<原爆忌>「核戦争に勝者なし」唯一の被爆国・日本は核禁条約に参加を―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年8月8日(日) 6時0分

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広島、長崎は「原爆忌」を迎えた。76年前の夏、2度にわたる米軍の原子爆弾投下により、20万人を超える市民が犠牲になった。唯一の被爆国、日本は核軍縮に向けた理念を共有する姿勢を打ち出す必要がある。

広島、長崎は「原爆忌」を迎えた。76年前の夏、2度にわたる米軍の原子爆弾投下により、20万人を超える市民が犠牲になった。多くの人が今なお放射能による健康被害に苦しむ。

核戦争のリスクが高まる中で、どこまで抑止力が機能するのか。危機を回避し、核軍縮に向けた外交努力を尽くすことが重要だ。核兵器禁止条約はその出発点となりうる。唯一の被爆国、日本は理念を共有する姿勢を打ち出す必要がある。

 80年代初めに約37万人だった被爆者は現在、約12万7000人。この1年で9000人近くが亡くなった。被爆者の平均年齢は84歳近く、「被爆者がいない時代」がいずれ訪れる。悲劇を世界に伝える役割はこれから、戦争を経験していない世代が担う。

米国ロシアに加え、中国やインド、パキスタンなども核を保有し、軍拡の流れが拡大している。イスラエルのほか北朝鮮、イランも核を保有するに至ったとされる。多くの戦争がささいな摩擦や誤認、過信などから生まれた歴史の教訓を顧みれば、危うさに変わりはない。

こうした複雑な状況下、日米両国は今年の首脳会談で、「台湾」に関与する方針を共同声明に入れた。1972年の日中国交正常化して以来初めてという。

日本政府は憲法の解釈を限定的とはいえ集団的自衛権を行使できるよう変えている。台湾有事になれば、米国から関与を求められるだろう。米国内では、中国への抑止力を高めるために、中距離弾道ミサイルを日本に配備する構想まで取り沙汰されている。大国の国力の争いに、日本はどう距離を保ち、ルール主導の秩序を築くか。このままではリスクが大きいと懸念せざるを得ない。

今年6月、核の2大国である米ロの首脳会談が開かれ「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない」との一文が声明に盛り込まれた。1985年に当時のレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が交わした誓いの言葉を再現したというが、核保有国は肝に銘じてもらいたい。

 米ロを含む核保有国は、核不拡散条約が定める軍縮交渉義務に背を向けている。それでいて、新興国の核開発は許さぬという身勝手な態度が、軍備管理の混迷に繋がっていると思う。

 米ロは声明の後、高官協議を始めた。これを契機に、中国も入れた交渉を進展させるべきだ。バイデン米大統領は核の先制不使用宣言を実現させて、中国との対話機運を醸成してもらいたい。この宣言をオバマ政権が検討した際、日本政府は反対した。「抑止力を弱める」との理由だが、核の恐怖で核を制する思考にとらわれないようにしていただきたい。

日本の役割は、米中の橋渡し役として対話を促すことではないかと思う。北朝鮮の「核」管理を包含した「北東アジア非核地帯」の構に向けた長期的道筋を探る練るべきだろう。

非核保有国と国際世論が促した核兵器禁止条約が、今年発効した。不拡散条約を堅持する核保有国は核禁条約を拒んでおり、日本もその立場だ。来年は核禁条約の初の締約国会議があり、広島・長崎の被爆者、核実験被害者、各国代表、NGOなども一堂に会する。唯一の戦争被爆国の政府代表の参加が望まれる。オブザーバー参加の形でもいいと思う。

 

<直言篇169>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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