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米「価値観外交」は世界ブロック化招く、中国「戦狼外交」も批判=米中対立解消を―鳩山元首相

Record China    2021年8月9日(月) 19時20分

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国際アジア共同体学会が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、鳩山由紀夫元首相、孔鉉佑駐日中国大使、西原春雄元早大総長ら日中の有識者約100人が出席した。写真は鳩山元首相。

国際アジア共同体学会(会長=進藤栄一・筑波大名誉教授)が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、鳩山由紀夫元首相、孔鉉佑駐日中国大使、西原春雄元早大総長ら日中の有識者約100人が出席した。冒頭、鳩山由紀夫元首相が基調講演した。

鳩山元首相は「価値観の異なる国家同士がいかにうまく付きあっていくかを追求するのが真の外交だ」と指摘。米バイデン政権に対し(1)外交に民主主義を含めた価値観を持ち込むべきではない(2)対中戦略で同盟国やパートナー国に自己の都合を押し付けようとすべきではない(3)米国は中国に対して協調を呼び掛ける分野をもっと増やすべきだ―などと提唱した。世界の「ブロック化」が進めば消費者や企業は経済的不利益を被る」と警告した。

一方で「中国がここまでの大国になれたのは、米国が第2次世界大戦以降に作り上げた世界システムの恩恵によるところが大きい」、「中国は米国の不安とフラストレーションを理解していない」と強調。中国の威圧的な「戦狼外交」は国際社会で中国のソフトパワーを大きく損なったと批判した。

その上で、「米中がゼロサム思考で剥き出しの競争を繰り広げれば、世界、特に東アジアの平和と繁栄は必ず損なわれる。米中対立が激化するのを傍観することはできない」と懸念。米中は「失われた相互信頼を回復させ、協調の実績を一つずつ積み上げてほしい」と呼び掛けた。

<鳩山元首相の講演要旨は次の通り>

米中対立の根本的な原因が所謂「トゥキディデスの罠」(旧来の覇権国家と新興の2番手国家が衝突すること)にある以上、米国の政権交代によって米中関係に劇的な変化が見られなくても驚くべきではない。しかし、米中対立が必然であるとしても、米中対立が激化するのを傍観することはできない。米中という二つの大国がゼロサム思考で剥き出しの競争を繰り広げれば、世界、特に東アジアの平和と繁栄は必ず損なわれる。

◆民主主義外交の罠を避けよ

米バイデン政権に対して3点を要望したい。

第一は、外交に民主主義を含めた価値観を持ち込みすぎるべきではない。私はバイデン大統領が米国の民主主義を再建することを心から願っているし、協力したいと考えている。

バイデン政権が「自由社会は腐敗、不平等、二極化、ポピュリズム、法の支配に対する非自由主義的な脅威によって内側から挑戦を受けてきた」と述べる状況は、多かれ少なかれ日本にも当てはまっている。

米国の事態は対岸の火事ではない。バイデン政権は〈国内における民主主義の再建〉と〈地球規模で見られる民主主義と権威主義の戦い〉を意図的に結び付けることに対し、細心の注意を払うべきである。今日、米国のみならず世界の外交担当者にとって最大の関心事は「米中関係をいかに制御するか」である。だが、民主主義や人権を含め、価値観に忠実であろうとすれば、その価値観を奉じない者を異端視し、排除することになりやすい。相手も同じ対応を取るであろう。米国が価値観外交を強調すればするほど、米中対立は尖鋭化する。

民主主義や人権などの価値観を強調しすぎれば、中国やロシア以外の非民主主義国家群をも米国から遠ざける可能性がある。米国『国家安全保障戦略暫定指針』は世界を「我々が直面するすべての挑戦に対処するうえで専制主義が最も有効だと考える国々」と「変化しつつある世界ですべての挑戦に立ち向かうには民主主義が不可欠であると理解する国々」とに二分してみせた。しかしスウェーデンの研究グループによれば、2019年時点で〈完全な独裁主義国家〉と〈選挙を通じた独裁主義国家〉の合計は92ヵ国であった。世界の51%を占め、人口比では54%に達する。これらの国々が中国やロシアとの繋がりを強めれば、バイデン政権が意図する外交目的の達成はむずかしくなるだろう。3月に中国とイランは経済・安全保障分野で25年間にわたる包括的戦略パートナーシップ協定を締結した。

価値観の異なる国家同士がいかにうまく付きあっていくかを追求するのが真の外交である。米国政府は、米中の平和共存が競争の大前提であり、米国政府の唯一にして対等なカウンターパートは中国共産党であるというメッセージを中国に送るべきだ。米国政府は伝統的な解釈に基づいた「一つの中国」政策を堅持することを表明すべきである。21年4月16日の日米首脳共同声明は1969年以来はじめて「台湾」に言及した。「台湾」という言葉が文書に現れたという事実自体が北京政府に非生産的なメッセージを送っていることを懸念する。

◆同盟国のジレンマをもっと理解せよ

第二に、バイデン政権は対中戦略で同盟国やパートナー国に自己の都合を押し付けようとすべきではない。日米関係に関する限り、トランプ政権の後半において既に、米国政府は中国と対抗するために同盟国やパートナー国との協力を模索し始めていた。バイデン政権下で米国政府は同盟国と対中共同戦線を構築することに熱心となるだろう。

米国の同盟国が強大化した中国との間で少なからぬ問題を抱えていることは事実である。

米国と共に行動することで中国に対する発言力を強化することは、同盟国にとって基本的にはメリットが大きい。だが、同盟国やパートナー国は「米国か中国のどちらかを選び、他方を捨てる」という選択は、国家を存立させるうえで取れないこともまた、現実である。米ソ冷戦の時とはわけが違う。

例えば、日本の場合、1985年に対米貿易が貿易総額に占める割合は29.8%だった一方で、対ソ連・中東欧貿易は全体のわずか1.6%だった。2020年には、日本の対米貿易は貿易総額の14.7%を占め、対中貿易(香港を含む)は貿易総額の26.55%に達した。コロナ禍が表面化する前の19年に日本を訪れた中国人(香港を含む)は1,189万人だったのに対して、米国からは172万人だった。

安全保障分野においても、事態は決して単純ではない。日本では「在日米軍は尖閣有事を含め、日本防衛のために駐留している」と信じている人が多い。実際には、米中が軍事衝突する可能性が最も高いのは台湾有事に関連したケースである。ほとんどの日本人は、台湾独立のために在日米軍基地が使われたり、日本が中国と戦ったりすることに反対である。近年、米国政府からは台湾が独立の方向に向かうのを奨励するかのごとき言動が窺われる。同じ民主主義国だからと言っても、日本はこのような動きには乗れない。

昨年、東アジア・西太平洋の15カ国は地域的包括経済連携(RCEP)協定に署名し、EUと中国は包括的投資協定の締結に基本合意した。こうした動きについて、関係国が「中国を選び、米国を捨てる」兆候と解釈することは米中双方にとって決定的な誤りだ。しかし紛れもなく、関係国が「中国と共存共栄したい」と考えている証左である。米中対立の狭間で複雑な利害関係の調整に悩む同盟国・パートナー国の声に米中両国が耳を傾ければ、米中対立の制御にもプラスに作用するであろう。

◆中国に対して「再関与」政策を行え

第三に、米国は中国に対して協調を呼び掛ける分野をもっと増やすべきである。だが問題は今、米国政府が中国と協調できる分野を狭く限定する一方で、中国との競争をことさらに強調しようとしていることだ。協調可能な分野としては、地球温暖化やパンデミック対策などが念頭にあるのだろうが、全体の雰囲気が悪い中で特定分野だけ切り離して協力を実現することは簡単ではない。米中対立を適切に制御しようと思えば、米国政府はより広範な分野で中国に協力を呼び掛けるべきだ。

トランプ政権は歴代米政権の対中関与政策を批判。関与を口にすることは中国に弱腰であることと同一視される風潮が世界中で生まれた。確かに、過去の関与政策は期待したような変化を期待したような速度で中国にもたらさなかったかもしれない。だが、中国が国際秩序の行動様式を全く受け入れず、逆方向に向かったという主張もまた極端である。最も分かりやすいのは、気候変動問題に関する中国の姿勢の変化である。米国政府は関与政策を捨て去るのではなく、それを改良することに注力すべきだ。

バイデン政権の対中政策が「協調」あるいは「関与」を控えめに見せ、「競争」を見せびらかそうとすることには、中国に追いつかれ、追い越されることに対する米国の焦燥感の裏返しという側面もある。中国の国力が米国の国力を完全に抜き去り、今後独走状態に入るという事態は、たぶん起きない。2019年の軍事支出は米国が7186億89百万ドルであるのに対し、中国は2664億49百万ドル。2020年1月時点で保有する核弾頭数は米国の5800個に対して中国は320個だ。

さらに米国は、全世界に広がる同盟のネットワークを持っている。今後、中国では米国よりもずっと早く少子高齢化が進み、いわゆる「中所得国の罠」も働き始める。米国は人口動態や潜在的な経済成長力において中長期的に中国よりも有利な点が少なくない。中国が権威主義国家である限り、人民元が国際決済通貨として米ドルに取って代わることもなかろう。今世紀半ばに向け、米中の「力の接近」状態は長期的に続くというのが私の見立てである。米国には、中国に対して「改革された関与」政策をもう一度試し、協力の可能性をもっと探るだけの時間と余裕がある。

◆中国は大国としての責任を果たせ

米中対立を適切に制御するためには、中国も変わらなければならない。中国は過去30~40年間で驚異的な成長をとげ、世界で1位、2位を争う大国になった。だが、巨大になったことを一番理解していないのは中国自身であろう。中国がここまでの大国になれたのは、米国が第2次世界大戦以降に作り上げた世界システムの恩恵によるところが大きい。中国はそれを当たり前のことと見なし、今後もその恩恵をただで受け続けられるべきだと要求しているように見える。

中国は大きな責任を、もっと目に見える形で引き受けるべきである。最も効果的なアピールの一つは、中国が世界貿易機関(WTO)における「特別かつ異なる待遇(S&D)」を自発的に返上することだ。一人当たり国内総生産(GDP)が中国よりも低いブラジルも既にS&Dの返上を進めている。中国が決断すれば、国際社会は「中国がついに『責任ある大国』となる決意を表明した」と受け止めるに違いない。

中国と競争する際に米国が「大国となった中国と同じ条件下で競争したい」と言うのは正当な要求である。米国が中国との協調を志向する分野では、米国とのディールを優先させるよう心掛けるべきだ。米中間の失われた相互信頼を回復させ、二国間関係の基調を競争や対立から協調に転じさせるためには、両国が協調の実績を一つずつ積み上げるしかない。

「戦狼外交」も国際社会で中国のソフトパワーを大きく損なった。大国になったことを笠に着て傲慢な外交姿勢を続ければ、米国等の世論は簡単に反中国に傾斜する。その結果、米国を含む多くの国々との間で自らの立場を悪化させることになる。

◆情報通信の国際標準と監視機関をつくれ

気候変動やパンデミックのようなグローバルな課題における米中協力の可能性はさまざまに議論されている。米中両国はそのようなテーマにとどまることなく、「情報通信テクノロジーにおけるデカップリングの制御」と「東アジアにおける新しい軍拡競争(地上発射式中距離ミサイルの配備を含む)の管理」という戦略的に重要な二つの分野で相互に関与を進めるべきである。

今日、先端技術が国家間競争の死命を制するという考えはもはや常識である。情報通信分野における中国との競争において、トランプ政権が安全保障上の理由を持ち出して中国企業を市場から締め出すという新しい手法を導入したのも、同分野で米国が後れをとったという危機感に駆られたためであろう。バイデン政権もまた、米国と同様の考えを持つ民主主義国家との連携を通じて中国企業の手足を事実上縛ろうとしているように見える。しかし、この道を行くのは危うい。米国と中国は情報通信分野で共存を目指すべきだ。

米国が情報通信分野で中国の技術優位を許したくないのと同じように、中国がこの分野で米国の技術独占を認めることも絶対にない。2020年5月、習近平指導部は「双循環」という経済戦略を打ち出した。米国がデカップリングをさらに進めた場合に備え、ハイテク産業の内製化を進める構えだ。約14億人の人口を擁する中国経済は十分に大きい。アフリカや東南アジア、東欧や中南米の一部でも中国が市場をほぼ押さえている。将来的には、情報通信の分野で中国製と米国製の技術標準が並び立ち、中国企業が国内と親中国圏のサプライチェーンから部品を調達できるようにならないとも限らない。

このような「ブロック化」が現実のものになれば、消費者や企業は経済的に不利益を被る。しかも、この分野におけるブロック化は必然的に他分野にも波及するため、われわれの住む世界は大きく不安定化する。中国がデジタル分野における独自の技術標準やサプライチェーンの確立に失敗した場合でも、怒れる中国がデジタル経済以外の貿易・投資分野で報復に出れば、米国だけでなく日本を含む同盟国が被る打撃は深刻なものとなろう。私はこのようなリスクと不透明さを甘受する気になれない。

中国企業はデータ経済分野で価格面のみならず性能面でも強い競争力を持っている。それを排除し、同盟国にも同調を強いると言うのであれば、米国政府は明確な説明責任を果たさなければならない。だが、米国の説明は曖昧模糊としており、不十分と言わざるを得ない。情報通信機器にセキュリティ・ホールなど安全保障上の問題が伴うのであれば、それは特定国の製品のみに当てはまるわけではない。だとすれば、ハイテク通信機器の技術標準やサイバー・セキュリティに関して統一的な世界基準を作り、その基準を満たす限りにおいてはいかなる国の製品やサービスでもその利用を妨げない仕組みをつくる方がフェアであろう。

昨年9月、中国は「データ・セキュリティに関する世界戦略」を発表し、ハイテク経済における各国の共存共栄を訴えた。王毅外相が「国際的なデータ・セキュリティ規則について、あらゆる関係当事者の参加に基づき合意すべき」と呼び掛けたことは注目に値する。バイデン政権は民主主義国家間でのルール作りを先行させるのではなく、最先端技術に関する共通の規範や基準を作る作業に中国が初期段階から加わるよう、呼び掛けるべきだ。中国も柔軟性を最大限に発揮すべきことは言うまでもない。情報通信分野で相応の技術力と生産力を持つ日韓欧などのミドル・パワーには、国際合意の達成に向けて米中双方の背中を押すことが求められる。

◆東アジアのミサイル軍縮を追求せよ

米国と中国は東アジアの安全保障の将来に最大の責任を負っている。米中、そして日本は東アジアでミサイル軍縮・軍備管理体制を本気で構築しなければならない。

1987年12月、米ソは射程500~5,500㎞の地上発射式ミサイルの保有を禁じる中距離核戦力全廃条約(INF条約)を締結した。その後、東アジア・西太平洋地域においては今日まで、INF条約に拘束されない中国が同種ミサイルの配備について米国を圧倒することになった。

米国は2019年8月になって同条約から離脱し、中国との間のミサイル・ギャップを埋めるべく、20年代中葉頃から東アジアに地上発射式の中距離ミサイルを配備しようとしている。中国のみが圧倒的な数のミサイルで日本を含む近隣諸国を射程に収めている状況は決して正当化できない。だが、米国が東アジア・西太平洋へ中距離ミサイルを多数配備すれば、中国も米国と同等かそれ以上の数のミサイルを追加配備して対米優位を維持しようとするだろう。ロシアも米国のミサイル配備に対抗する構えを見せている。ミサイル開発を続ける北朝鮮はもちろん、日本や韓国も含めた東アジア全域でミサイル軍拡が進むだろう。第1次世界大戦を思い起こすまでもなく、通常兵器の分野では量の均衡が戦略的安定につながるとは限らない。私は、将来、東アジアが世界の火薬庫になる、という悪夢のシナリオを恐れる。

今日の東アジア・西太平洋地域で少なくとも米国、中国、ロシアがINF条約に類似したミサイル制限条約を締結することは、まさに急務である。今日の中国は冷戦末期の疲弊したソ連ではない。米ソ間には軍事面でパリティが成立していたのに対し、中国は少なくとも戦略核の分野で米国に圧倒されている。台湾をめぐる情勢が緊迫化しつつある中、自らの持つ中距離ミサイルを一方的に削減することは中国共産党指導部にとってまさに「存亡に関わる」問題となろう。

アジア版INF条約に向けて扉をこじあけることが可能であるとすれば、日本が米中の間で触媒の役割を果たした場合のみだと私は考える。米国は地上発射式中距離ミサイルを開発することはできても、中国の海軍力や内陸部のミサイル部隊に有効に対処しようと思えば、当該ミサイルを第一列島線上に配備する必要がある。米国はそこに領土を持たないため、同盟国・パートナー国の領土にミサイルを展開するしかない。

米国政府は地理的に有望であり、政府が同盟強化を唱える日本に期待していると思われる。実際には、日本も米国のミサイル配備をおいそれと受け入れられるわけではない。日米安全保障条約は日本国における米軍の駐留を認めているが、日本政府が米軍によるミサイル持ち込みに対して明確な形で反対の意思を表明し、米国に協議を申し入れれば、米国もそれを無視できない。この立場を利用して、日本はアジア版INF条約を締結するよう米中に迫るのである。日本政府は米中間で交渉が行われるべき一定の期間、在日米軍基地への地上発射式中距離ミサイルの配備に関して判断を保留する。中国がいつまでも交渉に応じなければ、中国の目と鼻の先にミサイルが配備される可能性は高まる。

日本政府は米中や必要に応じてロシアにも働きかけ、ミサイル軍備管理体制の実現を妨げる障害を取り除くべく、積極的な外交を展開すべきである。日本が主導して韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と連携すれば、米中に対するレバレッジは格段に大きくなる。そのためにも日本は、過去の侵略と植民地支配に対して謙虚に向き合う姿勢を持ち続けなければならない。また、東アジアでのミサイル軍拡はロシアの動向を通じて欧州方面にも悪影響を与えるだろう。欧州のミドル・パワーと日本が連携する意義も非常に大きい。

◆日中は尖閣周辺を相互立ち入り禁止区域とせよ

最後に、領土問題を管理するために日本政府と中国政府が新次元の協定を締結することを提案する。尖閣諸島については、米国政府は近年、日本政府の要請に応じる形で日米安保条約第5条が尖閣諸島をカバーすることを繰り返し表明してきた。だがそれは、尖閣有事において米軍がいかなる場合でも自衛隊と共に中国軍と戦う、ということを意味しているわけではない。また、2014年4月にオバマ大統領が尖閣諸島は「日米安保条約の適用対象になる」と明言して以降も、中国海警局による尖閣諸島周辺への領海侵犯は減少する気配は見えない。海上保安庁と海警は今のところ、現場海域で双方が慎重に対処している。しかし、偶発的な理由を含め、両者が衝突する可能性は毎日、目の前にある。一方で、日本国内では、バイデン政権が中国との対決姿勢を鮮明化させるのに力を得て、尖閣諸島に建造物を造るべきだという声が徐々に大きくなっている。

仮に日本が尖閣で建造物を造ろうとすれば、中国が妨害しようとする結果、日中が物理的に衝突する可能性は極めて高い。そのような愚かな事態は米国も望んでいないはずである。尖閣有事を予防し、その結果として米中が軍事衝突する可能性をなくしたければ、日本と中国の間で衝突の原因を除去するという根本的な解決が不可欠である。

尖閣諸島について日中間に領土問題が存在することを日本政府が公式に認め、日中双方が領土問題を棚上げしたうえで、両国が尖閣諸島周辺の領海および接続水域に相互に入らないことを取り決めるべきだと提案する。現在まで、日本政府は「尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題は存在しない」という立場を堅持している。実効支配していると言っても、日本政府は過去何年もの間、尖閣に上陸することさえ控えてきた。領土問題の存在を認めても、日本が実質的に失うものは何もない。尖閣が係争区域であることを認めれば、日中が相互に「不入」を取り決めるのに十分な理由となる。中国の海警は多くの場合、日本漁船の立ち入りを理由に尖閣周辺の海域へ入ってくる。日本側が入らなければ、中国側も入ってならないのは当然である。尖閣の周辺海域を日中相互に「不入」とするディールは、米国にとっても悪い話ではないと考える。(主筆・八牧浩行

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