャンペーンを検証する」と題して講演。欧米の政治的な伝聞情報をそのまま流布する西側キャンペーンを批判、現地調査に基づく事実を挙げて反論した。

国際アジア共同体学会(会長=進藤栄一・筑波大名誉教授)が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、日中の有識者約100人が出席した。第一部の「米中新冷戦の展開、一帯一路構想と東アジア政治経済秩序の新動向」に続く第二部は「新疆ウイグル問題と台湾問題をどう解いていくか」がテーマ。まず新疆ウイグル自治区の問題に詳しい大西広・慶應義塾大学経済学部教授が「『ウイグル問題』に関する西側キャンペーンを検証する」と題して講演した。

同教授は「事実を確かめずにウイグル会議情報が垂れ流されている昨今の学界状況に大きな危機感を感じている」と強調。欧米の政治的な伝聞情報をそのまま流布する日本のメディアや学会を含む西側キャンペーンを批判、実証調査に基づく事実を挙げて具体的に反論した。

大西広慶応大教授の講演要旨は次の通り。

私は我々の求める「アジア共同体」が諸国家の共同体であるだけでなく、諸民族の共同体でなければならないと主張し続けてきた。そして、経済学者として中国の民族研究に関わってきたが、中でも重点を置いてきたのはウイグル自治区の問題である。ウイグル訪問調査は11回に及び、2012年にはウイグル族の弟子とともに京都大学学術出版会から『中国の少数民族問題と経済格差』という研究書も出版している。

その意味で、事実を確かめずにウイグル会議情報が垂れ流されている昨今の学界状況に大きな危機感を感じている。西側キャンペーンには以下のように事実に基づく反論ができる。

◆ウイグル会議情報は信頼できない

たとえば、2008年4月に『日本経済新聞』など日本メディアが報道したホータンでの「2日間に亘る1000人近い住民の抗議デモ」なるウイグル会議情報の真偽である。この小さな新聞記事の真偽を確かめるべく現地まで行く研究者はいないが、私自身は専門家として現地に飛び、現地のウイグル族から「事実は3名のデモ。一瞬で終わった」ということを確かめた。現場は土日に多数のウイグル族女性が作った絨毯を持ち寄って販売する交易所であり、そこに多数が集まったのは事実である。が、「独立」と書いたプラカードを掲げたのは3名、かつすぐ隣の警察署にすぐ取り押さえられたということであった。

また、私は、新疆大学学生の夏休み期間における綿花摘み労働に関わる事前調査もしたことがある。そして、実際、その場の労働条件は極めて劣悪なものであり、誰もが希望して行くようなものではなかった。が、(1)これは十数年も前の話であり、(2)大学は責任をもって事前調査をしており、(3)このケースでは派遣を断っている。また、(4)現在の新疆では綿花摘みの7~8割は機械化されるに至っている。つまり、こうした「強制労働」が存在したのは相当前のことであったということとなる。

◆集団就職は住民に歓迎されている

もうひとつ、ウイグル会議が主張する集団就職の強制性についてもカシュガル付近のコナシェヘル県で調査を行なっている。その県から集団就職した広東省韶関市の玩具工場で大規模民族衝突が起き、それが2009年7月のウルムチ暴動の直接の契機となったからである。中国はこの衝突から教訓を学び、労働力を内地に「派遣」するのでなく、工場自体をなるべく新疆に持ってくるよう指導するようになった。が、集団就職をゼロにするわけにはいかないので、各地の送り出し機関・政府は派遣先の労働条件を詳細に調べるようになっている。

たとえば、イスラム用食堂や浴室、エアコンなどの設備の有無、食料補助金の有無、ウイグル人シェフを同行しているかどうか、外傷保険、医療保険、労災補償などの有無、試用期間や操業停止時の賃金を含む各種労働条件のチェック、8時間労働規定や週休規定の有無、工場までの旅費や親族訪問旅費を企業側負担しているかどうか、などである。ウイグル会議は集団就職自体を辞めろと主張しているが、それで所得が下がり不利益を受けるのはウイグル族の側である。そして、実際、この送り出し県の人々が基本は喜んで派遣されていることを私のウイグル族の弟子が親族訪問の際に確認している。この際、私も同行したが、外国人に対して正直に答えられる保証はない。そのため、ウイグル族が自身の親族に聞くという形でヒアリングを行った。その回答は信頼できる。

◆行政の末端にはありうる官僚主義

ただし、以上のように言っても、新疆に何の民族矛盾もないわけではない。たとえば、「脱貧」を課題として設定された地方幹部が何が何でも目標を達成しようと、希望しない住民をも派遣していた可能性である。この可能性は、上述の民族衝突の後、政府が指示した内容に「地方幹部は自身の親族を優先して派遣すべし」との内容があることによって示唆されている。要するに昇進目的で地方幹部が一部で強制を行なうインセンティブが中国的官僚制にありうるという問題である。

中国の行政システムは脱貧、コロナの克服、環境保護など国家目標をやり遂げるシステムとして基本的には素晴らしい成果を収めている。が、コロナ禍初期における対応のミスなど時に問題を引き起こす。簡単に言えば「官僚主義」の問題であり、毛沢東が建国初期から一貫して問題としていた問題である。

この毛沢東は、民族問題にも非常に敏感で、1953年には「大漢族主義を批判する」という文章を発表している。私は上述の私の編著の冒頭でこの文章を紹介している。この認識に基づき、中国政府と国民の民族融和の努力が重ねられることを心から期待する。ただし、もちろん、その前提には、ウイグル会議などが流すデマが糾されなければならない。これは喫緊の課題である。(主筆・八牧浩行

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