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米対中貿易制裁は効果なし、米製造業のファブレス化で=対中政治戦も不調―唱新・福井県立大教授

Record China    2021年8月15日(日) 22時0分

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唱新・福井県立大学教授が「米製造業のファブレス化と中国産業のハイテク化からみた『米中新冷戦』の行方」と題して講演。「米国の対中貿易制裁は効果がない」と指摘。対中政治戦も不調の可能性が高いと見通した。

国際アジア共同体学会が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催された。北東アジア経済に詳しい唱新・福井県立大学教授が「米製造業のファブレス化と中国産業のハイテク化からみた『米中新冷戦』の行方」と題して講演した。「アメリカの対中貿易制裁は効果がない」と指摘。その要因の一つとして、アメリカ企業のファブレス化(製造部門を持たずに開発・商品企画とマーケティングに特化して、製造を協力会社に委ねること)によるものと、と断じた。その上でバイデン氏の対中政治戦も(失敗した)歴代大統領の轍を踏みかねないと見通した。

唱新教授の講演要旨は次の通り。

◆米製造業のファブレス化と対中依存

2018年3月から実施し始めたアメリカの対中貿易制裁はすでに3年経った。中国の公開したデータでみると、中国の対米輸出は2019年には確かに4,186億ドルに前年比12.5%減少したが、2000年には7.9%増の4,518億ドルに回復し、2021年の1~5月には49.8%増の2,060億ドルに急拡大した。また、外国企業の対中直接投資についてみると、2020年には新型コロナウイルスにより世界的な直接投資が減少した中で中国の対内直接投資は4.5%増の1,443.7億ドルとなり、2021年1~5月には35.4%増の770億ドルに達した。これらのデータからみれば、アメリカの対中貿易制裁は効果がないと言っても過言ではない。その要因の一つはアメリカ企業のファブレス化によるものと考えられる。

ファブレス企業とは製造部門を持たずに開発・商品企画とマーケティングに特化して、製造を協力会社に委ねるメーカーのこと。1980年代以降のアメリカでは開発・商品企画、マーケティングこそが付加価値を生み出すという考え方の下で、ファブレス企業が増加し始め、最初は電子機器産業に集中していたが、現在では一般機械など幅広い産業にひろがって、そのファブレス企業のサプライヤーの多くは中国企業である。

アメリカの代表的なファブレス企業であるアップルを例にみると、同社の開示した2020年サプライヤー200社では、中国は51社で第1位、それに次いで、台湾は48社、日本は34社、アメリカは32社、韓国は13社の順となっている。中国勢は主にモジュール(複合部品)の製造や金属加工などスケールメリットを出しやすい分野である。

◆中国の産業発展と米中製造業の逆転

米中「新冷戦」の将来を展望するには中国の産業発展は欠かせない視点である。中国は2010年以降、産業構造の調整と新興産業の育成を推進する積極的な産業政策により、産業の技術力と成長力が急速に強まっており、ハイテク産業及び新興産業の発展は目覚ましいものである。図の通り、2018年の時点ではハイR&D集約型産業の付加価値額に関しては、中国とアメリカとは格差があるが、ミディアムR&D集約型産業の付加価値額では中国はすでにアメリカを抜いて、世界第1位となった。こうした中で、中国は特に次世代を担うNEV(新エネ車)や再生可能エネルギーなど、新興テクノロジの最前線分野でも力が強まりつつある。

 

アメリカのEV『Sales』の統計によれば、2020年1~10月に中国BYDのNEV完成車の生産台数はアメリカのテスラ(第1位)、ドイツのフォルクスワーゲン(第2位)に次いで、第3位となっている。また、車載電池の生産では、2020年に中国CATL(寧徳時代新能源)の世界シェアは26.0%で、かつて世界トップのパナソニックを抜いて、第1位となり、CATLとBYDなど中国勢の合計は34.1%となった。こうした中で、CATLはアメリカテスラ社の主要サプライヤーと採用されており、中米経済のデカップリングは短期的には難しいと見込まれている。

また、急速に拡大している太陽光パネルの生産に関しては、2018年には中国勢の世界シェアはすでに72.7%となり、欧州の2.6%、アメリカの1.3%、日本の1.2%をはるかに上回っている。太陽光パネルはアメリカ対中制裁の重点項目で、関税引上げにより、対米輸出は確かに急減してはいるが、強い技術力と顕著なコスト優位により、輸出先の多様化及び国内市場の販売拡大を通じて、強靭的な成長力を見せられている。

要するにアメリカは中国抑止、国内産業の保護などの目的で、中国産業の発展を必死に抑え込んでおり、中国では人件費の上昇により、一部の労働集約型産業は確かに東南アジアなどに移転し始めてはいる、しかし、中国自身は巨大な自国市場、豊富な資金力、教育の充実による厚みのある人材層の形成などの優位は、産業の技術力、成長力及び強靭力を強化しつつある。特に、中国では鉄鋼、機械、造船、電子機器、鉄道車両、情報通信、車載電池などのハイテク産業は急速に成長し、先進国と比べ、顕著なコスト優位を持っており、これらの産業は中国の輸出、とくに対米輸出の主要品目となっている。それゆえ、航空・宇宙産業など一部の高度なハイテク産業を除いて、中米産業競争力の逆転は現実味を帯びつつあるといえよう。

◆バイデン「対中包囲網」の限界

中国は2021年から「第14次5ヶ年計画と2035年長期目標綱要」を実施し始めた。この中長期発展計画の中で、経済発展に関しては、(1)科学技術分野では基礎研究、新興技術の研究開発、国民経済のネックとなる技術の開発を重点的に推進すること、(2)産業技術開発の分野では主にコア基盤部品、コア基礎素材、先進的な製造プロセス、産業共通基盤技術などの技術開発を重点に推進し、自主創新力の向上とハイエンド・スマート製造業の育成を通じて、全要素労働生産性(TFP)の向上に―により、経済成長のパターンを量的拡大から質と効率の向上へと転換させる。この目標が実現すると、中国は経済規模でも産業の国際競争力でもアメリカとほぼ同等の力を有する経済大国になり、その強い経済力に支えられて、軍事力も飛躍的に強まるであろう。

米中関係に目を転じると中国の経済力・軍事力の強化により、国際社会では米中二極体制の定着は明らかである。米中両国は経済的には強い相互依存関係を持っているが、地政学での対立も激しさを増している。それゆえ、これからの米中「新冷戦」は経済戦にとどまらず政治戦へと拡大し、長期化するであろうと見込まれている。

今回、「中国対抗」を鮮明にしたG7とNATOの共同声明の採択はむしろ、アメリカから中国への政治戦の宣言だととらえることができる。今後、米中間では戦争爆発の可能性が小さいが、アメリカは中国を地政学の「仮想敵」と見なし、経済戦、世論戦、ハイテク戦などを含む複合的政治戦を展開し、民主・人権などを利用して、中国に政治的な攻勢を仕掛けて、中国もその対応を迫られる。

中国にとって、経済の持続的成長、国内社会の安定、国際社会との協調は重要な課題となっているが、アメリカでは、かつてのオバマの「アジア回帰」政策、トランプの「アメリカ第一」政策のいずれも不調に漂流しており、バイデン氏も数多くの難題を抱えていることからみれば、バイデン氏の対中政治戦も歴代大統領の轍を踏みかねない。(主筆・八牧浩行

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